白縹は銀色の柔らかそうなさらりとした髪に、灰青色の瞳。質の良さそうな紫色の狩衣を身に纏った無表情の壮年の男だった。寿命を迎えるまでに百年程生きていたはずだったが、男はせいぜい四十前後の容姿で、ただ無感情にたちを見下ろしている。
白縹からの否定に、は目を伏せたが、それでも自分の肩に乗る蝶に指示を出しながら間合いを計る。
「どうする?」
サスケはに端的に問う。
「サスケは前に出ないで。わたしは炎に当たっても平気だから。」
白炎は同じ白炎使いにはきかない。火の国の神の系譜である炎一族の直系は、炎に強い体を生まれた時から持っている。それは蒼一族の血が濃いも同じだ。ただし、サスケがその炎にあたれば即死である。
「…どちらにしても、我は汝を殺す以外に道はない。」
白縹は小さなため息をついて、すっと自分の手をさしのべる。だがそこには何もない。
白炎使いは基本的に何らかの動植物を炎の媒介としている場合が多い。の媒介は蝶であり、母である蒼雪の媒介は鶏冠と尾羽の美しいケツァールという鳥によく似ている。だが白縹の媒介は少なくとも見あたらない。
出方が分からない以上が前に出るのが得策だ。
ましてやチャクラを色で捉える写輪眼ですらも、白炎使いのチャクラの色は透明で、捉えることが出来ないのだから、出方を窺うに越したことはない。だが、異変に先に気づいたのはサスケだった。
「足下だ!」
サスケがの手を引き、飛び退き固い岩の上に着地する。
「え、」
が先ほどまでいた場所を見ると、白い何かがうごめいていた。
「…何、あれ、」
「蟻だ、」
サスケは疎ましそうに答える。それと同時にぶわっと白い粒が溢れ、群をなしてたちに襲いかかる。あまりの数にサスケはすぐに印を結んだ。
「火遁、豪火球の術!!」
あたりを炎が埋め尽くし、蟻を焼いていく。だが、それはすぐに蟻によって崩壊した。
「どういうことだ?」
「白紅!」
は蝶の鱗粉で蟻を一気に焼き尽くす。これは蟻にも有効だったらしく、蟻はぼろぼろと崩れ落ち、一部の物は土の中に戻っていった。
「なるほど、だから、彼は穢土転生されたんだ。」
は蟻の特性を理解して納得する。
「どういうことだ?」
「おじいさまは、白炎を持ってるけど、蟻がチャクラを直接食べちゃう形なんだよ。」
普通の白炎使いはチャクラを焼く白炎を持っており、それは主の危険を感じれば自動的に展開する。しかし、その形式は様々で、媒介も様々である。の白炎の蝶は形態によっては触れるだけであたりのチャクラを燃やす効能を持ち、自動的に展開する。
ただし、恐らく白縹の白炎の蟻はそのままでは無害で、蟻そのものがチャクラを食べることによって爆発的に増え、同時に術を瓦解させる。他人のチャクラを食らって増えるという特性があるのだ。それはチャクラを直接焼いて術を破壊するだけの白炎使いよりも忍相手には有効的だ。
しかしそれが穢土転生をされる一番の要因となった。
他人のチャクラを自動展開の段階では直接焼くことが出来ず、普通の白炎使いと違い、穢土転生に抵抗する術がなかったのだ。普通の白炎使いならばおそらく穢土転生されると同時にすぐその白炎で、術者を襲うことも、自分の穢土転生を解くことも出来た。
蟻に食わせなければどうにもできない白縹は、直接自分の白炎で穢土転生を解くことは出来ないまま、操られてしまったのだろう。
「他人に術を、すぐには燃やせないってことか?」
「うん。多分ね。でもそれは別に、わたしにとっては有利なところじゃない。厄介だよ。チャクラ取られちゃう。」
彼は自分が神の系譜として莫大なチャクラを持つだけでなく、他人のチャクラを食らうのだ。
「だが、おまえのチャクラで蟻は燃やせる。」
「…うん。わたしのは白炎だからね。」
