白く輝く鱗粉ともに白い炎を生み出し、辺りを火の海に変える。それがの神の系譜としての力だ。

 つきることのないほどの莫大なチャクラと、他者のチャクラを直接焼き、抵抗できないようにしてすべてを奪う力。



 ―――――――――――――――化け物っ!!




 怯えた瞳で、言われた遠い日を未だにまだ覚えている。

 敵国の忍だけでなく、すべての忍にとっての能力は化け物と言うに等しいものだった。人柱力は確かに体に化け物を封じられているのかも知れない。だが、はその化け物そのものだ。

 己が体に莫大なチャクラを持ち、特別な血継限界を持つ。

 力を恐れる人にとって、力しか見ていない人にとって、はただの化け物でしかない。絶対的な死を与える存在でしかない。

 そんなことはとっくに知っている。

 自分はなんなのだろうと、思う事はあった。今でもどうして自分がこんな力を持っているのだろうと、不思議に思う。自分は何なのか、ここにいても良いのか、人ではないのか、それをずっと考え続けた神の系譜の気持ちは痛いほどに分かる。

 だが、それでもには捨てきれない物がある。



 ―――――――――――――――大好きだよ、





 いつも父が抱き締めてくれるその腕が、その声が、自分を化け物として、ただの兵器としてしか感じられなくなる心許ない瞬間を、いつも支えてくれた。一緒に歩いてくれる仲間や、一族が、恋人が、泣きたくなるの背中を押してくれた。

 自分を疑う時、自分を支え続けてくれたのは、力ではない。ちっぽけな人の愛情だった。

 の幼い頃は愛情に満たされていた。泣けば父母やイタチが血相を変え、サスケが困った顔で狼狽え、一族の者が頭を撫でてくれる。そこに命の危険も、怯えも、恐怖も、何もなかった。ただ、温かい感情に満たされていた。

 でもきっと愛情も与えられず、自分も信じられず、力故にただ一族に崇められ、そして他者や里から疎まれ、憎まれ続ければ、自分だってきっと変わっていたかも知れない。

 たくさんの他の神の系譜がそうであったように。死んでいったように。




「千鳥!」




 サスケが雷遁を放ち、梢が作り出した水鏡を壊す。だがそれはすぐに再生された。翠の当主・浮が大量の水を作り出すため、水を性質変化とする梢はいくらでも、水鏡を再生することが出来るのだ。

 水鏡は攻撃を跳ね返してくる。結界はその機動を折り曲げてくる。厄介そのものだった。





「どこからでも、水を作り出せるのか。」




 サスケは舌打ちをして、浮を睨み付ける。




の炎と同じだな。だが、水鏡を何とかしないと。」




 イタチも冷静に分析して、ため息をついた。

 神の系譜の血継限界は厄介だ。そのチャクラがつきない限り、印も結ばすに自分の性質の力を無尽蔵に生み出す。そして彼らのチャクラはまさに莫大で、尾獣にも匹敵すると言われる。彼らを倒すことは簡単ではない。

 とはいえ、攻撃を跳ね返す水鏡がどこに出現するのか分からない状態では、攻撃を避けたところで跳ね返すのが難しくなる。かといって簡単に水鏡を作っている梢を倒させるほど、浮も簡単な相手ではない。

 イタチとサスケが睨み付けていると、水鏡の中心に突然一閃が突き立てられた。途端に水鏡が音を立てて崩壊し、水に戻る。




「白隼なら、いける。」



 は自分の傍に生み出した白炎を圧縮した球体からまっすぐと走ったビームは、水鏡と近くにあった結界を崩壊させる。




「…確かにただの白炎じゃ水に消されちゃうけど、密度を変えれば良いって事だよ。」




 炎は水に弱い。だから水を浴びればチャクラを焼くという効果を発揮する前に消えてしまう。だが密度を変え、炎を圧縮すれば、水に消される前にチャクラを焼くという効果を発揮することが出来る。そうすれば術は破れる。

