「…まさか、こんなことになるとは思いませんでしたわ。」





 雲隠れに到着したの母である蒼雪は、集まっている4つの神の系譜を見て、驚いた顔をした。

 まさか五大国の神の系譜の5つ中4つの一族が一カ所に集まる日が来るなど、夢にも思わなかった。里にもかかわらず、一族を持たぬ系譜もあるほど、いろいろなあり方を持つ神の系譜。互いに消息すらも知らなかった。

 しかも暁に味方している神の系譜・麟を除けば、どうやらまだ30過ぎの蒼雪とその異母兄である青白宮がどうやら最年長らしい。

 そのことが、莫大な力を持っている神の系譜が生き抜くことの難しさを示している。





「…ちょっと驚きかな。俺も。」





 青白宮は自分の銀色の中途半端な長さの髪を揺らしながら、口元に手を当てて小首を傾げた。





「うん。なんか、こうなると壮観だね。」

「そうだな。」





 とイタチも集められた神の系譜を見て、お互いに頷きあう。

 左から薄緑色の髪に翡翠の瞳。よく似た容姿の20歳過ぎの青年二人。無表情なのが兄の榊(さかき)、気むずかしそうな顔をして不機嫌を装っているのが弟の樒(しきみ)だ。

 彼らは風の国の神の系譜・飃の兄弟である。

 砂隠れの里に幽閉され、酷い扱いを受けた後、人間を恨み、そこから逃げだし、その後、榊は大蛇丸に捕らえられ、結界の媒介にされていたところを木の葉に保護された。樒は人間を恨み、暁に一時身を置いていた。


 その隣の椅子に座っている水色の髪に濃い青の瞳、柔らかそうな波打った髪を肩まで伸ばしているのが5歳の淡姫(いき)、さらさらの髪をしているのが3歳の瀧。瀧は龍をその身に宿す希少な先祖返りだ。

 水の国の神の系譜・翠の姉弟である。

 ふたりは15年前霧隠れの里に一族を虐殺され、長きにわたって二人は当主である父親によって鏡の中に封印され、この間水影のメイに保護されたばかりだ。


 その子ども二人の傍にいるのが、癖毛に焦げ茶の髪、赤紫色の瞳をしているのが今年4歳になる椎。の又従兄弟に当たる、土の国の神の系譜・堰だ。

 彼も両親をこの間雷の国の神の系譜・麟に襲われたばかりで、両親は共に昏睡状態で動ける状態ではない。




「…麟は、暁に協力している、わけですわね。」





 蒼雪は全員をぐるりと見回してから、息を吐く。

 唯一ここにいないのは、雷の国の神の系譜・麟。彼らは長らく土の国の堰と争ってきたのは知っていたが、まさか暁と協力しているとは思わなかった。





「で、俺、雪とと、イタチ君、怪我をして戦闘不能の堰家の要君もいれちゃうと全員で10人って事か。」




 青白宮は軽く人差し指を振る。

 イタチは今の鳳凰を躯に飼っているので、白炎を使えるため、炎の神の系譜と同じ扱いだ。





「まぁ、4人は戦力外通告ですわ。子どもと怪我人ですから。」





 蒼雪は冷静に言って、小さく息を吐いた。

 炎一族という大きなゆりかごの中で育ってきた蒼雪や青白宮は今まで他の神の系譜のことを全くと言って良いほど知らなかった。まさか、他の神の系譜がこれほど過酷な状況に置かれていたとは驚きだ。

 一応雲隠れに置かれている本陣で、子どもたちは危険なので預かりと言うことになっている。




「ゆきさま、たたかいがはじまるよね。いつおわる?」





 椎が蒼雪の袖を引っ張って尋ねる。

 椎の父である要と蒼雪は年齢こそ違うが従姉弟同士だ。もちろん椎とも顔見知りである。蒼雪は少し険しい顔をして、椎の前に膝をつく。





「戦い…ではありませんわ。今までにない、大きな戦争です。」





 言い聞かせるように優しく言って、不安そうな椎を宥める。

 まさかこれほどまでに神の系譜が狙われ、利用され、そして殺されてきたとは、年かさの蒼雪や青白宮は正直予想もしていなかった。互いに連絡を取り合わないのが神の系譜同士の常であったので、炎一族がどれだけ恵まれているかを、知らなかったのだ。

