灯台の近くに行くと雲隠れの忍が案内してくれ、そこには迎えであるダルイがいた。





「お疲れ様っす。」





 少し気の抜けるような、しかししっかりした声で彼は水影のメイに頭を下げる。




「警戒して頂戴。一度襲われたわ。」





 メイは言って、後ろを振りかえる。

 あの後、同じ神の系譜の直系であるを警戒してか、麟の手のものは襲っては来なかった。どうやら引き上げたらしい。

 イタチは疲れのせいでぐったりしている幼い翠の姉弟を見上げる。

 今日は灯台の中で夜を越して、すぐに海を渡って雲隠れに行く予定だ。犬神の上で揺られていただけとは言え、5歳と3歳の姉弟に今回の長旅は疲労のたまるものだっただろう。揺られるのも子どもだと辛い時もある。





「お久しぶりです。」





 イタチとはダルイとは中忍試験以来三度目だ。イタチが頭を下げると、彼は手をひらひらさせた。





「いや、堅苦しいのはなしで。それに斎様のお弟子となると流石に。」





 ダルイは礼儀正しいイタチに戸惑いが大きいらしい。年齢はあまり変わらないだろうが、それでもダルイは雷影の右腕で、イタチとしてはやはり礼儀をと思ったが、ダルイは肩を竦めた。





「これからは貴方の写輪眼にも頼ることになるので、一緒になることも多いでしょうから、よろしくっす。」

「はい。こちらもよろしくお願いします。」





 ダルイはイタチに手をさしのべ、同じようにイタチもその手に自分のそれを重ねる。

 これから戦いが始まってからもおそらく、イタチはサスケへの対策のためにも本部にいることになる。も同じだ。雷影の片腕であるダルイとは話す機会も増えることだろう。





「部屋にご案内します。明日の明朝には船で発ちますので。」





 ダルイは言って、灯台の中に入るよう全員を促した。





「翠の直系は随分お疲れのようですね。」

「えぇ。早く中へ入りましょう。」





 メイはダルイに言って、瀧の方を犬神の上から抱き下ろした。疲れているのか、目は開いているが、されるがままで動かない。ただ珍しい色合いの水色の髪が湿気た海風に揺れた。

 イタチも姉の淡姫の方を犬神から下ろし、メイに続いて灯台に入る。



「酔っちゃったのかな…。」





 は心配になって、イタチに背負われている淡姫を見やる。





「部屋についたらすぐにみるわ。」




 サクラは言って、を宥めた。

 灯台の中は存外広く、灯台と言うよりは昔の要塞を改装した雰囲気で、石造りの丈夫そうな建物だった。部屋割りは結局一番広い部屋を、サイ、イタチ、そしてサクラが使うことになり、しかも瀧と淡姫も護衛をかねて、一緒と言うことになった。

