雲隠れでは着々と第四次忍界大戦の準備が進められていた。
大本営の置かれている建物では感知部隊が水影メイの片腕でもある青を中心に組まれ、情報部の山中いのいちも合流しており、かなりの忍が雲隠れに集まりつつあった。これから数ヶ月で続々と皆が集まる予定だ。
「ひと、おおいね。」
建物の窓に上って外を見下ろしていた淡姫は、青い瞳を輝かせる。
翠一族の住処であったあの湿地帯から生まれてずっと出たことのなかった淡姫と瀧にとって、清々しいほどの青い空や大きな建造物だけでも珍しいものだ。ましてや沢山の人など見たことがないらしく、不安そうな顔ながらも好奇心は消えないようだった。
「そうだな。それにしても雷影は随分と忙しいんだな。」
イタチが言うと、も苦笑した。
イタチ、、そして翠の直系である二人の子どもは雲隠れにつくなりすぐに別室に通され、雷影のエーを待つことになった。人が多いので警備上の問題もあるのだろう。
しばらくすると、隣の壁が轟音と共に崩れ落ちた。
「よく来たな。」
全員があまりにセンセーショナルな登場の仕方に驚いている中、エーが何でもないことのように、がれきの中に開いた穴から入ってくる。エーの後ろにいたダルイが申し訳なさそうな顔で目じりを下げているのが少し面白い。
「だぁ?」
誰?と瀧がこそっとの長い着物の袖を引っ張って足下にしがみつく。流石にこの登場の仕方は子どもたちには怖かったらしい。
「雷影のエー様。とても強くて、偉い忍だよ。」
「そう、なの。」
淡姫も不安そうに同じようににぴったり身を寄せた。
「そのめんこいのが翠のか?」
エーは視線から隠れるようにしている子どもたちを見下ろし、に尋ねる。
「はい。」
「そうか。」
エーもある程度は報告を受けているのだろう。まじまじとまだ幼い翠の神の系譜を見てから、首を傾げた。
「髪の毛が水色か。」
神の系譜は血継限界や身体能力も珍しいが、髪の色も随分と珍しい。
既に雲隠れに到着している神の系譜・風の国の飃の兄弟は薄緑色、水の国・翠の幼い姉弟が水色。土の国である堰家の当主はこげ茶色の髪だ。は紺色の髪をしているが、母など多くの人間は白銀の髪をしている。雷の麟は道すがら交戦しただけだが、金色の髪をしていた。
それぞれの性質にちなんでいるとも言える。
「堰の坊主も保護されてこっちにおる。ダルイ連れてこい。」
エーは後ろのダルイに指示を出す。
土の国の神の系譜である堰家が襲われ、当主である要と妻の紅姫が意識不明の重傷である事はすでにたちも知っている。まだ4歳の息子の椎のみが結界に守られて無事だったという。
にとって彼は又従兄弟にあたる。
「安心しろ。おまえたち二人の身の安全は、雷影であるワシが約束する。」
エーはそうはっきりと言いきって怯えている翠の姉弟を安心させると、席に座った。少したつと腕に焦げ茶色の髪の男の子を抱えたダルイが少し駆け足気味に部屋へと入ってきた。
「ねね!イタチにに!!」
4歳の椎は久方ぶりに見る又従兄弟の顔を覚えていたらしく、すぐにの元に行こうとダルイの腕でばたばたする。
「椎、」
はすぐに椎に腕を伸ばした。椎の赤紫色の瞳は涙に潤んでいて、手は小さく震えていた。両親が大怪我をし、知らない大人たちばかりの中で不安だったことだろう。
は椎の柔らかい焦げ茶色の髪をそっと撫でる。
「三人は、ワシらが近くで見る。」
敵が紛れていて攫われては困るため、人が沢山出入りする現状を考えれば、本部、しかも雷影や他の影たちも集まる場所が一番安全だ。もイタチもいざとなれば戦いに出向かねばならず、いつまでも神の系譜の子どもたちを見ているわけにはいかない。
ましてやとイタチの目は戦略上非常に重要で出し惜しみを出来るような状態ではなかった。