 もしも今での宗主が失敗していたら、炎一族の末路も他の神の系譜と変わらなかっただろう。





「母上、」






 は何となく不安になって、母を呼ぶ。蒼雪は柔らかにを安心させるように笑って、口を開く。








「子どもたちは何も心配いりません。私が貴方たちの身の安全は保証しますわ。」





 椎、淡姫、そして瀧は幼すぎて戦力にはならない。自分の身を自分で守ることも出来ないだろう。だからこそ、敵の手に渡らないように、隠しておくのが一番良い。

 蒼雪が言うと、近くにいた雲隠れの忍が深く頷き、彼らを連れて行く。





、」






 何かに怯えるように、淡姫がの方を振り返る。





「また後でね。」





 も子どもたちを安心させるように手を振った。

 子どもたちが出て行ってから、全員がため息をつく。流石に子どもの前で本題の戦争の話をするのはあまりに気が引けたのだ。






「俺たちは、どうすれば良い。」






 榊が無表情ながらも少し唇の端を下げてへの字にして、に問う。

 はつい先日まで総大将である雷影の元で働いており、配置の指示も受けている。は榊の濃い緑色の瞳に少し怯んだが、小さく息を吐いて書類を取り出した。




「んっとね。まず伯父上は医療部隊。護衛は必要だけど、そこに戦力は多くさけないから。樒も一緒ね。」





 医療部隊の多くの忍は他の忍術があまり得意でない。そのため本来なら護衛をつけるのが普通だし、医療部隊の置かれている場所には、警備が必要だ。しかし、多くの警備に手練れを裂くだけの余裕は、連合軍にはない。

 青白宮は薬師であると同時に種なしとはいえ、忍術をすべて破る白炎使いだ。また樒は治癒がどの程度出来るのかは分からないが、彼は風を操るため感知を得意としている。

 二人がいれば、手練れの敵であったとしてもある程度はふせぐことが出来るだろう。




「言われていたとおりだね。」





 青白宮はゆったりと頷いて、の手元の書類を見下ろす。





「…わかった。」






 人を憎み、暁にかつてはいた樒だ。複雑な思いはあるだろうが、少しだけ木の葉にいて心持ちが変わったらしい。複雑そうながらも素直に頷く。





「母上は、大名の護衛。水影のメイ様が一緒だって。」

「わかりましたわ。だと思いましたし。」






 蒼雪もある程度他の影たちから聞いていたのか、予想済みだったようだ。





「あと榊は最初は本部待機で、わたしたちと同じで、個別に時空間忍術で飛ばすって。」





 戦局によって、やイタチ、榊が必要な場所が出てくるだろう。そこに個別に飛ばされるのが、この三人の神の系譜だった。

 戦局を変えるほどに、神の系譜の力は大きい。だからこそ、その準備は連絡班の忍に伝えられていた。





「敵は、どのくらいなんだ?」






 榊は冷静にに問う。

 はそのことについては全く連絡を受けていなかったため、小首を傾げた。偵察隊からの情報をはまだ聞いていない。だが、イタチが複雑そうな表情での肩を叩いて口を開く。




「10万と、言われているが詳しくは分からない…先発の、偵察隊がやられたという話が出ている。」




 イタチは暗部から連絡を受けていたが、がショックを受けるだろうと黙っていた。今のところ戦いはまだ始まっていないが、情報だけが届けられ、偵察隊は消息を絶った。





「え、アンコは?」




 偵察隊の隊長をしていたのはの友人でもあるアンコだ。が震える声で尋ねる。





「分からない。」





 イタチはの手前、ぼやかして答えたが、おそらく情報だけを手元から離して届けたと言うことを考えれば、自ずとアンコや他の隊員の末路は大方想像がつく。余程運が良くない限り、生きていないだろう。





「どうやら敵は地下を移動しているらしい。あとは、どうやら死者を蘇らせているという話だ。」

「死者?」

「あぁ。手練ればかりだろう。予想はつく。」





 何故かは分からないが、死者を蘇らせているのだという。穢土転生というその術は木の葉崩しの際に大蛇丸が使った禁術だ。しかし話ではサスケが出奔した際、大蛇丸は死んだ可能性が高いと言われていたが、何故生きているのか、だれもわからない。





「そんな、わたし、サスケから大蛇丸ひきずりだして、殺したはずだよ。本人、燃えたはずだし。」





 はサスケと戦ったとき、呪印から出てきた大蛇丸を引きずり出して燃やしている。それは間違いない。





「なら、カブトかも知れないが、まだどういった状況なのか、正直分からない。」






 もうすぐ戦いが始まれば、すぐに状況が判明するだろう。戦線が広いこともあり、後手に回ることは分かっていても、臨機応変に動くしかなかった。



動乱