「。こおり。」
ふわふわと柔らかそうな水色の髪を揺らして、淡姫がの額にタオルにくるまれた冷たいものをのせる。
水の国の翠の神の系譜である淡姫は幼いながらも水を扱うのが上手だ。まだ5歳のため水を何もないところから生み出すことは出来ないようだが、その水から氷をつくったり、純水を作ったりすることは得意だった。
そのため最近は純水で感知システムを作ろうとしている青の手伝いをしている。
淡姫とて神の系譜とは言え体力は子どもより少しある程度なので疲れているだろうが、昼寝から起きて、が熱を出して帰ってきているのを見るとすぐに沢山の氷を作ってくれた。
「ねね、はたらきすぎ。」
土の国の神の系譜で、の又従兄弟でもある椎は目じりを下げてを見る。やはりこちらもが心配らしく、土の血継限界では何も出来ないが、イタチがいない間にせっせとに毛布を掛けていた。
椎の隣では淡姫の弟の瀧が、同じように心配そうにの布団をぽんぽんと叩いていた。母親が子どもを寝かしつけるののまねらしい。3歳の瀧としては最大限の労りだろう。
本当はとイタチ、そして三人の子どもたちは部屋も別だが、夜は不安なのか、皆イタチとの部屋にやってきて眠るのが日課になっていた。
「気持ちいい」
氷を額に当てて貰って、熱の高いは心地よさそうに目を細める。
「熱、下がってないな。」
イタチは苦笑しながら、の薬を用意した。
特殊な血継限界を持つは、市販の薬は効きすぎたり、効かなかったりと問題が多い。そのためサクラが特別に調合した薬を持っていたのだが、それも今日の昼が飲んでしまった分で最後だ。
医療部隊の設営に忙しいサクラを呼びつけるのは気が引けたが、連絡をするとサクラは仕事が終わり次第遅くはなるがの様子を見に来てくれると言っていた。
「あまり近づくなよ。おまえらが風邪を引いたら困るからな。」
イタチはのベッドの周りにたかっている子どもたちに優しく言うが、椎も淡姫も小首を傾げた。
「だいじょうぶよ。かぜなんてひいたことないもん。」
「っていうか、なんでねねはかぜひくの?ぼくら、かぜよりつよいよ。」
神の系譜の直系は体も強く、成長も早い。殺されることが多いが、天寿を全うすれば200年近く生きる。
子どもたちとて普通の人が風邪を引くのは知っているが、同じ神の系譜の直系であるが風邪を引くのかが分からないのだろう。
「は少し特別なんだ。」
イタチは納得して、話がよく分からずむっとしているまだ3歳の瀧を抱き上げて、頭を撫でてやる。
は元々神の系譜である炎一族の血よりも、幼い頃から蒼一族の血が強かったのだという。だからこそ、炎の直系の持つ莫大なチャクラに耐えられず、病弱だったのだ。
そういう点では、神の系譜の中でも特殊だった。
「つめたいのきもちーの?」
淡姫はに言って、の赤く染まっている頬に自分の手をぺたっとくっつける。
「つめたい、気持ち良い。」
淡姫の小さな手はひんやり冷たくて、は瞼を閉じたまま笑った。
「あんまり体は冷やすなよ。おまえは寒さに弱いんだからな。」
イタチはの髪を優しく撫でて、に体温計を渡す。一応サクラが来る前に熱を測っておいた方が良いだろう。
「こーり。」
瀧がイタチに冷たい氷を差し出す。どうやら作ったら良い。
「ありがとう。氷枕第二弾だな。」
イタチはまだ小さな瀧の頭を撫でて、笑った。小さな瀧でも、やはりの様子が心配らしい。
一度も会ったことのない神の系譜同士だったが、やはり互いに互いが安心するのか、子どもたちはなんだかんだ言ってもにべったりだ。知らない大人たちの中で、繋がりを求めているのかも知れない。
両親を殺されたり、襲われたりして心に傷を負っている子どもたちにイタチはどう声をかけて良いのか分からない。でも、できる限りイタチは、子どもたちを“普通”に扱うと心に決めていた。