は抱きしめていた椎を、膝を折って地面に下ろす。椎は少し落ち着いたのか周りを見回して、同じ年頃の淡姫と瀧に首を傾げて、を見上げた。
「だれ?」
「水の国のわたしたちと同じ子どもたちだよ。」
「おなじ?ぼくらと?」
椎は目を丸くして、淡姫と瀧を凝視する。
神の系譜が他の神の系譜に会うのは、親兄弟以外はほとんどない。椎も父と、そして親戚であるやの母くらいしか見たことがなかっただろう。ましてや同年代の神の系譜に会うなど、予想だにしなかったはずだ。
「三人とも、ダルイさんと一緒に遊んで来てくれる?」
が言うと、何となく全員理解したのか、大人しく子ども三人はダルイに促されて部屋を出て行く。随分と警戒していた様子だった淡姫と瀧も、同じ年頃の椎が一緒にいれば抵抗は少ないらしい。は子守から解放されて少しほっとし、立ち上がった。
「…堰の当主夫妻は、相変わらず昏睡状態で、わからん。」
エーは隠すことなくに話す。
綱手が来ればすぐに看て貰う予定だが、傷があまりにも酷いため、手の尽くしようがあるのかさえ分からない状態だった。とイタチとしては仲良くしていた要が重体と聞けば心は重いが、椎だけでも無事だったことがせめてもの救いだった。
両親を目の前で殺されたため、堰家の当主であった要は親戚であるに非常に優しかったし、妻を初め新しく出来た家族を本当に大切にしていた。そんな彼の姿を思えば、は胸が締め付けられるような思いがした。
「気を落とすな。治療は全力で続ける。それにおまえらにはやってもらわなければならないことがあるからな。」
エーは悲しそうな表情をするに席を勧めながら、慰めるように言った。
しばらくすると背の高い女性がとイタチに書類を渡した。今回の忍界大戦における、大まかな隊の編成案だ。
まず、戦闘大連隊が5つに分けられ、中距離、近距離、近中距離、遠距離、そして特別戦闘部隊に別れている。また奇襲、医療、情報、感知、先発偵察隊がそれぞれ別に作られており、情報感知の統括役にの父である斎の名前もあった。
「わたし、遠距離かな…」
遠距離の天才と呼ばれ、遠距離からの攻撃力は絶対的だと言われるだ。もしも順当に配置されるならば、我愛羅の部隊である遠距離部隊になる。対して仮にイタチが配備されるのならば、近中距離部隊が妥当だった。
「否、おまえたちは忍界大戦において、感知情報部隊と連絡を取りながら、特別偵察と奇襲に回って貰う。ワシらにとって、おまえらは言ってしまえば切り札のようなものだ。」
臨機応変に破天荒な動きをする、強い駒。
とイタチは二人とも感知タイプであるため、二人揃えば基本的に死角なし、かなりの実力があるので、二人で動けばおそらく敵に見つかることもないし、ある程度の襲撃は自分たちで回避できるはずだ。
「…き、切り札。」
はあまりに大きな役の気がして俯く。
「大丈夫だ。俺もいる。」
イタチはの背中を軽く叩いて、元気づける。
元々炎一族としての白炎も持っているはありとあらゆるチャクラを直接焼くため、どんな忍術でも破ることが出来る。それは大きな戦力であると同時に、透先眼使いでもあるを戦場にやるには、を失うという危険も伴う。
「頼りにしているぞ。」
若い二人には非常に重い任務だろう。しかし、その身に宿す才能もまた、世界を救うほどに光ることが出来るものだ。
雷影は自分の部下たちと同じように、二人に声をかける。
「はい。」
「が、がんばります。」
イタチはそれに対してはっきりとした答えを返したが、はおずおずと頷く。
自信のなさそうなの様子は哀れだったが、それでも忍界大戦に出し惜しみが出来るような余裕がないことも、エーは痛いほど理解していた。
庇護