アンコが先発偵察隊としてたった次の日、とうとうは熱を出した。




「はい。お取り上げ。」




 ダルイがから書類や地図を取り上げる。熱冷ましを飲んで出勤したが、医療忍者から連絡が行ってしまったらしい。




「大丈夫ですー」

「うるさい。ソファーで寝ておけ。分からないところだけ聞く。」





 雷影のエーが無理矢理をソファーに運び、毛布やクッションを放り投げて寝かせる。

 一週間後にはすべての里の忍が集まる。記憶力の恐ろしく良いの頭の中にほとんどの忍のリストが入っているため、聞かなければならないことが多いのだ。本来なら自室で寝かせておきたいところだが、そういうわけにはいかない。

 妥協して今日は透先眼を使わず、データベースになっていてもらうしかなさそうだった。





「ごめんなさい。」





 はしょんぼりとする。

 最近透先眼を使った偵察や図面書き、来る忍たちのリストの記憶などありとあらゆる仕事を担っており、昨日の先発偵察隊の出発なども重なって数日貫徹したりしていたのだ。

 元々は睡眠不足に弱く、体も強くない。

 ダルイも真っ青な仕事量であったため、ダルイや雷影のエーも心配していたが、やはりといった感じだった。それでも解熱剤一つで仕事に出てこようとするがすごい。





「気にするな。この辺りは俺が処理できるレベルだ。」





 イタチはがあらかた適当に書き出したものを図面化していく。

 元々透先眼使いであるの父・斎の副官であったため、イタチはそう言ったことが得意だ。斎とは性格は似ていないと一般的に言われるが、メモの仕方や図面の書き方はそっくりで、下書きさえしてあれば形式を整えるのは、なれているイタチにとってそれ程難しいことではない。





「あの阿呆の娘がなんでここまで真面目なのか、ワシにはわからん。」






 エーはやはりの父である斎のイメージが強いのか、ため息混じりでを見据える。

 は先日から仕事をしっぱなしでエーが止めるまで不眠不休で仕事をひたすらこなしていた。その仕事量はダルイもびっくりするほどで、今では忍界大戦を前にした煩雑な業務はほとんど片付いている。





「斎先生も優秀ですけど、」

「日頃やらんなら一緒だ。」





 エーはイタチの斎擁護を冷たく切り捨てる。

 だが、イタチもまた事務能力はほどの記憶能力はないにしろ高く、二人はよく仕事を一緒にしている上、恋人同士のせいか仕事の仕方も互いに良く理解しており、綱手が偉そうに二人を貸し出しただけのことはあった。





「明日には斎先生も来るらしいから、交代だな。」

「うん。ごめん…」

「とはいえ、おまえの頭は相変わらずデータベースだから全部斎先生が代行できるわけじゃない。」





 今回はの頭の中に忍リストが入っているため、斎が来たからと言って全部斎が変わってくれるというわけには行かないだろう。

 イタチとしてはをゆっくり休ませてやりたいところだが、有事が重なっているため、そういうわけにはいかない。




「明日、明後日は休んで構わん。あらかた既に終わっているからな。」





 エーはそう言って、ソファーで丸まっているに毛布をもう一枚投げつける。

 のおかげで到底終わるはずはないと思っていた業務のほとんどは終わっている。予定では五影が集まる来週までには全く終わらない予定で、集まる忍たちの班編制に関しても、国別でもっと適当になされる予定だった。

 しかしが全忍の能力と番号をあらかた覚えたおかげで、10万人の班編制は存外あっさり行うことが出来、しかも事前に通知まで出来た。






「大戦が始まればおまえらも前戦に出て貰うことになる。しっかり休め。」





 このままの状態ではは使いものにならない。エーとしてもここでこの世で既にたった二人しかいない透先眼使いを一人事務作業で潰すわけにはいかなかった。




「ありがとうございます…」





 は本当に申し訳なさそうに目じりを下げて言う。

 エーとしては部下を労るのは当然のことだったが、律儀に礼を言うを見て、自分の弟を思い出す。正直同じように莫大な力を持っているというのに、ビーとは大違いだ。

 問題ばかり起こす自分の弟を思い出せば、勝手にため息が漏れた。





「そういえば、淡姫が感知部隊を手伝っているらしいな。」




 イタチは書類をしながらふと思い出して、ダルイに言う。

 忙しいイタチとはなかなか自室に帰れないが、今、保護されている水の国の神の系譜・翠の直系である淡姫と瀧は相変わらず二人の部屋に出入りしており、先日久方ぶりに顔を合わせて話を聞いたのだ。