イタチもやはり幼い頃、天才とばかり言われ、冷たい“大人”たちの中で一人取り残されて寂しい思いをした。いろいろなことに迷い、親に縋り付くことも出来ずどうしようもなくて何度師に八つ当たりしたか分からない。
でも、師は、イタチを八つ当たりしてくる狭量なただの子どもとして笑った。そう、イタチはどんなに強くても、天才と言われても、ただの子どもそのものだった。
だからこそ、今となっては“大人”となってしまったイタチも、彼らを“普通”に、ただ当たり前の子どもとして扱おうと心に決めていた。
「ねね、からだよわかったって。たたさまいってた。いそがしいけど、むりだめだよ。」
椎はの布団にのっかりながら、目じりを下げた。
最近あまり部屋に帰ってこず、仕事詰めだったことを、子どもたちもよく分かっているのだ。戦いが迫っている。来週には忍たちのほとんどがこの雲隠れの里に集まってくるだろう。徐々に増えている他国の忍とぴりぴりした雰囲気を、子どもたちも理解していた。
「ぼく、あさってから、へいつくる、てつだいするんだ。」
塀とは、おそらく盾とする岩の壁のことだ。防衛のためにあちこちに岩の壁を立てており、土の国の神の系譜として土、岩を操る血継限界を持つ椎の協力は、幼いとは言え非常に役立つものだった。
明日には土影であるオオノキが来るため、椎の身の安全は保証できるだろうからと、明後日には防壁作りに出かけることになったのだ。
「かわりにねね、おやすみ。」
椎は優しくの頭を撫でる。
彼からしてみれば、両親が昏睡状態にある今、は今となっては本当に数少ない家族だ。特に椎の父である要とは仲が良く、椎も幼い頃から何度も炎一族邸に来ていた。
姉にも等しく思っているが熱で倒れていれば、不安だろう。
「心配しなくても大丈夫だよ。すぐに治るし。」
は心配する椎に笑って、体温計をイタチに渡した。
「43度8分。アウトだな。」
「流石にアウトだね。」
なんぼが熱に強いと言っても平熱が一般人より2,3度高い程度だ。43度まで上がれば十分熱の域だ。それも高熱。
子ども三人もその高熱を理解して、揃って目じりを下げる。
「いき、おかゆ頂戴っていってもらってくる!」
淡姫はぱっとのベッドから飛び降りる。
確かにこれほど熱が高ければ、おかゆの方が良いだろう。お腹を壊してはいないが、胃も弱っているかも知れない。
「たきもー」
厨房に行く姉を追いかけて、瀧も部屋を出て行った。
「本当に優しいな。ふたりとも。」
イタチは幼い姉弟の後ろ姿を見送って、のベッドに端に座る。傍には椎もいて、心配そうにに寄り添っている。
「早くよくならないと駄目だぞ。雷影も言っていたことだし、今日明日はゆっくり休むんだぞ。」
「でも…」
「でもじゃない。無理は禁物だ。」
最近仕事をしすぎだったのだ。確かに事務能力が高いのは良いことだが、無理をして体調を崩していては意味がない。それにがある程度仕事をきちんと片付けているおかげで、明日はイタチ一人でもどうにかなりそうだった。
「椎、しっかりを見張っておいてくれ、頼むぞ。」
「うん!」
椎は明日は出かけないはずだ。イタチが言うと、椎は何度も頷いた。
「え。見張りは椎なの?」
「俺は明日仕事で寝ているかどうか、見張れないからな。」
イタチは肩を竦めて、の熱い額の上に乗っている氷をひっくり返す。
氷は少しとけてしまっていたが、きっと翠の姉弟が帰ってきたら、また氷を作ってくれるだろう。淡姫も随分としっかりしているから、イタチがいなくても椎と二人できちんとを寝かしておいてくれるはずだ。
子どもたちがいれば、も無理は出来まい。
「それに、アンコさんにもしっかり守れと言われたからな。」
に無理をさせて、熱を出させたと言えば、きっとアンコは怒るだろう。イタチが笑うと、もアンコの顔を思い出して笑った。
発熱