灯台まで迎えに来たのは長十郎だった。





「こ、こんにちは、場所までは僕が案内しますね。」




 礼儀正しく頭を下げた彼は、船に乗るようにイタチたちを促した。

 辺りは霧が立ちこめており視界は全く良くない。お互いの顔が近くでやっと分かる程度の距離で、お化けが出そうに暗く、遠くから響く水音が怖さを倍増させる。





「なんか、ちょっと怖いね。お化けでそう。」

「やめてよ!」







 の言葉に過敏に反応したサクラが首を振る。

 はもともと透先眼を持っていて視界が良いせいか、あまり幽霊などを怖がっていなかったが、サクラはそうではない。だが、もっとそうではない人間がいた。





「お、おばけぇ??」





 ナルトは酷く狼狽えた様子でサクラ以上の反応を返す。





「そういえば姫の蒼一族は、昔は神社の神主をしていた一族だったね。その姫が言うなら、もしかしたら…。」





 ヤマトが冗談でナルトを脅すように言う。





「冗談やめてくれってばよ…まさか、なぁ、…。」

「あ、そういえばそういう噂、僕も聞いたことがあります。なんか昔斎様が幽霊に襲われた人を助けたとか。」






 怯えるナルトにリーが悪気なく拍車をかけると、サクラもその話を聞いたことがあったのか、ぽんと手を叩く。






「あ、それ私も聞いたことあるわ。確か白いひらひらしたお化けだったとか。」

「それって、父上が暗部のみんなと行った肝試しでしょ?確かイタチも行ってたよね。」

「あれはな、斎先生の悪のりだよ…」





 イタチはナルトの様子を眺めながら苦笑した。

 確かにと父親の斎は昔から木の葉の里近くの泉に住み、清廉な一族として予言を生業としてきたし、神社を守ってきているのも本当だ。とはいえそんなことはもうかれこれ50年以上前の話だ。斎とが神社の神主だったことは一度もない。

 そして今話題になっている暗部のお化けの話は完全な斎の悪のりである。





「白いひらひらは斎先生の式紙で、おもしろがって脅かしただけだよ。」




 墓場で肝試しをしていて、悪のりをした斎が式紙を使って脅かしたら、1人本当に失神したという話である。仕方ないから責任をとって斎がその失神した忍を背負って病院に連れて行っただけで、助けたわけでもなく寧ろ原因は斎である。

 だから幽霊の話は、ただ火影候補に挙げられるほどの実力故に神のように崇める人間がいることから、そう言った噂に勝手に尾ひれがついた結果だ。





「なんだ〜びっくりさせないでくれってばよ…」






 ナルトは事の真相にほっと安堵の息を吐く。






「何?あんた、怖いの?しっかりしなさいよ。」

「ち、違うってばよ!ただそんなのがいるなら怖がるだろうなって思っただけだってばよ。」

「怖くないよ。悪いのだったらわかるもん。」

「え?」






 の少し的のずれた反論に、全員の視線がに集まる。






「そういえばおまえ、昔、ここは赤いとか言って泣いてたな。」






 イタチはなれているのか平気そうにさらりと返した。






「なんとなくはわかるよ。ここが例えばたくさん人が死んだところだなぁ、とか。」

「まじでぇえ〜」








 ナルトは泣きそうな情けない声を上げて怯える。だが、おそらくナルトが考えているような意味ではないだろうとイタチは理解していた。

 も斎も基本的に透先眼でその場所の過去が見える。見えなくても何となくその場所で何が起こっていたかぐらいは分かる。それで無意識に汚れの多い場所や、かつての戦場を避けているだけだろう。幽霊がいるから避けているわけではない。

 だから幼いも“黒い”と泣いたのではなく、“赤い”−要するにおそらく赤い血にまみれた何かがこの場所であったと泣いていたのだろう。

 だが面白いから、イタチは黙っていることにした。





「…でも予言の力は本当の話ですよね。」





 長十郎が初めて、おずおずと口を開く。

 蒼一族の噂はその希少な血継限界と共に他国にもとどろいている。長十郎もそのたった二人の生き残りの一人が自分と同じ年頃の少女だと聞いた時は非常に驚いたものだった。






「うーん。そうなんだと思うよ。わたしはほとんどないから、わかんないけど。」





 は生憎、予言の力はほとんどない。せいぜい勘が良く当たる程度のものである。







「…」








 イタチは明るく長十郎と話しているを見て、小さく息を吐く。

 は知らないし無意識だったようだが、イタチは実際にが予言をしたところを見たことがある。3年前、彼女はうちは一族の滅亡に際してほぼ確かな予言をしていた。そういう点ではもまた、間違いなく蒼一族の末裔なのだ。