「そうなんっすよね。」




 ダルイはその様子を確認してきたので、最初に見た時は本当に驚いた。

 先日ダルイが見に行った時、感知部隊の隊長となる霧隠れの里の青が、感知用の水球を作っていたのだ。水自体はあるのだが、水は不純物があっては困るため、純水でなければならず、純水を作るのに手間取っていた。

 さすがの彼といえど、純水の巨大な玉を作るのは非常に難しい。それを退屈しのぎに見ていた翠の神の系譜の直系・淡姫がそれに手を伸ばしたのだ。 




 ―――――――――――――きれいな、みずつくるの?




 さも当たり前のように言って、用意された不純物の混ざった水を宙に持ち上げ、あっという間に右に純水、左に不純物入りの玉を作り出したのだ。


 たった4,5歳の子どもが純水をあっさりと作り出した事に皆呆然とした。






「最低でも4日はかかるとか言う噂だったんで、助かったって感じっすよ。」





 ダルイが青に聞いたところに寄ると、感知の媒介とするための純水を作るのは緻密なチャクラコントロールが必要で、簡単なことではないらしい。

 それをあっさりと淡姫がやってくれたおかげで本当に助かったと言っていた。





「あれから結構純水作りを手伝って貰ってるらしくて、嫌がってないっすか?」






 感知を媒介する純水は劣化するため、多ければ多い方が良いので、疲れない程度で淡姫に手伝って貰っているようだった。

 とはいえまだ子どもだ、嫌かも知れないと思ってダルイは気にしていたが、イタチは肩を竦める。





「本人は誉められてお菓子をもらって嬉しいと俺に報告に来たが。」

「じゃ、大丈夫っすね。」





 子どもだけに、誉められてお菓子を貰えるとそれだけで嬉しいものらしい。

 特に神の系譜の子どもたちにとっては人と関わる機会を得るという点で、そう言った手伝いをするのは悪いことではない。人と関われば、考え方も変わるだろう。




「護衛だけはしっかりさせておけ。攫われては困るからな。」





 一応エーは注意を促す。

 神の系譜の子どもはその血肉だけでも十分な力となり、暁を初めいろいろな里に狙われる存在だ。ましてや子どもはなんの抵抗力も持たない。

 人の出入りが激しいため、子どもには常に忍をつけているが、警戒は絶対に必要だ。そういう点では手練れである青の傍にいるというのは、護衛の問題上も悪いことではなかった。

 青も心得た大人で、事情もよく知っている。淡姫を酷く扱うことはないだろう。





「淡姫と椎はもう五歳だから、何となくわかってるみたいね。」






 も思っていたことだったが、神の系譜の直系の成長は非常に早い。淡姫と椎は何となく周りの大人たちの様子から大きな戦いがあることを察しているようだった。

 特に椎は自分の両親が襲われたこともあり、真剣に分かっているようだった。


 が簡単にただの炎を作り出すことが出来るように、神の系譜の子どもたちにとって、自分の性質変化の能力を使うのは難しいことではない。

 青を助けている淡姫と同じように、椎もダルイにくっついて雲隠れの周りに岩の壁を作ったりといくつか協力もしたそうだ。

 水影のメイはかつて里を襲った神の系譜の当主を見ているため、神の系譜を恐れていたが、実際の淡姫と瀧を見て随分と考えが変わったらしい。青もそれは同じで、最初は恐れていたようだが、普通の子どもである淡姫を見て態度を軟化させた。

 そうやって、徐々に理解し合うことが出来れば幸いだ。






「ワシらが敗北すれば、あの子たちにも未来はあるまい。」





 エーは神妙な顔つきでため息をつく。

 尾獣と同じく絶対的な力を持つ神の系譜は、マダラの計画にとっては邪魔でしかないだろう。この忍界大戦で勝てなければ、あの笑顔を見ることもなくなる。 






「勝たねばならん。」






 自分たちの未来を勝ち取るために、戦争においての勝利は絶対だった。
未来