一応中忍試験準備委員会の代表だったダルイの話と、雷影エーの号令を最後に、五大国合同中忍試験は無事に閉会した。
「じゃあ、わたしは我愛羅君の護衛で、いったん風の国に行ってきまーす。」
は風影の護衛として貸し出される事になったため、風の国の国境近くまで我愛羅と一緒に行くことになった。砂よけのためフード付きの着物を片手にひらひらと手を振る。
「俺は雷影の護衛だからな。」
イタチはちらりと後ろを振り返った。ちなみに我愛羅の兄であるカンクロウは水影を、の父である斎と雲隠れのダルイは火影をそれぞれの国に送ることになっていた。
お互いの手練れを交換すること、それは五大国の同盟と信頼関係をより強固にする意味がある。
「イタチも気をつけてね。」
「あぁ、おまえもな。」
「わたしは大丈夫だよ。我愛羅君強いし、テマリさん一緒だし。」
一応影には自国の忍が一人、そして信頼の証として交換された他国の忍一人がつくことになっている。はテマリと一緒だ。対してイタチは雷影の護衛であるシーという情報、感知の忍と一緒だった。
「護衛なんていらんと言うのに。」
雷影のエーはぽつりと悪態をつく。
「こっちからはうちはイタチを貸し出してるんだ。文句はあるまい。」
綱手はエーを見て呆れた顔をする。
火の国と雷の国は二大巨頭と言っても良いほど他の国とは国力に差がある。その意味でも木の葉隠れの里から護衛として希少な能力を持つうちは一族のイタチを、代わりに雷影の右腕と言われるダルイを交換することは非常に意味のあることだった。
必ず返してくれるという確約がなければ、常ならばそんなことは出来ない。
「エーのおじちゃんってば相変わらずうるさいなぁ。」
の父の斎はにっこりと笑ってエーに毒を吐く。
上機嫌の原因は模擬戦でエーから10分逃げ切って見事勝利を収めたからだろう。だが、10分逃げ切れば勝ちなんて何とも言いがたい勝利だ。
「なんでおまえが来んのだ!」
「だっておじちゃんに殴られるの嫌だし?僕一応火影候補者だし?」
「都合の良いときだけ火影候補者などと言うな!逃げ回っていた阿呆が!」
「…否定できないところが痛いな。」
綱手は斎とエーの言い争いに口を差し挟んで、ため息をつく。
エーとしてはもっと早く斎が影の名を持つだろうと思っていたのだろう。確かに実力的には相応しかろうが、彼はまったく望んでいない。綱手が生きている限り、彼が火影となる事は絶対にないだろう。
「もしばらくばいばーい。ちゃんと帰ってくるんだよ。」
斎は娘のを思いっきり抱きしめ、頭を撫でる。
「うん。父上もイタチとわたしがいないからって書類さぼっちゃだめだよ。綱手様の言うことはよく聞いてね。」
は父親の大きな背中をぽんぽんと軽く叩いて返した。
「ってばひどーい。」
斎は口だけ反論したが、娘が可愛いのか満面の笑みだ。
そんな斎に呆れと哀れみと悲しみの入り交じった視線を向けたのは、何もイタチだけではない。何が悲しくて娘にそんな親みたいな注意をされているのだ。斎自身が親だろうに。
「本当にそっくりだというのに、性格が違いすぎる残念な親子だな。」
エーもきちんと父親に注意する娘を見て思わず哀れみの視線を送る。
「逆だろ。が真面目に育っただけだ。」
綱手は訂正して、腰に手を当てて笑った。
元の性格が斎のようなふざけたものであると考えたら、むしろ残念な親子と言うよりは、残念なのは斎だけで、は成功したと言えるだろう。
「いやぁ、模擬戦は完敗でした。」
ダルイはイタチの方へ進み出て、頭をかく。
「いえ、貴方の雷遁はすばらしかった。俺は雷遁が苦手なんで、これから参考にしたいと思います。」
イタチは礼儀正しいダルイに頭を下げて言った。
「いや、そんな。ご謙遜を。」
「いえ、流石は雷影に雷を刻むことを許されただけある。出来ればご助言をいただければと思います。」
「でしたら、今度俺も火遁と風遁、教えて貰っても良いっすか?」
「俺なんかで良ければ。」
「なんか君たち、仲良しなのに超お堅いね。もっとフレンドリーにしゃべりなよ。」