「父上は昔すごいあててたらしいしね。今は人が傷つくからやめたみたい。今も見えるみたいだよ。だから、アスマさんにも注意していたし。」







 はそう言って目を伏せる。

 予言というのは避けることも出来るが、必ずしも避けられる物では無いらしい。いろいろな選択の元に道筋は決まっているものらしく、結果的にある選択を避けたとしても結局は同じ結末に行き着くこともあり、そういう点では運命というのは予言があっても代えがたいものなのかも知れないとは思う。

 だからこそ父の斎も、他人に多くの予言をするのは辞めたのだろう。

 しかし今でもたまに、唐突に理由もなく配置をかえたり、任務に行く忍を止めることがあった。そういった時、綱手も理由なくその変更を受け入れる傾向にあるから、間違いなく今も能力は健在だ。





「なんか、でも、斎様ってお会いした時に随分印象が違ったんで驚きましたけど。」






 長十郎も五影会談に出てきた斎を直接見ている。もちろん雷影のエーに負けじとふざけて漫才のようなやりとりを繰り広げているところもだ。







「確かに、斎さんって変だってばよ。」






 ナルトも長十郎の控えめな言葉をあっさりとストレートに改変する。







「まったく、姫が斎様に似なかったことだけが唯一の救いだよね。」







 ヤマトも同意をして、大きなため息をついた。

 暗部所属のヤマトなので、斎に振り回されているのはイタチほどではなくても一緒である。特に真面目なヤマトは斎に無理難題を押しつけられることが多かった。それでもあのキャラクター故に憎めないからこそ、彼には人望があるわけだが。





「でも幻の蒼一族の方や、うちはや日向一族、人柱力の方々と名だる木の葉の方々と今回任務が出来るなんて、光栄です。」








 長十郎は素直な笑顔を全員に向ける。

 今回の任務は実際には人柱力であるナルトと作戦行動に重要なを雲隠れまで安全に輸送することも胸としている。また協議のために神の系譜の調査の後、水影であるメイも共に雲隠れまで移動する予定だ。長十郎も既にその目的を聞いているのだろう。護衛は重要な意味を持っている。






「あ、そういえば、貴方は翠の人を見たことがあるの?」






 は今回の任務の目的の一つである水の国の神の系譜・翠のことを、長十郎に尋ねる。

 にとっては形こそ違えど、神の系譜は自分と同じ存在と言っても良い。興味があるのは当然だったが、長十郎は少し困ったような顔をした。





「すいません。僕も詳しいことは噂しか。水影様は少しご存じらしいのですが。」

「そ、っか。そうだよね。」





 炎一族は里と協力する珍しい神の系譜として有名だし、その規模でもよく知られている。だが反面要するに他の神の系譜は里とも協力していないし、規模も小さいわけだ。風の国の飃を見ても分かるとおり、一族という形式すらないところもあり、滅びたと言われる翠を知らないのは当然だった。





「15年くらい前に翠の当主が里を襲ったのは、事実なんですが。」

「襲った?尾獣みたいな話だな。」






 黙っていたネジが首を傾げて口を開く。







「えぇ、その男は龍を持っていたと言うんです。すごい力で、当時は…だから、水影様は」






 長十郎が悲しそうに言うところから、犠牲者も出たのだろう。

 神の系譜の直系は皆例外なく莫大なチャクラを持っているし、それを暴走させればおそらく尾獣と変わらない死者が出る。しかも尾獣と違い持っているのは人間であるため、完全に扱ってくるから、敵意をむき出しにされればこれほどに恐ろしい相手はいない。





「龍、」





 は小さく言葉を反芻してイタチを見上げる。それは鳳凰を持って生まれたにも似た存在の話の気がした。


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