 ただし、役に立つのは高濃度に圧縮した白炎を使用する白隼だけのようだ。




「十分だよ。」




 は白炎の蝶を分裂させる。ふわふわと頼りなげに飛ぶ白炎の蝶は、しかしその鱗粉でまた増殖し、白炎を圧縮した球体を大量生産していく。 




、水鏡と結界を壊せるな?」




 イタチが確認のように尋ねて、をちらりと窺う。



「…できる。」

「なら刀と目を貸せ、」

「うん。」




 は背中に背負っていた細身の刀をイタチに軽く放り投げた。イタチはその鞘を迷いなくはらう。

 刀身が薄い水色のその刀は蒼一族に長らく伝わる物で、チャクラを通すことで貫通度を高めることが出来る、非常に珍しい一品だ。風の性質変化を持つイタチであれば、刀身の長さもかなりあるので、基本的に岩でも切り裂くことが出来る。

 の片目を貸せば、透先眼で全方包囲の視界を手に入れることが出来る。また片目の写輪眼で基本的にどんな術も見抜けるため、かなり有益だ。




「わたし、片方見えなくても大丈夫だよ?」






 が完全に片目をイタチに貸し、そしてイタチがに写輪眼を貸さなければ、は片目が見えないことになる。だが、イタチは両目があれば万華鏡写輪眼をフルに使えるという利点がある。が言うと、イタチは首を振った。



「いや、それはしない。おまえも何かあった時のために、写輪眼で見えた方が良い。」




 援護だけだが、写輪眼で見抜けるものは多い。が遠距離からの援護、イタチが前に出るからと言って、今回はを完全に防御することは不可能だ。どちらも見抜ける状態でなければ困る。




「もし必要なら、オレがに目を貸す。」




 サスケが前に出て、イタチに言う。



「オレが攻撃を通さない、それで問題無いだろう?」




 イタチが一番前に、サスケが二番目に、が長距離援護で前に出ないのならば、サスケは援護しながらを防御することが出来、は援護だけに専念できる。どちらにしてもに水鏡を破って貰わねば話にならないのだ。それにが集中する間に、を守る役目はサスケが担うべきだ。



「…」




 イタチは少し眉を寄せてサスケを見た。を殺した前科のある弟を完全に信用するというのは、非常に難しい。




「大丈夫だよ、イタチ。」




 はにっこりと笑って、イタチの背中を押す。




「わたしたちなら、出来るよ。わたしは、サスケを信じてる。」

「…」




 の言葉に、イタチはぐっと言いたいことを飲み込む。

 守られるのは、あくまでだ。彼女が言うのならば、信じなければならない。は振り向いたイタチににっこりと目を細めて笑って見せてから、浮に向き直る。

 彼は薄水色の髪を揺らしながら、を見据えていた。




「貴方の悲しみは、わたしにはきっとわからない。わたしは幸せに育った。本当に、普通に」





 貴方に共感できるなどと言う、おこがましいことは言わない。同じ神の系譜であっても、彼らのことをはよく知らないし、は両親と一族に守られ、驚くほどに幸せに育った。孤独を感じることはあっても、それは化け物故ではなく、ただ体が弱い故だった。

 それでも、父母やイタチから与えられる愛情に、満たされていた。

 アカデミーに行ってからも、友人たちはに優しく、幼なじみだったサスケも良くしてくれた。病弱だった頃に感じた孤独は、一切なかった。




「やめろ。すべてが終わる世界とは言え、我は哀れな同胞を殺したくはない。」





 浮は穢土転生で曇った瞳でに言う。

 どんなに世界を憎もうと、殺されようと、違う一族とはいえ世界に五つしかない一族の同胞を殺したくはないのだろう。だが、だって譲れない。




「わたしは、一人じゃないから、この命は捨てられないし、わたしもみんなのために戦うんだよ。」




 は決して一人ではない。大切な家族や恋人、そして仲間たちがいる。それを捨てることは、自分を捨てることと同義だ。



「…貴方とももっと違った形で、笑いながら会いたかったな。」




 目の前の浮に、は心の底から思う。

 風の国・飃の兄弟に会ったときも、そして浮の子供である瀧や淡姫を助けたときも、そう思った。何故戦いと悲しみの中で会わなければならないんだろうと。




「でも、わたしたちにはまだチャンスがあるんだ。」




 確かに出会いこそ悲しい形だった。けれど、これから互いに理解し合い、痛みを共有することが十分に出来るはずだ。その時間が、生きているたちにはある。

 そして同じように、人ともわかり合えるはずだと、信じていた。
恭樹