五影を初め、戦いに参加する多くの忍たちが雲隠れに到着し、雲隠れの里は人でごった返していた。
「すごい人だね。」
はこの後行われる集会のために集まる忍を見て言う。
「、はぐれるなよ。俺たちは上だぞ。」
イタチは人並みの中でふらふらしているの手を掴み、裏道へと入った。裏道から、屋根の上に上がり、屋根の上を通って本部へと向かう。
眼下の道を見ろ押すと、人で一杯だった。
昼からの集会ではすべての忍が広場に集まることになっているが、とイタチは本部で影たちといることになっているため、出席しない。
とはいえ、の父である斎の水鏡で中継は見るつもりだ。
「なんか、ぎすぎすした雰囲気だね。」
人でごった返す通りでは小競り合いになっているらしく、人だかりが丸く割れている場所がいくつもある。
「仕方ないだろう。今まで常にいがみ合ってきた訳だからな。」
戦えば殺し、殺されることになる。大切な人間を殺されたものは、その憎しみを忘れられないだろう。簡単に愛したものを殺した人間を許せるほど、人の愛情は軽い物では無い。
それを変えるのは、非常に難しいことだ。
「マダラ相手とは言え、同盟をくめるなど奇跡だ。」
イタチは幼い頃から忍となり、暗部としていろいろな里の一面を見てきた。
そのイタチからしてみれば、同盟自体が信じられないほど画期的なものだ。二カ国が自分の利益のために同盟をくむことはあっても、5大国すべてというのは前代未聞。イタチですら予想できなかった。
「平和、か。」
戦争を知らないには平和の尊さが、その意味はよく分からない。
だがイタチは里に反逆した自分の一族すらも密告した程、平和を望んでいる。それがどれほど重要なのかを知っている。
はまだ、知らない。
「姫!イタチさん!こっちっすよ。」
屋根の向こうにダルイが見えて、手招きをしている。どうやら遅いのを心配して迎えに来てくれたらしい。
「すまない。ダルイさんも集会に出なくてはならないのに。」
「いやいや、この人っすからね。迷ってるかと思って。」
ほとんどの道が人で埋め尽くされている。人で通れない道が沢山あり、また警備のためにも封鎖されている道もあるため、困っていたのだ。
「熱はもう大丈夫っすか?」
ダルイは先日が熱を出したことをよく知っている。一昨日から休んでいて大分良くなったが、今のところ病み上がりのため、集会という人の集まる場所に行くのは得策ではなかった。
「なんとか、ご迷惑をおかけしてすいませんでした。
「いえいえ、俺らの仕事はおかげでがっさり減ったんで、逆にこっちが申し訳ない。」
は記憶力も良く、今では10万近いほとんどの忍の番号と地位、ある程度の能力を記憶している状態にある。そのため班編制などを振り分けるのはの仕事で、当初は集会までには全く決まらないだろうと言われていたが、のおかげで事前通知まですることが出来た。
ダルイとしても、の2日の休みで少し忙しくなったが、トータルをすれば彼女のおかげで驚くほどの楽が出来た。
雷影のエーも彼女の事務能力を認めており、文句を言いながらも風邪については何も言っていなかった。
「こっちから行くってことで。」
ダルイはとイタチに別の道を示す。そちらは入り口が封鎖されているため、人はほとんどいなかった。
「なんだか、小競り合いが多いみたいだな。」
イタチは先ほど見た大通りの様子を思い出してダルイに尋ねる。
「あぁ、ま、仕方ない。突然仲良くって言われても、難しっすよね。」
今まで互いにいがみ合ってきたもの同士だ。突然言われても困ると言ったところだろう。おかげで小競り合いが絶えず、そのせいで医務室に運ばれるものまでいた。
「でも、もう走り出したから、止まれないよ。」
