イタチとは転送の術は数が足りず、使えそうになかったため、走って追いかけることになった。
「追いつけそうか?」
犬神に乗っているにイタチは鋭く問う。
「うん。あと5キロってとこだね。カブトは先に翠の当主とおばあさまをこっちの迎撃に向かわせているみたい。…おじいさまも、来る、かも?この速度でいくなら、あと10分。」
「…そうか。カブトに逃げられそうか?」
「うぅん。もう透先眼では捉えているし、匂いも残ってるから大丈夫。」
の透先眼以外でも既に追うことの出来る程、彼との距離は近くなっている。十分イタチの写輪眼だけでも追うことが出来るだろう。例え数時間交戦したとしても、透先眼の視界に入っている限りはカブトがその範囲から逃げ出すことは容易ではない。
結界が仮にあったとしても、はそれを簡単に破ることが出来る。白炎を持つにとって、チャクラを焼いて結界に穴を開けて破壊するなど、朝飯前だ。
「翠の当主、か。淡姫と瀧の、先祖という訳か。」
イタチはぽつりと言って、翠の姉弟を思い出して目じりを下げた。
水の国の神の系譜・翠の当主の姿を見たことは、イタチもも当然ない。何代前かの当主かも分からないが、少なくともこの間保護された翠の姉弟の先祖である事は間違いないだろう。
五大国に一つずつ存在する神の系譜は六道仙人の時代から続く系譜だと言われるが、お互いのことを何も知らないし、全く違う能力を持っている。
翠に関して分かるのは、水の血継限界を持っていると言うことだけだ。
「おまえの炎で燃やさないと穢土転生はとけない。頼むぞ。」
白炎はチャクラを直接焼いて無効化するため、穢土転生を解除することが出来る。
「うん。ちょっと翠は自信ないけど。」
炎を操るにとって、水を操る翠の神の系譜は天敵と言っても相違ない。ましてや穢土転生されているくらいだから、のように未熟な子供ではないだろう。
「って言うか…おじいさまに勝てるのかな…。」
カブトがつれている最後の従者はの祖父である白縹だ。彼は白炎使いであったが、白炎特有のチャクラを焼く性質はなかったという。だが、代わりにどんな術にも干渉する炎を持っていたと言われている。
亡くなった当時、年齢は60代から70代だったと聞いているから、完成された白炎使いだ。
カブトが彼を迎撃に向かわせるならば、先に来る翠の当主との祖母・梢を早く叩いてしまわなければ状況はどんどん不利になる。さすがのイタチとも3対1、しかも二人の神の系譜を相手にするには経験もなく、荷が重い。
「出し惜しみはなしだ。最初から、本気で行くぞ。」
「…うん。わかった。」
は不安そうに足下に目線をやったが、ふと後ろを振り返る。
「…サスケ?」
「え?」
イタチはの呟きに同じように後ろを振り返った。だが今のところ何も見えない。が周りの視界を確認しているため、追尾などはの透先眼に頼っていたため、確認はしていなかった。
「…や、やばいかも。完全に追って来てる。」
はひくりと唇の端を震わせて、犬神の背中をせかすように軽く叩く。だが、スピードは速いのかの表情は険しくなるばかりだ。
数分で人影とともに低い怒鳴り声が後ろから響いた。
「待て!」
「さ、サスケ…!」
「止まるな。、振り切るぞ。」
「え、」
「俺たちにはやらなければならないことがある。」
イタチの鋭い声には後ろ髪引かれる思いを振り切り、前を向く。
「わ、わかった。」
はぎゅっと乗っている犬神の首に抱きつき、スピードを速める犬神に振り落とされないようにしっかり捕まった。だが完全に補足されているため、敵を追いながらサスケを撒くのは至難の業だ。
「待てって言ってンだろうが!!」
サスケの怒鳴り声とともに、須佐能乎がイタチとを捕らえようと手を伸ばす。は息をのんで白炎を展開しようとしたが、イタチの方が早かった。
「須佐能乎!」
イタチの須佐能乎がサスケの須佐能乎の手を払いのける。
