「おりゃおりゃ、まちやがれ!」

「いきますよー!」





 のりのりでナルトとリーが子どもたちを追いかける。





「きゃぁーーーーー」

「きたーー」





 瀧と淡姫は楽しいのか歓声を上げて全速力で駆け抜けた。




「元気だね。」





 は四人の子どもを眺めながら、思わず呟く。





「…子どもが二人、大きな子どもが二人だな。」

「まさにその通りですよね。」





 イタチの形容に、サイは笑って賛同する。






「もし花瓶などを割るようなら止めないとな。」






 真面目なイタチは広いとは言えここが室内である事が気になるらしく、気をつけて子どもたちが遊ぶ姿を眺めていた。

 ここはあくまで自分たちが与えられた部屋の中にあるただの少し広めのリビングで、ソファーにイタチ、、サクラ、そしてサイが座って子どもたちを監視しており、少し開けた場所で子どもたちが遊んでいる。近くにテーブルもあるので、気をつけておかないと事故になっても嫌だった。

 昨日も備え付けてあった花瓶をナルトが割ったばかりだ。





「のんびりだわ。」






 サクラは自分の膝の上に頬杖をつく。

 木の葉への報告を終え、今後の返答待ちのイタチ、ヤマトの班は今、霧隠れの里でつかの間の休息を命じられた。後から来るガイたちも合流してから、ナルト達は八尾の島へ、そしてたちは雲隠れの里へと行くことになっている。

 いつの間にか子どもたちと仲良くなったナルトとリーは毎日のように瀧と淡姫の遊び相手を務めている。

 二人とも間違いなく神の系譜の直系で、直系としての力も持っているためチャクラコントロールがうまく遊び方も若干乱暴だ。とはいえ、ナルトもリーも忍であるためそれにもうまくあわせて遊んでいる。二人とも楽しいようで、喜んで懐いていた。

 神の系譜は一系統しか受け継がれないので、おそらく龍を持っている瀧の子どもたちが能力を継いでいき、淡姫は一代限りの直系である種なしだろう。




「一族が氷結の術で死んだのに、大丈夫だったって言うのは、やっぱりあれか。」





 イタチも後からメイから翠一族の滅亡について詳しく聞いた。

 翠一族のほとんどは一室に逃げ込んだために霧隠れの忍に術式による氷結の術で凍らされ、死んだのだという。だが、あの幼い二人の姉弟がその中で母親の胸の中にいたとはいえ、氷結を免れた原因にイタチは思い当たる節があった。





「うん。わたしと一緒だと思う。」





 たち炎一族の直系は血継限界の白炎を体の傍で操る必要性から、火に手を突っ込んでも平気なほど火に強い。もちろんその代わり寒さに弱いわけだが、別に火あぶりにされても痛くもかゆくもない。

 おそらく瀧と淡姫が生き残った理由も同じだ。

 水の血継限界を持つが故に、氷も含めて水に関する攻撃に驚くほど強いのだろう。へたをすればえら呼吸が出来るかも知れない。






「身体的な障害は何も見られないしね。」







 サクラも淡姫と瀧を眺めながら、ぽつりと呟く。

 サクラが忍具・蒼帝から出てきた瀧と淡姫を診察したが、なんの健康的な問題もないらしい。15年も中に封じられていたのだからと思ったが、子どもたちは元気そのものだった。やはり夜には怖くて飛び起きて泣くこともあるが、精神的にはともかく健康的には何もない。

 父母が死に、もう親族もいない。尾獣と同じくらいに莫大なチャクラと龍まで持つ二人の立場は非常に難しいものがあるが、水影であるメイが後見人となり、二度と酷い目に遭わせないと約束してくれた。