ダルイとイタチのやりとりに、斎がくるりと振り返って軽い調子で口を差し挟む。
「おまえはもう少し礼儀をわきまえろ!」
「いたい、いたい、エーのおじちゃん痛いぃい!」
「誰がおじちゃんだ!おまえももう良い年だろうが!!」
斎の頭をがしりと掴んでエーが言い捨てる。
確かにミナトが生きていた忍界大戦の頃、斎はまだ14,5歳でエーを“おじちゃん”と呼んでもおかしくない年頃だったが、今となっては斎も三十路。エーも五十代だ。童顔でももう斎もおじちゃんと呼ばれておかしくない年齢だ。
しかし十年たったところで人というのはろくに変わらないと言うことだろう。
「少しでも仲良くなったならば、この中忍試験を企画した意義がある。」
我愛羅は真剣な顔つきで頷き、目を細めた。
五大国合同の中忍試験を提案したのは何を隠そう彼だった。風の国と火の国で行われた中忍試験でナルトに救われた我愛羅としては、同じように他の忍たちのも機会を与えたかったのだろう。実際にこの戦いで仲良くなった忍はたくさんいる。
「どうせ、すぐに雲隠れで会うだろうしね。」
は斎になで回されてぐしゃぐしゃになった自分の髪を撫でつけて元に戻す。
忍界大戦において本陣は雲隠れに置かれる予定で、今回五影たちの護衛につき、交換された忍は皆手練れであるため、雲隠れに集まるだろう。ならば、顔を合わせるのも決して遠い未来のことではない。
ましてや用意のために希少な血継限界を持つ忍は他里からも引っ張りだこである。
「綱手、約束通り忍界大戦に先立ち、姫を派遣してくれるのだろうな。」
エーは確認のように尋ねる。
本陣を雲隠れに置くこともあり、透先眼のように有益な感知の忍は先に雲隠れに派遣し、用意をすることになっている。もちろん任務の関係上すぐにというわけには行かないし、透先眼使いは木の葉にたった二人、斎との親子しかいないため、他の里からも貸し出しの依頼が来ていた。
同盟を組んだ限り、彼らと里に不利益が無い限りは、出し惜しみをせずできる限り貸し出すのが信頼関係構築のためには必要だった。
父親で透先眼を完全に使いこなしている斎は火影候補者と言うこともあり、綱手の護衛から外すことは出来ない。里のためにも一人は必ず手元に残すべきだ。
そのため、貸し出すなら娘のと言うことに話し合いではなっていた。
「わかってるさ。ただ水影からも依頼があったからな。そっちを吟味してからってことになる。」
綱手は直接的な回答は避けたが、それでも他国に貸し出すには前向きだった。
「神の系譜の件も、あるからな。」
既に、土の国の神の系譜である堰家の訃報は、他の影にも伝えられている。暁と雷の国の神の系譜、麟は手を組んでいるらしく、堰の当主夫妻を襲ったのだ。夫妻は重体で昏睡状態、まだ4歳になったばかりの息子の椎のみが無事だった。
堰家は火の国の神の系譜である炎一族とも縁戚関係にあり、当主はの母の従弟に当たる。
「とはいえ、他の神の系譜の事なんて、同じ神の系譜だってわかんないけどねぇ。」
斎はエーと綱手の会話に水を差す。
同じ神の系譜と言っても、正直能力の性質も全く違う。同じなのは直系の一系統が恐ろしい尾獣並みの力を持っていると言うことだけだ。尾獣がそれぞれ違う能力、力を持つように、神の系譜も同じだ。
も神の系譜だが、正直、他の神の系譜の事なんて何も分からない。
「ひとまず、姫の貸し出しは必須だ!本陣を作るに透先眼は必要だ。」
エーは仕切り直すようにはっきりと言う。
「えー、エーのおじちゃん。、虐めないでよ?」
斎は娘のを抱きしめて、エーから逃れるように後ろに下がる。
「父上こそ、書類しなくて綱手様とイタチ、虐めたら駄目だよ。」
は父親の腕の中から至極真面目な顔で心配そうにそう言った。途端に綱手とイタチが堪えきれなくなって、吹き出す。
「おまえ、いつか娘にその地位をとられるぞ。」
エーも思わず、出会った昔から変わっていない男を眺めながら、呆れた口調で言った。
怠惰