ふわりと風が髪を撫でるが、それが酷く湿り気をおびている気がして、は僅かに目を細める。水の薫りが強いのか、が乗っている犬神も何度も鼻で匂いを確認していた。






「この辺りなら霧も晴れているから、ここで野宿をする。」







 イタチは別の方向を向いているに声を張って言う。





「みんな、危険だからはぐれるんじゃないぞ。」





 ヤマトも濃い霧に警戒しているのか、全員に声をかける。

 一応危険なのでイタチが周りに結界を張り、その外にも罠を仕掛けて、少し早いが食料を探していたネジとリーが帰ってきたと同時に火をたき、食事の準備をする。





「魚ばっかりだってばよ。」





 リーが捕まえてきた食べ物を見て、ナルトは言う。

 随分と大きな魚も含まれていたが、幸いなことにイタチとが火遁が得意なので、間違いなく丸焼きだろう。水は水遁でいくらでもどうにでもなるからそれほど悪い野宿ではなさそうだった。ついでに野宿する場所はヤマトが作り出した即席の家である。





「木の葉の近くなら猪とかとれるんだろうけど、この辺り魚しかいないみたいね。」






 サクラも大量の魚を見て、言う。

 ここら辺りは湿地帯で、あまり猪や鹿などの肉類はとれそうにない。もしかしたらいるのかも知れないが、霧も立ちこめていて敵にあっても危険なため、不用意に動かない方が良い。





「霧晴らす?」 





 は霧に警戒している面々に言う。

 この一体の霧ぐらいなら、が白炎の熱で気流を作り、風遁で吹き飛ばせば簡単に晴らすことができる。だが、そんなことをすれば敵に自分はここにいると言っているようなものだ。





「戦いの時は仕方がないが、今はやめておけ。」





 イタチはの頭をぽんと撫でて横に首を振る。

 水の国に入っているとはいえ、暁の内通者はそれぞれの里にかなりの量いるらしい。不用意な行動は避けた方が身のためだ。ましてや水の国は内政不安定で有名である。何があるかは誰も保証が出来なかった。






「道は間違ってないんですか?」






 サイが少し心配そうに言う。

 この霧では、の透先眼の視界もあまり当てにならない。コンパスが地場によって狂うこともあり、細かい確認は必要だった。





「先ほど灯台を確認した時には大丈夫そうだった。次の灯台で水影からの迎えが来る予定だから大丈夫だろう。」





 イタチはサイの心配を理論的に宥めて、大小様々な魚を見据える。





「こんなに食べられるか?」

「…燻す?」





 は少し考えたが、生憎ものを凍らす術は持っていないので、代替案を提案する。







「燻製なら悪くはないかも知れないね。」




 サイも賛同したが、そもそもこんなに沢山の魚を保存食とする意味がそもそも謎だった。明日の朝には霧隠れの里の忍とも合流できるため、要するにとりすぎである。

 ひとまず全員がヤマトが作った即席の小屋に入り、火をともす。

 サクラが率先して料理をしようとしたが全員の遠慮の結果、リーとネジが担当することになった。は小型の犬神と一緒に家に入ると疲れていたのか、すぐに白い犬神の毛並みに埋もれるように横たわった。イタチもの隣に座っての自分の膝を貸す。

 ナルトはまだ元気そのもののようで、料理をするリーを邪魔したり、退屈そうに巻物を眺めていた。

 ヤマトはそんなナルトを見張りながら、地図を確認する。遠目のがいるので基本的にほとんど道を迷うことはないが、それでも合流地点の確認くらいは必要だった。





「霧隠れの里ってどんなところなんだろう。」





 うとうとしながらがぽつりと呟く。




「確かに。俺も全然知らねぇってばよ。」






 ナルトもの言葉に賛同した。

 火の国は風の国と同盟関係にあるため、それなりに木の葉隠れと砂隠れの里は交流があるが、それ以外の里となると話は別である。ましてや霧隠れの里は秘密主義で有名で、いったいどんな人物が水影に立っていたのか、綱手ですら随分前の二代目水影の噂ぐらいしか知らず、正直5代目水影のメイには戦場ですら会ったことがなかったそうだ。

 忍刀7人衆は確かに有名だ、それも今となっては存在しておらず、所詮伝説でしかない。






「島だからな。灯台に行けば迎えはおそらく船だろう。」








 イタチは眠たそうなの背中を優しくぽんぽんと叩く。





「海?まだ、本物見たことない!」




 は眠気を忘れたのか、ばっと顔を上げる。

 基本的に木の葉は内陸であるため、海がない。せいぜいあって湖くらいのもので、海まで行くためには結構な日数がかかる。は風の国には任務などで何度か訪れたことがあるが、正直水の国には行ったことがなかったし、海も実は見たことがなかった。






「海産物美味しいから好きなんだよね。でも、あんまり木の葉だと食べられないから。」






 は紺色の目を期待に輝かせる。

 小食の割に幼い頃から良いものを食べてきたは、案外グルメだ。もちろん料理はほとんど出来ないし、インスタント食品でも文句は言わないが、美味しいものには結構目がない。

「俺、魚より肉が好きだってばよ。」





 ナルトは海産物を喜ぶに言う。







「そんなことないよ。わたしは肉より魚が好きだよ。」

「いんや、ぜってー魚より肉だってばよ。」

「魚―」

「肉!」







 くだらない口論を始めたとナルトを見て、全員がため息をついた。


濃霧