 それをサクラもも信じている。





「なんか、ふたり見てるとさぁ、わたし、すっごく幸せに育ったなぁって思う。」





 同じ神の系譜の直系でありながら、には両親がいて、自分を大事にしてくれる一族があって、幼い頃に何か外から攻撃される心配をしたことは一度もない。

 淡姫が泣きながら瀧の命乞いをした時、は驚いた。

 5歳の時のなど、我が儘放題だった気がする。寂しいとイタチに縋り付いて、嫌だったら泣いて。当たり前のように他人に頼っていた。

 誰かを守ろうなどと思ったことはない。






「おまえはなんだかんだ言っても箱入り娘だからな。ま、俺も言ってしまえばお坊ちゃんだが、」





 イタチはの頭を指で軽くつつく。

 幼い頃は大きな一族で真綿にくるむように育ってきた。その点ではイタチも、そしても変わらない。忍の中では珍しく両親も健在だ。






「でもこれで、神の系譜が、雲隠れに集まることになるんだね。」





 サイが少し期待するような目をして笑う。





「うん。利用されたら困るから総本部で預かることになるみたい。」





 もその連絡は綱手から受けていた。

 今回の件で、五つすべての神の系譜の直系の状況が判明したことになる。

 まず火の国の炎の直系である3人のうち、宗主での母・蒼雪は基本的に大名の護衛につくことになり、は総本部の特殊忍術班として指示があるまで確保され、の伯父で母の異母兄である青白宮は医療班に配置されることになった。



 雷の国の神の系譜・麟は未だにどうなっているのか不明だが、暁に荷担していることだけが分かっている。

 風の国の飃の直系二人・榊と樒の兄弟はともにと同じく総本部で、特殊忍術班。

 土の国の堰家の直系二人のうち、当主の要は瀕死の大怪我で未だ目を覚ましていない。息子でまだ4歳の椎は雲隠れの総本部で預かることになっている。 

 水の国の翠の姉弟・淡姫と瀧もあまりに幼いため同じく総本部で預かりだ。


 神の系譜はその血肉だけでも恐ろしい力を持っており、利用されれば大きな不利益になる。そのため、幼く戦力にならない子供たちは基本的には本部で預かりにすることが会議で決定した。

 だがこれによって、結果的に神の系譜五つ中四つの一族の直系が、雲隠れに集まるという異例の事態となる。






「神の系譜の直系が集まる事なんて今までなかったから、初めてだよ。」






 決してすべてが幸福の中にあったわけではないが、それでも一つ前進したのだろうとは思う。

 会うことがなければそもそも話し合うことも、痛みを分かち合うことも出来ない。どんな人間かわからなければ、憎しみも膨らむ。






、だっこ。」






 ふと視線を下げれば、いつの間にかソファーに座っていたの目の前に瀧がいた。





「はいはい。」





 子どもと関わる機会があまりなかったため戸惑っていたも、ここ数日で大分慣れたため、瀧を自分の膝の上に抱き上げる。





「瀧はがお気に入りだな。」





 イタチは笑って、瀧の少しくせのある水色の髪を撫でてやった。

 瀧は龍を持っている、神の系譜の直系の中でも何代かに一度しか生まれない特別な子どもだった。それは鳳凰をもつも同じで、瀧はに親近感を抱いているらしく、何かとくっつきたがるし、夜中に怖い夢を見て泣くと、必ずとイタチの部屋にやってきた。


 対して淡姫はナルトがお気に入りだ。


 ナルトが雲隠れの総本部に一緒に来ないと分かった時は泣いたほど、何故かナルトを気に入っている。ナルトも女の子の割に活発な淡姫がお気に入りで、思いっきり振り回して遊んだりするので、イタチが戦々恐々だった。

 とはいえ、流石は神の系譜の直系だけあって、吹っ飛ばされようが壁にぶつかろうが丈夫なもので、全然平気そうなのだ。おそらくイタチは普通の子どもたちや、体の弱かったばかりを思い浮かべるが、神の系譜の直系とは総じて丈夫なものらしい。







「つかれ…ねむい。」






 瀧は遊び疲れたのか、の膝の上で小さくなる。





「いっぱい遊んだもんね。」





 は優しく笑って、自分の上着を瀧の体に掛けてやった。

 きっと瀧は幼いながらもの傍が一番安全であることを、自ずと知っているのだ。そして自分と同じ存在であるからこそ、信頼している。

 イタチはそんな二人を見ながら、目を細めた。



不幸