里から与えられたものはどんなものだったのか、アカデミーを出て少ししか里にいなかったサスケにはよく分からない。

 イタチはうちは一族と里の間の板挟みとなり、は里の思惑によってうちは一族と炎一族の板挟みになった。それを抱えて、つぶれかけてもそれを抱えて生きる事が正しいのか、サスケにはまだよく分からない。

 むしろその覚悟を利用した里に、憎しみすら感じる。




「…」




 目の前にいるのは、常にサスケとともにあり続けたうちは一族の兄と、炎一族の東宮である幼なじみのだ。

 二人はいつもともにあり続けてきた。

 例え記憶をなくしてもが兄を忘れられなかったように、彼もまたを一番に思っている。兄弟だったが、そこにはサスケも入り込むことは出来なかった。幼い頃から年齢は違えどいつも兄とが思いあっていることはわかりきっているから。

 それでも、兄はを一度は手にかけたサスケを殺せないという。

 そしてイタチと寄り添うもまた、結局サスケを手にかけようとはしない。ただ生きていて欲しいと、そうしてイタチと寄り添い続けている。



「…オレは、」 




 のために、そしてイタチのために里なんていらないと思った。

 彼女に優しい世界をあげたいと思った。何もかも忘れてしまえば良いと思ったのに、彼女はすべてを思い出した。すべてを放り投げ、里を忘れることも出来なかった。人の思いというのはそれ程に強い物なのだ。




「そのの祖父だって言う宗主は、なんでうちは一族が差別をされたのか、知ってるのか?」




 サスケは二人に問う。




「…始まりからの因縁だと言われている。」




 木の葉を作り上げたのはうちは一族と千手一族だったと言われている。しかし同時に、うちは一族の頭領だったはずのマダラは離反し、九尾をつれて里に反逆した。それによってマダラになびかなかったうちは一族の者たちですらも、差別されるようになった。

 だが、イタチの答えは、答えになっていない。



「何故争いはそこまで激化したんだ。」




 サスケの問いに答えはない。



「…わかんない。でも多分、わたしのおじいさまがマダラを知っている世代なのは、間違いないと思う。」



 はサスケの質問に戸惑いながらもそう答えた。

 炎一族は昔から木の葉隠れの里の近くの山に住んでいたはずだ。千手とうちは一族のもめ事を全く知らなかったとは思えない。ましてや予言の力を持っていた木の葉隠れの蒼一族と友好的な関係があったくらいだ。全く関わりがないとは思えないし、穢土転生されている中で、一番マダラを実際に見た人物であることに間違いはなさそうだった。

 しかも、里の利害とは関係ない、全く中立の立場で。



「…なら、俺はそいつに会いに行く。」



 サスケは自分の刀に手を当てて、一つ頷く。




「だが、」

「あんたは行かなくちゃならないんじゃないのか?」

「…」




 イタチはぐっと黙り込む。

 かイタチのどちらかが、ナルトとビーの援護に行かねばならない。穢土転生を止める役目はが担うのが妥当だ。なぜなら少なくともカブトともにいる白縹を倒せる可能性が高いのはだからだ。




「穢土転生を止めるんだろ。俺は大蛇丸に用がある。カブトを倒す、それまではつきあってやる。」 



 サスケはじっと兄であるイタチを見上げる。イタチは眉を寄せて酷く困惑した顔をしたが、を見やる。



「うん。そうだね。ナルトとビーさんが死んじゃったら、話が終わっちゃうし。」




 はあっさりと覚悟を決めたようで、大きく頷いた。




「おまえはそれで良いのか?」




 イタチはに改めて問う。

 を一度殺したのは間違いなくサスケで、それを彼女も理解しているはずだ。なのに、はサスケと行くと言う。




「…え?なんで?」





 は尋ね返したイタチの言葉の方が分からないのか、首を軽く傾げる。



「オレは、を傷つけたりしない。二度と。」



 サスケはイタチの懸念を払拭するように、口を開いた。

 を殺したという事実と罪は間違いなく万華鏡写輪眼という明確な形でサスケの元に残っている。だから信じてくれとは言えない。だが、苦しみ、イタチのためとずっと痛みを堪えてきたを、自分もまた傷つけ続けていたのだと気づいた。

 はいつも変わらない。ただサスケの、そしてイタチのためを思って戦い続ける。かつて両親やイタチのために、病に苦しみながらも笑い続けたように。





「わたしも後で行くよ。ナルト心配だし。」




 ナルトとビーがどんな戦いをしているのか確認していないが、苦戦していることだろう。カブトと白縹を倒せば、すぐにナルト達の元に合流しなければならない。



「だから心配しないで。」




 はイタチの手を握って、笑う。

 サスケはいつもとイタチのやりとりを歯がゆい思いで見つめ続けてきた。幼い頃から二人は思いあっていて、誰の目から見ても、二人の一族を知らない誰もがふたりの将来を想像しただろう。二人の両親もまたそのことを認めていた。

 いつもイタチがを見る目は柔らかで、がイタチを見る目は優しかった。

 ふたりの中で、サスケはどこかいつも疎外感に苛まれ、いたたまれなかった。それでも二人は何があっても、何をしていても、サスケのことが大切だと言ってくれた。認めてくれた。多分、ずっと誰よりもサスケを認めてくれていたのは、両親でも誰でもなく、二人だったのかも知れない。

 イタチとを憎んでいた。ふたりが自分のすべてを奪ったように感じていたけれど、ある意味で、里が彼らの穏やかな時間のすべてを奪ったと言っても過言ではなかった。また同時に、サスケが二人を憎んだことが、彼らの穏やかな時間を奪った。二人を追い詰めた。


 だから、今度こそ。





「オレが、を守る。」





 信じてくれとは言わない。だがそれはサスケの心からの真実だった。




「わかった。」




 イタチはを見て、大きなため息とともに言葉を押し出す。




「俺はナルトとビーの元に行く。だが、おまえも気をつけろ。」




 離れると言うことになれば、心配になる。守ってやることも出来ない。

 の鳳凰はが引き出すことは出来ないから、イタチの傍にいることになる。イタチが傍にいなければ、鳳凰すらを守ることは出来ない。は自分の力で勝ち抜くしかないのだ。




「うん。すぐ帰るよ。」




 は柔らかく笑って、イタチに抱きつく。

 それはちっとも昔と変わらない光景だった。いつも彼女はこうして嬉しそうにイタチに抱きついて、帰る時は寂しそうに、それでも笑顔でイタチに抱きついていた。



「あぁ。」



 イタチは強くを抱き返してから、離れる。

 昔からに対して彼は過保護だった。本当はに戦って欲しくなかっただろう。その気持ちはサスケにも痛いほどよく分かる。



を、頼むぞ。」



 イタチはサスケに強い眼差しを向ける。そこには未だにまだ疑念が含まれていたが、サスケはそれを知らない振りをした。仮に疑念があったとしても、を託してくれることに変わりはないのだ。



、」




 イタチはを送り出すように、彼女の背中を躊躇いがちながらも押した。




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