「イタチ!3年前の説明しろ!!」
「…そんな暇はない。」
イタチは押し殺した声音のまま、サスケを見ることもなく言った。だが、内心で舌打ちをする。
どうやらサスケにとイタチがうちは一族の憎しみを背負った理由を聞いたらしい。道理で殺したくなるほど憎んでいたを蘇らせたわけだ。真実を知り、上層部がうちは一族の反逆を潰し、イタチがうちはの裏切り者とされた原因が分かったらしい。
道理で、五影会談でダンゾウを狙って殺したわけだ。
「イタチ、サスケをつれたまま、翠の当主とおばあさまに追いついちゃうよ。」
はイタチの隣に並んで、ぼそりと呟く。
「待ちやがれ!おまえらにはごまんと聞きたいことがある!!」
サスケはとイタチが速度を上げても、離れることなくついてきている。この距離になると写輪眼を持つサスケを撒くのは不可能と言っても良い。
「わっ、」
あまりに速く走る犬神の背にしがみつけるほどの握力を持たないは、ずり落ちそうになって悲鳴を上げる。
「、しっかりし…」
イタチが振り向いてサスケに捕まりそうになっているに声をかけようとして、慌てて横に飛び退いた。だが次の瞬間にはっと上を見上げる。そこにあるのは、水鏡だ。
そこに自分が映るのを見て、イタチは別の方向に飛び退き、ついでにの襟首を掴んで一緒に後ろに飛んだ。水鏡に当たった攻撃があっという間に跳ね返り、イタチたちの元々いた場所を通り過ぎて破壊していく。
途端に着地した足下に結界が展開した。
「ちっ!」
「翠の当主がいるよ!!」
は結界を白炎ですぐに破り、着地すると同時に慌てた様子でイタチに言いつのる。霧が辺りに立ちこめており、姿は見えないがどうやら翠の当主からの攻撃らしい。水鏡はおそらく、師でありの父である斎がよく使っている、術を跳ね返すものだ。
「ダブルブッキングだな。」
イタチはため息をついてちらりと追いかけてきているサスケを窺いながら、を見やる。
「イタチ!!」
サスケがイタチの近くに着地し、大きな声で叫んだ。は酷く狼狽して、怒っているサスケと、どうしようか思案しているイタチを交互に見ていた。
サスケに対して複雑な思いがイタチにはある。
を殺したサスケを憎んだこともあった。彼だけでも生きて欲しいと思い、サスケを逃がしたことや恨まれたことにも、後悔がある。だからナルトにサスケのことを任せると約束しながらも、本当にサスケと鉢合わせてしまったら自分がどうしたいのか、イタチには分からなかった。
だが、目じりを下げておろおろしているの姿は、昔、不機嫌なサスケとそれを楽しむイタチとの間で困った顔をしていた。今と同じように。
「3年前の反逆の件、はっきり話して貰おうじゃねぇか。」
「…俺もおまえに、を殺した事について、話を聞きたいところだが…。」
イタチが冷ややかに言うと、サスケはうっと言葉を失って怯んだ。その表情もまた、昔と大きく変わっているようには見えない。
「見て分からないか、俺たちは忙しいんだ。」
イタチは弟にため息をついてそう言い、目の前の男女を見やる。
目の前にいるのは淡い水色の癖毛の色じりの男と、少し波打った紺色の髪をした、10代の少女とも言えるのではないかと思える容姿の女だ。男は狩衣のような袖の長い着物を着ている。女は着物姿だが袖が短かった。
おそらく、男が翠の当主。女がの祖母である梢だろう。翠の当主は神の系譜として水の血継限界を持っているはずだ。また、梢も足が悪いとは言え、遠目の力を持つ透先眼と、お得意の結界術がある。
「あら、まさかあの子だけだと思っていた蒼一族が残っているなんて…。」
梢はに似たおっとりした高い声音で言って、頬に手を当てて軽く小首を傾げて見せた。その小さな仕草すらもにそっくりで、事情のよく分からないサスケは驚きを隠しきれず、刀を構える。
彼女はそれに困ったような笑みを見せて目じりを下げた。
重複