サスケに似た長い黒髪の少年に送られて学校にきたのは、小柄な少女だった。





 長く艶やかな紺色の髪が電灯の光に反射して青く光る。

 肌は骨董人形のように白くて、顔立ちはそつなく整い、大きな紺色の瞳だけが少したれていた。

 桜色の唇が閉じたり開かれたり、言葉を発するのにためらっているようだ。

 細い眉が、不安そうにハの字を書いている。






「病気で休んでいた蒼が、こうして学校に来ることになった。がアカデミーに慣れるまで、みんないろいろ教
えてやってくれ、」






 担任のイルカが言うと、不安げながら、は頭を下げた。



 可愛い子だ。



 イルカはの背を押して、席に着くように促す。

 どこの席に着いても良いのだが、は階段を上がってきょろきょろとどこに座ったら良いのかと迷っていた。

 だからサクラは声をかけることにした。







「こっちにおいでよ。」






 手招きをして呼ぶと、は嬉しそうにサクラの近くに来て座った。

 子犬のようだ。







「わたしはサクラ、春野サクラよ。」

「蒼、よろしくね。」







 簡単な自己紹介をする。

 サクラの隣から、女の子が割り込んだ。







「抜け駆けはなしよ。あたしはいの、よっろしくー、」







 軽く、いのも自己紹介をする。



 はきょとんとしたが、にこりと笑った。



 なんだか、笑い方がとても無邪気で幼い。

 病気であまり外に出ていなかったからだろうか。

 その幼い笑顔が可愛くて、思わずサクラといのはふたりでを抱きしめてしまった。






「可愛い、困ったことがあったら何でも言ってね。」

「そうそう、勉強だって何でも教えるわ。」






 強気な二人には、ありがとうと素直にお礼を言う。







「でも、たぶんお勉強は大丈夫。」

「どうして?」

「ずっと教えてもらっていたから。」






 は病気で外に出てはいないが、勉強を教えてもらっていないわけではない。



 両親は優秀な忍だし、イタチがいる。



 三日に一度程度必ず炎一族の屋敷を訪れる彼は、いつもに勉強を教えてくれていた。

 今は家出して、屋敷に居候しているから、帰って聞いたら教えてくれるだろう。

 アカデミーに行けることが決まってから数日間、イタチは実技のほうの忍術を熱心にに教えてくれた。

 今のところ授業についていくには困らないと思う。







のお母さんって確か、炎一族の宗主よね。」

「えっ、お嬢様なの、」

「そんなことも知らないの、いの。」






 いのを鼻で笑ってサクラは続ける。






「確かサスケ君のお兄さんが許嫁なんでしょ?」

「・・・うん。なんかそうなったんだって、」






 父が言っていたけれど、にはよくわからない。

 最初はサスケが許嫁になるかも、みたいなことをずっと言っていたが、最近イタチになったらしい。

 サスケとイタチは兄弟だ。

 ひとまずどちらか、と言うことだったのだろう。




 でもそもそも許嫁って何?



 がその辺のことに疎い。








「うちはの長男って、すごいエリートだって聞いた。暗部でしょ?」

「うちはだけでエリートじゃん。」

「うるさい、いの豚。うちはの中でもすごいらしいもの。どんな人?」

「・・・・んー、優しいよ。なんだかねー・・・大きな熊さんみたい!」






 のよくわからない形容に二人の目が点になる。



 熊さん。



 サスケの兄と言うことを考えれば大男なんて想像できない。

 いったいどんな人なのか、さっぱり彼女の言葉ではわからない。

 としては、強いのを大きいのに例えただけなのだが、いまいち伝わらない。







「でもが、サスケ君のお兄さんの許嫁ってなると、サスケ君は義弟?」

「えっ、姉弟ってことになるのかな?わかんないや。」

「年はのほうが上?」

「三ヶ月くらい年上。」

「でも良いポジション。なんだかすてき。」







 いのが楽しそうに笑う。

 サスケが好きな二人には良いポジションだ。







「なんだか良いなぁ、許嫁。としてはどうなの?」






 サクラがに詰め寄る。



 許嫁なんて、親が決めるものだ。

 彼女の本心を知りたくて、サクラもいのも本気で尋ねる。

 でもはどうなの、と言われても困る。






「イタチは父上様の教え子で、よくうちに来ていたから仲良しだし、好き、だよ?」





 忙しいのに外に出られないのために、いつもたくさん来てくれた。


 もちろん屋敷のものだって、宗主の一粒種のを決して粗雑には扱わないが、東宮として敬い、傅かれるのを
は好まない。

 だから普通に接してくれるイタチは、一番大切な人だ。







「それに、イタチはすごいの。暗部の分隊長なんだって。わたしもがんばらなくちゃ。」






 ぐっと拳を握りしめて気合いを入れる。


 もちろん、まだまだイタチに追いつけないけれど、地味に自分らしくがんばればいいとイタチが言ってくれたか
ら、ゆっくり焦らず彼を追いたい。






「もう私たち、半年後には卒業よね。」







 サクラが、大きなため息をつく。








「班にわかれて任務をこなすんでしょ?」

「うん。でも下忍の任務はゴミ拾いとかするんだって、」

「は?マジで?ゴミ拾い?」

「イタチが言ってた、父上様も。」






 の幼い頃の話だが、当時からうちはの今の当主、自分の父親と仲の悪かったイタチは、担当上忍であるの父
、斎の家でよく夕食を食べて帰っていた。

 その際に任務の話が話題になったことがあり、イタチはそういう任務を文句たらたらでやっていたそうだ。

 対して斎はそういう任務が好きで、ずっと下忍のままいたかったらしいが、斎の師であった三忍の一人がだまし
て中忍試験を受けさせたそうだ。


 で、受かってしまった。




 斎が幼い頃は戦乱の世だったし、優秀な人材を遊ばせておくことはできなかったのだろう。

 でも斎は下忍のゴミ拾いや洗濯、赤ん坊の面倒などを見るのが大好きだ。








「なんかね、二種類の意見があるよ。めんどくさくて嫌いって言うのと、楽しいって言うのと。」

「えぇ〜、めんどい。」

「でも私、サスケ君と一緒ならがんばれる!」







 サクラが意気込むのを、ぼんやりと見つめながら、はどうしてそんなに一生懸命なのだろうと首をかしげる。



 はそういうことにかなり鈍い。



 本気でどうしてサスケを引き合いに出すのだろうと考えていると、チャイムが鳴った。

 アカデミー初日、は友達ができたと喜んで帰った。








( 今ままでしたことのないことをする 今まで行ったことのないところへ行く )