テマリと、サクラが出かけることになったのは、最終日の1日前のことだった。
すべての試合も中忍試験も終了し、役員であるも後片付けだけとなり、暇も出来たおかげで三人水入らず女同士で出かけることになったのだ。
「甘味、甘味。」
はうきうきで鼻歌交じりに言葉を反芻している。テマリがに奢ると言うことになったため、楽しみにしているのだ。
「、最近そればっかりよ。」
サクラは呆れたように言っていたが、は今回模擬戦は引き分けだったが、コンビ戦でサクラと共に優勝したため、他にも何人かから甘味を奢ってもらえる約束になっており、楽しみで仕方がないのだ。
「私は妹はいないが、年下の妹がいたらこんな感じなのかも知れんな。」
テマリはもう呆れを通り越して、年上の余裕を醸し出している。とはいえ、正直年齢は2つ3つし変わらない。
「どこが良いの?」
「あそこー!まだ入ったことがないの。月餅。」
はサクラに問われて、道先の一件を指さす。
簡易の店舗だが広々としておりきちんと座れる席がおり、落ち着いた茶屋と言った感じだ。木の葉ではあまり見ない月餅が食べられると言うことで有名らしい。
「月餅か、食べたことあるか?」
テマリは食べたことがないらしく、首を傾げる。
「ない−。だから食べてみたいんです。」
は日頃は気弱なくせにゆったりとはしているが、力を込めた声で言った。
「こういうときだけははっきりしてるんだから。」
いつもはサクラが決めないと何も進まないほどに優柔不断だというのに、甘味に関してだけは目がないのだ。
楽しそうなを先頭に茶屋に入り、奥の席へと座る。落ち着いた中華風の店内には月餅の他に桃饅などが並んでいて、雰囲気も良かった。
まず最初にジャスミンティーが出てくる。
「毎日甘いものって体に悪いんだからね。昨日もイタチさんと食べ歩いてたんでしょ。」
サクラはちくりとに言う。
連日イタチと共に甘味食べ歩きの旅をしているのはサクラも聞いている。は小食で甘味を食べると普通の食事を食べられないので、最近甘味が主食とかしている。それを揶揄したが、は甘味のメニューで夢中で、全く聞いていない。
「あー、月餅と桃饅のセットがある。美味しそう。」
「聞いてるの?」
サクラはため息をついて、もう脱力した。の目は完全にメニューの甘味に向いていて、何も気にしていない。
「…なんか、おまえら案外不思議なコンビだな。サクラの方が断然強いのかと思いきやそうでもない。」
テマリはそんな二人のやりとりを見て、苦笑する。
コンビのトーナメントに出るときの申請も、サクラがを引きずるような感じだったたし、試合自体もサクラが中心になっていたが、どうやら決定権は見る限り案外イーブンらしい。サクラが引きずってすべてが終わるというコンビではないようだ。
「だって、根本的にはに勝てないし。」
本気でに逃げられれば、サクラは敵わないだろう。だからを無理矢理にでも引っ張れた場合は、進んでは行きたくないが、まぁ思い切り拒否するほどではないと言う心持ちと言うことだ。サクラの願い事でが本気で逃げることはほとんどない。
逆にが望みを口にすることは少ないため、サクラは多少妥協してもそういう時はついて行くことにしている。
「イタチにも月餅持って帰ってあげよう。」
はにこにこしてメニューを選定している。
しばらくすると注文をとりに店員がやってきて、それぞれが注文を頼んだが、は持ち帰り用の分を別に頼んでいた。
「本当にイタチさんも甘いもの好きよね。」
サクラは呆れたように机に肘をついてに言う。
「うん。好きだよ。私も好き。」
「おまえら、本当に噂通りだな。」
テマリも興味深そうにを見た。
イタチがダルイとの模擬戦に出たこともあり、両者共に今では他国の忍からも人気が高い。そのためか、一気にイタチに恋人がいるという話は広がった。もちろんそれには落胆も含まれていたわけだが、二人が揃って仲良く食べ歩きをしている姿を見て諦めたものも多かったと聞く。
「木の葉では有名カップルよね。しかも親公認。」
サクラは店員に運ばれてきた最初の月餅を見ながら言う。
「そ、それはイタチは父上の教え子だから…」
はそれに真面目に反論した。
親公認と言えば聞こえは良いが、元はイタチがの父である斎の教え子であったところからすべては始まっているのだ。
「でも同棲してるらしいじゃないか。」
「え、て、テマリさんどうしてそんなこと知ってるんですか?」
「秘密だ。」
「隠すことじゃないでしょ?本当のことなんだし?しかも親公認で同棲。」
「だ、だって…」
二人に詰め寄られ、は赤くなった頬を押さえる。
別に恥ずかしいことをしているわけではないし、親も公認なのだが、面と向かって言われると恥ずかしくなってくる。きっとテマリに言ったのはナルト辺りだろう。
「ってかどこまで行ってるんだ?相手は年上だろう?」
「それが行くところまで言ってるんですよ。」
「サクラ!」
「やっぱりそりゃそうか。相手は二十歳を超えているし、もうも16歳らしいしな。」
を置いてきぼりにして、テマリとサクラは恥ずかしげもなく話を続けていく。
「でもどうなんだ?うちはイタチはいろいろな噂があるが、どこが好きなんだ?」
テマリは真剣な顔でに問う。
確かにいつも任務をしている時のイタチは澄ました顔の手練れで、別段ふざけるようなタイプでもなければ、真面目に任務を淡々とこなすタイプだ。プライベートではやはり暗部、しかもうちは一族のエリートと言うこともあってなかなか他人とすぐにはうちとけられないイメージだ。
実際に暗部でも最近はいろいろな人とコミュニケーションをとるようになったが、当初はかなり揉めていたらしい。
「もったいぶってないで言いなさいよ。」
「…え、や、優しいところとか、」
は俯きながら、ぽつりぽつりと話す。
「戦っている時の真剣な、顔が、好き、かな」
言いながら、顔から火が出そうだ。いつも好きだ好きだと思っているけれど、改めてどこが好きかを言葉にするのは難しいし、恥ずかしい。
「をおちょくるのって本当に楽しいわ」
サクラは隣からの赤くなった頬をちょんちょんとつつく。
「あっはは。くせになりそうだ。」
テマリも明るく笑って思わず言う。
「もー二人揃って、酷い。」
「だって?わたしは縁がないんだから、話題になってくれても良いじゃない。」
「悪い悪い。でも恋愛ごとにまだ疎くてな。」
がむくれて反論すると、サクラはひらひらと手を振り、テマリは肩を竦めて一応形ばかりの謝罪を口にした。
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