 おそらく絶対に内通者である可能性が無いからだろう。





「たき、と。」





 もうとろんとして、今にも寝てしまいそうな青い瞳をゆらゆらさせながらも、瀧はにしがみついて小さな手を回す。




「じゃあ、一緒に寝ようか。」





 は水色の髪を優しく撫でてやりながら、ベッドの上に座った。





「やっぱり姫、瀧くんに気に入られているみたいね。」





 サイは安心したように瞼を閉じた瀧を見ながら言う。





「同じだからじゃないかな。」





 神の系譜であり、次世代に繋がる血を持つ者。そして何代かに一人しかいない、その身に特別な始祖を宿す、先祖返り。

 幼くても、何となく瀧にはそのことが分かるのだろう。だから、の傍が一番安心できるのだ。





「でも雲隠れに本部が置かれるなんて思わなかった。」 






 サクラは淡姫を寝かしつけながら、小さく息を吐く。





「まぁ、雷影のエー様が総大将だからね。」





 はエーの顔を思い出して小さく笑った。

 暑苦しい性格をしているエーだが、非常に情に厚く、仲間、家族思いのところがある、味方なら非常に信頼できる人物だ。





「斎様、随分親しいってお聞きしたけど?」





 サイはベッドの上で座って絵を描きながら、に尋ねる。





「うん。みたいだね。大戦時代は何度も戦ったって言ってた。」

「ふうん。あの雷影様相手に生きて何度も帰ってくるって流石斎様だね。」

「まぁ、父上図太そうだから。」

「否定できないね。」




 の冗談に、サイも揃って笑う。





「おいおい。今となっては正式な火影の第一候補者だぞ。」





 イタチもサイとの会話に口を差し挟むが、半笑いだ。





「なりたいって言ってなるもんなのに、みんなで追い詰めるの大変だったって聞きましたけど?」






 サクラが言うと、皆、堪えきれなくなったように吹き出す。

 綱手が倒れ、ダンゾウが火影にナルト言われた時、あらかじめそれを予想して斎は逃げまくったという。それを上忍、暗部、その他忍たち全員で追い詰めるのに苦労したと、記憶をなくして斎捕獲作戦に関わっていないは後から聞いた。

 斎自身も透先眼の持ち主であり感知系だ。自分に近づく人間を感知することが出来るため、捕獲の際は皆苦労したらしい。

 ペインに襲われた痛手故の木の葉の復興状況と、怪我をしてまだ本調子ではない火影・綱手の護衛の関係から、斎は後から本部にやってくる予定だ。





「今回は俺とがいればひとまず感知に困ることはないからな。」





 イタチは落ち着いた様子で全員に笑う。

 は父親の斎ほど透先眼を使いこなせるわけではないが、イタチの写輪眼との透先眼の視界を重ねれば、基本的に見抜けない物はほぼ無いと考えて間違えない。そのためにイタチとは本部に呼び寄せられたのだ。





「それにしても、戦争か…。怖いな。」





 は少し不安そうな顔でため息をつく。

 前の忍界大戦が終わったのはちょうどイタチが小さかった頃だ。当然、サイ、サクラ、共に年齢はあまり変わらないため、本当の戦争というものを知らない。国境の上での小競り合いなどは常にあるものだが、大規模な戦争、そして大規模な死を知らない世代であり、ある意味幸せに育ってきたものが多い。

 同期の中でも両親共に死んでいるものは本当にごく少数で、せいぜい怪我で働けなくなって専業主婦をしている程度だった。





「そうだな。戦争は、恐ろしいものだ。」





 イタチは宥めるようにのベッドの上に座って、彼女の短くなった紺色の髪を撫でる。肩までに切り揃えられた髪がさらりと揺れた。





「だが、戦わねば、守れないものもある。」





 それはとイタチにとっては未来そのものだ。

 マダラと名乗った男は、幻術の世界において邪魔となる炎一族の直系は殺す気でいる。チャクラを焼く炎を持っており、幻術がきかないからだ。イタチを操ることによってを間接的に管理できるため、は生かす気でいるようだが、それはとイタチが子どもを作ることは出来ない、未来は望めないと言うことになる。

 飼い殺しにされると言うことだ。





「でもな、これだけは言っておく。」






 イタチはサイとサクラを見て、静かに言う。





「絶対に命を諦めるな。諦めたら、終わりだ。」





 死は隔絶しがたい断絶だ。どんな事があってもそれだけは避けるべきだと知っている。人は死ぬ。死ねば戻らないのが常だ。それを忘れてはならないし、だからこそ、自分の命も同時に大切にしなければならない。





「…全員が、またこうやって笑いあえることが、何よりも大切なんだ。」





 ぼろぼろと死んでいく戦いを知っている。命がボロくずのように簡単に奪えるものだと、そして同時に奪われるものだと、イタチは本当に心から知っている。

 そして、すくおうとしても簡単にはすくえないものだと言うことを。

 を抱きしめながら嘆いた日々を、恐ろしいほどの絶望と喪失感を思い出して、イタチはぎゅっとの肩を抱く手に力を込めた。











大戦