全体的に白っぽく巨大な炎の塊でゆらゆらと揺れているが、前部が麟、後部が鹿、頸は蛇、背は亀、頷(あご)は燕、嘴は鶏、尾は魚と独特の、今まで誰もが見たことのない鳥の姿をしていた。もちろんの大きさも巨大だと思った龍に負けないほどの大きさをしている。
その翼の一振りで軽く人間など吹っ飛んでしまうだろう。
「なんだってばよーーーーーー!!」
ナルトは思わず驚きのあまりに力一杯叫ぶ。
「鳳凰だ。の。」
イタチはその巨大な鳥−鳳凰の背中から、ナルトの問いに答える。
「の!?」
「あぁ、俺が肩代わりしたって言うチャクラは大部分が鳳凰のものだ。」
の体が弱すぎて自分では支えられなかったチャクラのすべてをイタチが肩代わりしている。その大部分がこの鳳凰のもので、要するにイタチはの鳳凰の人柱力と言うに等しい。
最近では鳳凰を持っているせいか、イタチに対する扱いも神の系譜の直系と同じものになりつつあった。
「え、え?じゃあ、ってば、」
「神の系譜の当主全員が、こういうのを持っているわけじゃないんだけど、何代かにひとりはね。いるんだよ。」
はあっさりとナルトに説明した。先祖だと言われる神を宿すものを、先祖返りと言う。
炎一族の記録では宗主の中に何人かこの鳳凰を持って生まれた人間の記録があり、確かに百年に一度程度だが、例のないことではなかった。最初に神の系譜が龍を操ったと聞いた時、はそれを自分の鳳凰と同じ存在ではないかと思ったのだ。
「でも、普通は、宿主が死んだら、消えるの。」
は龍と鳳凰を見上げて、首を傾げる。
が死ねば、鳳凰は普通、消える。一度が死んだときは鳳凰を残すがために、イタチに無理矢理戻したが、そう言ったことはそもそも鳳凰がよほどイタチを気に入っていない限りできないことだし、性質上の相性や、耐えられる体を持っているかという問題もある。
また、本来のように特別な事情が無い限り、自分が宿した神を他人に貸す意味もない。
『まったく、狭くて湿気ていて気持ちの悪い場所だ。』
少し高い少年の声で、鳳凰は悪態をついて羽を振るう。その途端に熱風が今までの冷たい空気をすべて払いのけ、よどんだ空気を一掃した。
「しゃ、しゃべった!?」
長十郎が驚いたように鳳凰を眺め、言う。
「意志があるの?」
メイも驚いたのか、口元を押さえて思わず声を上げた。
「、おまえは結界を破って、早く翠の当主を探しに行け、」
イタチはを振り返り、短く指示する。
もしも仮に宿主である里を襲ったという翠の当主が生きているなら、どこかにいるはずだ。龍を押さえることも難しいが、宿主自体も莫大なチャクラを持つ神の系譜だ。押さえることはそう簡単ではない。
「わ、わかった!」
は慌てて自分の白炎で結界を押し破ろうとする。
それを見た龍は青い瞳を大きくして、の行動を阻もうとしたが、鳳凰が口から吐いた衝撃波で龍を一瞬にして下がらせた。流石に龍も後ろへと轟音を立てて飛ばされる。
「い、行くよ!」
何とかその隙に結界を破ったは、ナルトやサクラに言う。
「…しかし!」
メイがイタチの方を振り返る。イタチを一人残していくなんてと思ったのだろう。だが、イタチは鳳凰の上から様子を見下ろして、叫んだ。
「と行ってください!宿主が翠の当主なら生きているはずです!!」
龍がいると言うことは、間違いなく宿主の翠の当主が生きていることになる。年齢から考えて40代以上。熟練した神の系譜を相手にするにははまだ経験が不足している。
ましてや性質変化上は、炎は水に弱い。
対してメイは水遁に非常に知識がある上、水に強い土遁の血継限界を持っており、を援護するに適しているだろう。
「わかった!」
メイは声を張って、の後ろをついて結界の向こうへと入って行く。も龍の怒りの咆哮が聞こえて恐ろしさに後ろ髪引かれる思いがしたが、メイに押されるようにして暗い奥へと足を進める。
