の祖母、梢が消えゆくと、イタチは腕の中にいるを見下ろす。



、斎先生に言われてから聞きたかったんだが、うちは一族に嫁いだ人間の素性はわかっているのか?」

「蒼一族から嫁いだ奴の墓なんてないぞ。」



 イタチの言葉に、サスケが付け足す。

 他家から嫁いだならば、その旨が墓石に刻まれるはずだ。もしくは家紋を刻まれる。イタチも確かにうちは一族から炎一族に婿にとられたわけだが、墓石にはおそらく2つの家紋、炎とうちはのものが刻まれるだろう。

 しかし、イタチはサスケの言葉を否定するように、横に首を振った。



「神社一番近くにある、祠、あれじゃないのか?」



 最近墓参りなど全くと言って良いほど言っていないから覚えていないし、殉職した場合は木の葉の里にある殉職者用の墓に埋葬されるので定かではないが、神社の近く随分と立派な祠があったはずだ。



「阿加流神社の片端にあるあれは、確かアカル姫が建立したものだ。名もない祠を作ったのだとしたら、理由があるんだろう。」



 うちはマダラの娘で、阿加流姫神と同じ名前を冠していた姫君があの祠を建立したとうちは一族では伝わっている。しかも恋結の神様として、今でもたまにあの祠には木の葉の里の者が訪れることでも有名だ。

 あそこで売られている金魚を男が女に贈ると両思いになれると言われている。祠が阿加流神社の中でも少しへんぴな場所にあるのも、信憑性を裏付けるような気がするのだ。



「あれは、相当古いんじゃないのか?しかもただ単に阿加流姫神を奉った物だろう?」



 サスケは眉を寄せた。阿加流姫神は瑪瑙を司る日の出の神で、写輪眼に見立ててよくうちは一族では崇められていた。同じ名を冠していた姫君がその祠を建立していたとしてもおかしくはない。



「・・・あまり言いたくはないがな、おまえらと阿加流神社でばったりとあったことがあるだろう?」




 イタチは少しばつが悪そうに話をした。それはまだカカシについてすぐの頃、演習で神社を荒らすイノシシを倒すことになった七班は、ばったり阿加流神社でイタチと一緒に来ていたシスイとあったことがある。




「・・・」




 当時はイノシシの事と兄がいた苛立ちとでサスケは兄がどうしてそこにいたかまで思い至らなかったが、多分彼はに渡すための金魚を買いに行ったのだろう。




「その時、祠のご神体を見たんだ。骨壺だったよ。」

「それ、変だよ。イタチ。なんで、骨?」




 イタチの話は根本的におかしくて、は首を傾げた。

 の先祖も一部神社に祀られているが、あまりに昔の伝説のような話であり、流石に骨のありかなど既に分かった物では無く、骨自体が祀られていることはない。また、墓所だといわれる場所は別にあることが多かった。




「さぁな。だが、骨だった。」



 シスイとイタチが何処まで見たのかは全く分からないが、それでも確信してはっきり言うと言うことは、中身もそうだったのだろう。普通神社には鏡や石などのご神体が置いてある物で、骨壺というのは要するに人間を奉っていると言うことになる。




「…もしかして、そのアカル姫って可能性も、あるんじゃ…。」

「それはない。アカル姫の墓は、終末の谷の傍らにある。」



 サスケの答えは意外な物だった。うちは一族の旧来の墓所でも、木の葉の墓所でもない所に墓が建っていると知らなかったからだ。



「その方は、どんな方だったの?」

「アカル姫か?俺たちも詳しく知るわけではないが、簡単に言えばうちはマダラの娘だった。」




 イタチはサスケと顔を見合わせながら、分かっている事実だけを述べる。

 アカル姫に関しては、イタチとサスケもある程度は知っている。なぜならイタチの母方の祖母にも当たるからだ。




「うちはマダラが、千手柱間と争ったことは、も知っているだろう?」

「うん。」

「その時、マダラにうちは一族がなびかないように音頭を取ったのが、アカル姫だったと言われている。」



 それは遠い歴史の授業のような話だった。彼女はうちは一族のために、父親に反旗を翻したのだ。そうすれば父親が孤立すると知っていても、彼女はその道を選んだ。



「当時彼女自身もまだ12、3歳だったが、非常に聡明だったそうだ。まあ当然だが、うちは一族の求心力は落ちた。」



 サスケは辛辣な意見を付け足した。

 うちは一族は頭領であったマダラの元に動いていた。しかし彼の嫡男はまだまだ幼く、当然だが力もない。アカル姫ですらも12歳を数えた程度だったと言われている。とはいえ当時ならば十分大人と言われる年齢だ。

