「なんか、びりびりする。」








 揺らめく水面のような水色の結界は、他人の侵入を完全に拒んでいるような気がして、は息をのんだ。






「めっちゃわかりやすい結界だけど、敵意がびりびりするってばよ。」









 ナルトも結界が発している敵意を感じ取ったのか、退け腰だ。

 洞窟の中の建物とは思えないほど巨大な広間から続く道に、結界は貼られていた。ただ単に奥へと続く扉の前に、結界が張られているだけだ。なのに、何も分からないはずのサクラでもただならぬ雰囲気が分かるほど、結界とその周囲は異様な何かを背負っていた。





「気をつけて。ここで暗部の一部隊が行方不明になっているのよ。」




 メイがに警戒を促す。




「…一気に破った方が良いのかもしれないが、」





 イタチも嫌な雰囲気をひしひしと感じて、を窺う。





「俺が破ろうか?」





 の鳳凰を持っているため、イタチも白炎を使うことが出来る。イタチは、白炎は元々の能力であるため使うことを好んではいないが、危なそうだしが躊躇いを覚えるのならば、代わりに破っても全く問題無かった。

 だが、は首を横に振る。





「うぅん。わたしが破る。」







 この結界に翠の当主の思いが詰まっているならば、炎の東宮であるが破るべきだ。

 皆が息をのんで見守る中、は恐る恐る結界にその細い指で触れた瞬間、何かの咆哮が聞こえて手を引っ込めた。咆哮は明らかに近くから聞こえており、何かがこちらへ壁を突き破ってやってくる轟音が聞こえて、メイや長十郎が戦闘態勢をとる。





「早く破れ!」





 イタチがに言って、とやってくる音の間にを庇うようにたった。





「わ、わかった。」





 咆哮に一度手を引っ込めてしまったは、白炎の蝶を手に結界を破るべく鱗粉を散らせる。



「なっ、なんだってばよ!?今の、何が来、」






 ナルトがびくっとして腰を抜かしそうになってばたばたしたが、横から轟音と共に現れたものに呆然として、今度こそ本当に腰を抜かした。







「…嘘、」






 も驚きのあまり目を丸くして、それを見つめる。





「…龍。」




 イタチも呆然と目の前にいるものの名前を呟いていた。

 それは目だけでも自分たちの体と同じくらいのサイズがありそうな、巨大な龍だった。大きな青色の瞳が敵意をむき出しでこちらを睨んでいる。巨大な歯をぐっとむき出して威嚇しているその姿は、体が凍り付きそうなほど恐ろしい。白い鱗に覆われた巨大な体躯のほとんどは廃墟の向こうにあり、全く見えなかった。

 体躯の割には小さな龍の手のかぎ爪が、結界を破ろうとしているへと振り下ろされる。





「須佐能乎!!」




 イタチはそれをぎりぎりのところで須佐能乎を使って受け止めた。だがそれでの威力を殺しきれず、ぐっと須佐能乎ごと僅かに石畳に沈む。





「溶遁!!」






 メイが叫んで溶岩のようなものを吐き出した。龍がそれに怯んで一瞬後ろに下がり、イタチたちへと振り下ろされていた龍の手が離れる。






「螺旋丸!!」







 その隙にナルトが螺旋丸を龍に食らわせようとする。だが龍がかっと口を開いて、鼓膜が破れそうな咆哮を上げた。






「ひっ、」




 も含めて全員が耳を塞ぐ。途端にナルトの影分身がすべて消滅した。






「ど、どうしましょう!」






 長十郎は自分の刀を構え、メイに尋ねる。






「こやつはかつて神の系譜とともに里を襲った龍!」

「翠の当主は死んだんじゃないのか!?」








 イタチは敬語も忘れて叫ぶ。

 基本的に神の系譜の先祖返りが持つ神は、特別な理由が無い限り宿主が死ねば消える。基本的に龍を他人が無理矢理操ることは彼らが自分の意志を持っているため出来ないはずだ。

 よって、この龍は知っていて誰かに従っているか、宿主がいるかのどちらかだ。



 イタチの鳳凰のように確かに神の系譜の神を封印術で宿すことは可能だが、鳳凰の同意が必要な上、性質変化があわなければならないし、莫大なチャクラに耐える強さがいる。そんな人間はそうそう見つかる物では無い。







「翠の当主の死体は確認しているわ!」








 メイも報告を受けたことだが、最後の翠の当主の死体はきちんと確認されている。





「そんなこと、今はどうでも良いってばよ!!」






 今はどうしてこうなったかより、今この龍をどうするかの方が重要だ。ナルトは二人を怒鳴りつけて、螺旋丸をまた手に構える。螺旋丸は近づかなくては当てられないが、一つだけ別の方法がある事をナルトは知っている。






!」

「わかってる!」





 はナルトの螺旋丸に白炎の蝶の鱗粉を巻き込ませる。その途端にブーメランのような2本の刃が回転する形態に加わる。





「行くぜ、火炎螺旋丸!」





 ナルトがそれを龍へと投げつける。

 ブーメランのように龍へとそれは一直線に回転しながら飛んでいく。それを龍はなんと手だけで受け止め、そのまま地面へと叩きつけた。





「じょ、冗談でしょう?」




 見ていたサクラは言葉を失う。

 白炎の効果を加えているため、チャクラを焼く効果を付随された螺旋丸である。龍の手は確かに僅かに傷を負ったようだが、体を支えるに全く問題はない程度らしい。

 とナルトもあまりの事態に呆然とするしかなかった。




「…まじかよ、」





 あまりにも巨大で、驚くほどに頑丈だ。

 メイが幼い頃これに襲われたのであれば、操っていた本人の神の系譜を化け物そのものだと思った理由が十分に理解できる。




「し、、どうするってばよ!?」

「どうするって言われても…。」

「おまえ同じ神の系譜だろ!?」

「ナルト!!それ自分にあてはめて自分の胸に聞いてみなさい!」







 サクラはに詰め寄るナルトに言い捨てる。

 確かに同じ人柱力であっても他の尾獣を押さえる方法をナルトが知るはずもないのと同じように、同じ神の系譜であっても他の神を押さえる方法をが知るはずもない。





「じゃあどうするんだってばよぉ〜!!」






 ナルトがパニックになって叫ぶ。

 おそらく結界に触れれば龍が現れるようになっていたのだ。この辺りで消息を絶ったという暗部も間違いなくこの龍にやられたのだろう。一体どこにこれほど巨大なものが隠れていたのか疑問だが、それ以前にこの龍を倒さなければ自分たちが殺される。




「ナルト、落ち着け。おまえは結界を破るを援護しろ。」




 イタチはとナルトの傍に降り立ち、結界の張られている扉の方を指さす。




「え、でも、こいつどうにかしねぇと!」

「そのために俺が呼ばれたんだ。龍の方は俺が何とかする。」

「ど、」







 こんな化け物どうやって、とナルトが問う前に、イタチはとナルトの前に立つと万華鏡写輪眼を発動し、その中に隠されている鍵をたどっていく。







「…そういうことか。」







 は納得したように頷き、イタチの後ろ姿を見てから、サクラにも合図をし、ナルトや近くにいた長十郎を庇うように徐々に後ずさる。

 次の瞬間、轟音と共に、何かがたやすく広間の天井をぶち破った。

 冷たい空気やこもりきっていた湿気や霧を、大きな羽の一振りがすべて風と共に振り払っていく。そこにいたのは巨大な白い鳥だった。

誤認