だが、サスケの術は基本的に無効化されると言うことになる。もちろん蟻が食べる速度があるためそれを上回る攻撃であればきくだろうが、あれだけの蟻の数だ。しかも飛んでくるとなれば簡単なことではない。
「ぼさっとしているとたかられて終わりだぞ、」
白縹は腕組みをしてたちに言う。
いつの間にか足下には蟻がたかってきていて、サスケは舌打ちをしてその場所から別の岩に飛んだ。地面は柔らかすぎて、すぐに蟻が地中を通ってくるだろう。しかし見る限り岩の方も同じようで、じわじわと崩壊させることが出来るようだ。
「白片!」
が蝶を大量に生み出し、その鱗粉で炎を作り出して羽蟻をすべてたたき落とす。それと同時に腰にあった水色の刀身の刀を構え、地を蹴る。
「!」
サスケが叫ぶのを聞かず、は蟻を燃やしながら一直線に白縹の元へと走り込む。
「はやいな、」
淡々としてはいるが、少し声をうわずらせて白縹は目の前にいる少女を見て、ふわりと避ける。そしてに羽蟻を仕掛けようとするが、もそれを蝶の鱗粉でたたき落とす。
「そいつは影分身だ!!」
サスケがを怒鳴りつける。の刃は僅かに白縹を捉えたが、次の瞬間、その白縹が蟻になった。
「え?」
あまりのことには目を丸くして、その場から飛び退く。それは実に正しい判断だった。途端に今がいた場所をすべて白い蟻が埋め尽くした。
は顔を真っ青にしてサスケの隣まで退却する。
「勝手な行動をするな!」
サスケはの肩をがっと掴んで思わず怒鳴りつけた。
サスケの写輪眼は色でチャクラを捉える。確かに白炎使いのチャクラは透明だが、同時に写輪眼ではたちの影分身は透明に見えるのだ。元の視界と照らし合わせれば、すぐに影分身だと分かる。
「ご、ごめん…」
は目じりを下げて僅かに俯く。
「ひとりで行くな。オレはイタチにおまえを任されてるんだぞ。これ以上借りを作るのはごめんだ。」
「で、でも、どうしよう、蟻なんて、」
「おまえ、ちっとも変わってないな。」
サスケはため息交じりに視線をそらしてから、鋭い目を白縹に向ける。
「厄介だな。」
小さく何処にでも入り込んでしまう蟻の対処は、小さいが故に難しい。の炎の蝶は確かに有効的だが、それでも蟻は数も莫大だ。しかも写輪眼では白炎は透明に見えるので、良い対策方法がない。
は歴代の白炎使いよりも遥かにチャクラ量が多いと聞くが、本気でぶつかり合えば実力としても拮抗する。いや、サスケのその考え自体、甘いかも知れない。むしろ白炎使いとしてはまだ経験の浅いの方がすぐにぼろが出るだろう。
羽蟻が飛んでくるのを、が何とか蝶で焼いて落とすが、それをしていれば足下の蟻にまで目が行かない。それは大きな隙になる。今のところ足下の蟻はサスケが見ているが、対応できるのがひとりではサスケは指示だけで、何も出来ない。
このまま手を打たなければやられるのはこちらだ。
「どうやって小さいのを殺すか…」
サスケはの肩でぱたぱたと羽を動かしている白炎の蝶を見やる。
蟻を直接燃やすことが出来るの白炎は蟻にも有効だ。だがは大方蝶が纏っている白炎、もしくは鱗粉を使っているため、蝶のいる範囲しか白炎を展開できない。対して蟻は地中にまで入って行く事が出来る上に小さい。
地中に入っている蟻をどうやって殺すか。
「あ…そっか、」
はぽんっと手を叩く。
「どうした?」
「そうだよ。蟻なんでしょう?わたし、蝶々だもん。」
木の葉隠れの里から少し離れたところにある炎一族邸の周りは森などもあり、もちろん蟻も生息している。それらはたまに農作物や家の邪魔になる事があり、それを駆除しているのをも見たことがあったのだ。
「多分、いけると思うんだよね。」
は耳を貸してと彼の服の袖を引っ張る。サスケは彼女の言葉に耳を傾けて、目を丸くした。
克服