この戦争に負ければ、多くの平和に邪魔であろう人々が殺されるだろう。そして幻術の中での幸せを求めることとなる。
それは誰もが望む幸せではないはずだ。
ならば、仲が悪かろうがなんだろうが、皆を守り、戦うために走り出すしかない。割り切らなければならない。
「確かに、そうだな。」
イタチもの言葉に頷く。
今日の昼の集会が終わり次第、皆が戦いのために配置につき、おそらくすべてが始まる。いがみ合おうが、拒もうが、戦いは始まる。
「せっかく仲良くなれたのに、酒でも飲みながら話せないのは残念っすね。」
ダルイは肩を竦めてイタチに笑いかける。
「それもそうだな。結局仕事に忙殺されてしまったな。」
5大国合同中忍試験の時は少し話す時間もあったし、模擬戦も一緒に行ったが、なんだかんだ言っても、ダルイもイタチも真面目そのもので、ここ数週間、二人で仲良く話しながらもプライベートを話す暇がないほどに忙しかった。
集会の後にすぐダルイは戦地に赴く予定だ。
「せっかくだから雲隠れの美味しい甘味屋とか案内したかったんっすけど。」
「それは帰ったら連れて行って貰わないといけないな。」
「ほんと。ダルイさん、約束ですよ。せっかくみんな雲隠れにいるんですから。」
はイタチの言葉に賛同して、笑う。ダルイは少し驚いた顔をしたが、「そうっすね。」と頷いた。本陣が置かれている大きな建物に三人で出向くと、入り口の所に背の高い女性が立っていた。
長く柔らかに波打つ銀色の髪に、灰青色の瞳。そしてきりりと整った精悍な顔つき。落ち着いた色合いのスリットの入った着物を着た彼女はを見ると満面の笑みを浮かべて手を広げる。
「母上!」
は目を輝かせて、その女性に抱きつく。
「まぁまぁ、相変わらず甘えたさんですわね。」
蒼雪は灰青色の瞳を優しく細めて、の肩までしかなくなった紺色の髪を撫でる。
「え、母娘?あの人が、炎一族の宗主っすか?似てない…。」
ダルイは思わずイタチの隣で驚きに目を見張った。
「…は斎先生似だからな。」
イタチは久々に見るの母の姿に目じりを下げる。
炎一族宗主・蒼雪。の母親で、200人規模の神の系譜・炎一族を束ねる有数の忍である。木の葉の里の忍ではあるがアカデミーに通ったことはない。とはいえ、綱手の弟子の一人だ。
「めっちゃ美人っすね。」
「そうだな。まさに美人って感じの顔の人だな。」
ダルイの言葉にイタチも賛同する。
可愛い印象のあると違い、母の蒼雪は女性にしては背も170センチを近くあり、赤い唇の扇情的で雅やかな美人と言った感じだ。まぁ優雅な雰囲気と裏腹に、かなり過激な性格をしているのだが。
その美貌は30を迎えた今も相変わらず健在である。
「イタチさんも久しぶりですわ。お元気で?」
蒼雪はを抱きしめながら顔を上げ、イタチを見る。
「はい。雪さんこそお疲れなんじゃないですか?」
「まぁ、私は明後日からの予定なので、ちょっと人より遅れて休憩ですわ。他の神の系譜にもお会いしたいし。」
「なるほど。だからこちらに。」
イタチは納得する。
彼女はいろいろな国へと任務で行っている。直接戦場へと出なかったのは、他の神の系譜がこの雲隠れに集まっているからだ。
「まぁでも娘に一番会いたかったんですけどね。私の可愛い宮。」
そう言って、蒼雪は優しい目を隣のに向ける。二人は母娘なのにまったく似ていない。だがそこには確かな愛情がある。
「母上、大好き。」
「当たり前ですわ。私もよ。」
「うん。」
仲の良い親子を見て、ダルイとイタチは肩を竦める。
そこには、が誰よりも負の感情を知らず、ただ温もりや愛情、そして穏やかさを持つすべての理由があった。
母親