奥には階段があり、一人しか通れないような通路をの白炎の蝶が放つ鱗粉の灯りを先頭に、ナルトが一番前、、メイ、サクラ、そして一番後ろに長十郎で慎重に降りていく。地下深くと入り込んだのか、イタチと龍が戦う音も、届かない。冷たい相変わらずの張り詰めた空気と白い吐息が辺りを支配している。
「貴方たちが操るものには、意志があるの?」
メイは先ほどとは打って変わった落ち着いた声音でに尋ねる。
が持っている、イタチに封印されていた鳳凰が話したことを彼女は疑問に思ったのだろう。ただの動物のように話せない、もっと野性的な存在だと思っていたのかも知れない。
「あ、はい。」
は小さく頷く。
「わたしの鳳凰は、わたしの年齢に影響されるみたいで、子どもだけど、…わたしをいつも守ろうとしてくれてる。ちょっと危ない時もあるけど、優しい子。」
鳳凰は宿主の死と共に死を迎える。また精神年齢も主に影響されるものらしい。
随分劣化して忘れているそうだが、基本的に長らくの宗主や彼らと共にあった記憶を持っており、の持つ鳳凰は幼い頃からいつもを外敵から守ろうとしてくれていた。イタチと意見が一致して封印されることを認めたのも、イタチが自分と同じようにを守ることを一番に考えているからだ。
でなければイタチも鳳凰に焼き尽くされている。
「俺の九尾とは大違いだってばよ。」
ナルトは困ったように自分の腹を叩く。
「ずっとわたしたちの一族を見守ってきてくれた子だから。」
神話の話が本当ならば、鳳凰は炎一族の始祖そのものだという。長らくの血筋を見守ってきたため、炎の神の系譜に強い愛着がある。鳳凰が炎一族の神の系譜に宿るのも、ある意味で生まれてくる宗主を守るためだ。鳳凰はを何より大切に思っている。
人柱力に無理矢理封じられている尾獣とは違う。
「龍も同じなのかしら?」
メイは少し目じりを下げて誰にでもなく問う。
彼女にとって龍と翠の神の系譜は里を襲った恐ろしい化け物だった。だが、神の系譜が決して化け物でないことを知った。龍もまた意志を持っているのだとしたら、何かしらの意図を持って里を襲った可能性が高くなる。
彼らは恐ろしい化け物ではなく、理由が。
階段を下りて行くにしたがって、冷気がどんどん増していく。先ほどは冷蔵庫くらいだった温度も今は冷凍庫のように冷え切っていて、とても寒い。
メイは階段の壁の端にある呪印を見て、目を丸くする。
「これは、氷結の術ですね。」
一番後ろにいた長十郎が首を傾げてその術を見た。
それは大がかりな忍術ではあるが、霧隠れに伝わる術式の一つで、一体を凍り付かせる作用がある。メイはこの術式を見て、顔色を変えた。
「まさか、ここまで霧隠れの忍が来たことがあるとは。」
この術式は翠の神の系譜の直系により、あの結界が張られる前に、ここにやってきた霧隠れの忍たちがいる。それが決してよい事ではないと、メイは承知していた。
「なんだってばよ!」
先頭に立って進んでいたナルトが、呆然とした面持ちで足を止める。階段の先の降りた場所には少し開けた場所があり、サクラもその光景を見た途端に「ひっ」と悲鳴を上げた。
「どうしたの?」
立ち止まっている二人の背中を押し、降りたも、その光景を見て目を丸くした。
「何、これ。」
広間にあったのは、あまりに冷たい光景だった。皆が体を寄せ合い、時には断末魔の悲鳴を上げるような表情で、怯えて母に抱きついた子どもたちが、そのままの姿で凍りづけにされていた。
寒さでなく、体が凍り付く。
「…翠の一族の人間だわ。」
メイが表情を歪めて、悲しそうに唇を噛む。
全員の着物の一部に、かぎ爪をもした丸い翠一族の家紋が描かれている。髪の色はそれぞれ違うが、ここにいる氷付けの人々が翠一族の人間だと言うことだけは分かる。
「い、生きてるの?」
は震える声でサクラに尋ねる。
「いいえ、生きているはずがない。」
サクラはの問いかけに首を横に振った。
凍り付いた人々の表情から、ここに逃げ込み、敵に追いつかれ、一瞬にして何らかの術で凍り付かされ殺されたのだろう。氷の中にいる人々の姿は、15年前から全く変わらず、悲しみと恐怖だけを氷の中に閉じ込めていた。
鳳凰