 外戚も強くない彼女が幼い弟を支えられるわけもなく、結果的にマダラの反逆の後、うちは一族の木の葉での重要性は地に落ちた。



「生母は?」



 はふと、イタチとサスケに問う。



「そのアカル姫の母上はどうしたの?」

「さぁな。マダラの妻が誰だったのか、詳しくは俺たちにも伝わってない。…それが、梢様がおっしゃったお方と言うことか?」




 イタチは首を傾げ、サスケも分からないと首を横に振る。

 うちは一族ではマダラの子供たちの生母については全くと言ってよいほど伝わっていない。の父親である斎に聞くまでは、蒼一族の人間がうちは一族に嫁いだことがある事すらも知らなかったぐらいだ。しかもマダラの事は、事実を追えないほどに昔の話ではない。




「その時期って、わたしたち蒼一族は、二代目火影に嫁を出したはずだよ?」




 マダラが生きていた頃、ちょうど蒼一族は二代目火影である扉間に嫁を出したはずだ。だからこそ、千手の綱手とたち蒼一族は親族として今も扱われているのだ。



「系図を見たことはないけど、・・・3代前くらい、ちょうどおばあさまの父上くらいの頃は、兄姉が三人だった気がする・・・性別はわからないけど、」



 とて正しく自分の系図を見たことはないが、ちらっと見た時に何代か前に兄姉三人のところがあった。近親婚を重ねているため、蒼一族は子供が少ないことが多い。そのため三人兄弟、印象に残っていたのだ。

 ただ、蒼一族は形式的に名前に性別があまり明確ではなく、系図を見た限り性別まではわからない。もしも梢の話が確かならば、マダラに嫁いだ人間は梢の伯母であり、ぴたりと系図に合致する。



「うちはの頭領と、千手の次男に嫁いだぐらいだ。当時蒼一族が何人いたのかはともかく、蒼一族の中でそれ程離れた血筋だったとは思えないな。」



 サスケはの言葉から推測して、結論づける。

 うちはの頭領や千手の次男に嫁げた娘を考えれば、蒼一族の中でもそれなりの家柄であったと考えるのが妥当だ。ましてや蒼一族は元々人数が少なく、三十人前後だった。宿敵同士だったうちは、千手に嫁いだそれぞれの女が、近親だったと考えるのが妥当だ。



「父上言ってた。二人とも相次いで亡くなったけど、うちはマダラの奥方を殺したのは、千手だって話が出たって。」



 サスケは聞いていないだろうが、その話をイタチもも同時に聞かされた。




『千手が、殺したと言われて、それが後々うちは一族と千手の苛烈な争いの原因になった。その後和解した後、彼女のことは誰も口に出さなくなった。深い因縁だよ。』




 祠に名がないのは、争いの原因となった彼女を和解の後、誰もおおっぴらに口出しすることが出来なくなったからではないだろうか。



「アカル姫はどんな気持ちだったんだろう。」



 和平のために忘れられていく母親を忘れたくなかったのではないだろうか、だから祠を建てた。マダラが和解を受け入れることが出来ずに反旗を翻したのは、なくした物が多すぎて、過去にとらわれたからではないだろうか。アカル姫はどんな心地で去りゆく父親の背中を見送ったのだろう。

 和を願ったアカル姫の願いもむなしく、結果的に互いの憎しみは差別を産み、フガクとともにうちは一族は反逆を企てた。

 それは仮定でしかないが、あまりにも悲しい。



「なんで、」



 アカル姫の母親だった女性も、きっと自分の存在が蒼一族と、しいては千手とうちはの架け橋になると信じていただろう。それが結局は争いの糧になってしまった。

 沢山の人の願いが無視されていく。それぞれに苦しい立場だったはずだ。悲しい思いをしたはずだ。それを堪えて、懸命に生き、そして死んだ。生きている者たちに、願いを託して。しかし残された人間はどうしても互いを許すことが出来なかった。あまりに大切な人たちを失ってしまったから。



「因縁、か。」



 サスケは小さく呟いて、隣り合って目じりを下げている自分の兄とを見やってから、終末の谷で見たうちはマダラの像と蒼一族の女が寄り添っている姿を想像する。

 だがサスケが想像できる蒼一族の女は、とそっくりの容姿でしかなかった。



「…」



 仮にがナルトに殺されれば、どういう形であれサスケはナルトを許すことが出来ないだろう。今とて、うちは一族を散々利用し、いらなくなった途端に切り、そのためにイタチを利用した木の葉の里を許すことは出来ない。 


 だが、はどう思うだろうか。それが仮に不慮の事態だったとして、殺されたはナルトを憎むだろうか。



 運が悪かったの、と困って悲しそうな顔をするしか、想像が出来ない。





「・・・おじいさまなら、知ってるかも。」





 はイタチを見上げて、小さく言う。

 父である斎の情報では、の母方の祖母である炎一族当主白縹も穢土転生されていると言っていた。しかもカブトとともに行動しているという。

 彼は長命で有名な炎一族の当主らしく長く生きており、子供だったとはいえ、マダラや柱間など木の葉の創設時代を実際に見てきたはずだ。




「好都合だ、どのみち穢土転生を止めるんだろう?」





 サスケはまだ思案しているとイタチにため息混じりに言う。



「そうだな、急ぐか。」



 イタチは気のない返事を返したが、その強い意志を持つ瞳は完全に白縹とカブトがいる方向を見ていた。




絶望