「あ・・・・・朝ご飯食べちゃった。」







 演習場へ向かう途中、はぼんやりとつぶやいた。

 カカシに吐くから食べるなと言われていたが、しっかり朝食を食べてきてしまった。

 もう、食べてしまったのだから仕方がない。


 彼に会ってから謝ろう。







「なんだ、朝食抜いてこいと言われたのか?」







 イタチが不思議そうに尋ねる。

 イタチは今日、任務がない。

 だから不安がるを、演習場まで送っていくことにしたのだ。







「なんかね。吐くほどしんどいんだって。」

「でももう食べただろ。朝食。」

「うん。器用に吐き戻せないし。」






 頷いて、はイタチの手を握る。

 よりずっと大きくて、骨張っていて、温かい。

 こうして隣をのんびりと歩けることに、喜びを感じる。







、一つアドバイスだ。」






 イタチは内緒話でもするように、の耳元に唇を寄せる。







「仲間を、大切にしろ。」

「?」

「例え他の奴らが個人プレーをしても、おまえは仲間を大切にしておけ。」








 イタチの手が、優しくの髪の毛を撫でる。








「そうすれば、おまえは間違いなく、合格できる。」







 イタチが、意地悪そうににやりと笑う。



 にはよくその意味が理解できていなかったが、ひとまずイタチが言うのだ。

 そうしておこうと思う。







?」






 ナルトとサスケ、サクラが後ろから歩いてくる。

 は振り返った。







「忘れるなよ。」






 言って、イタチはの手の中に束にした起爆符を握らせる。






「うまく使え。」






 とん、と優しく背中が押される。

 イタチのほうを見ると、がんばれ、と手を振られた。







「イタチさん。相変わらずかっこいいね。」







 サクラがに笑う。








「なんて言うか、大人って感じ。」

「そう?うちで父上様とよく口論してるよ?」








 昨日も財布を盗まれた件でもめていた。



 の父、斎は穏やかでのんびりした人だ。

 どうやら財布を同僚にとられたらしい。

 その犯人をイタチが捕まえたらしいのだが、斎は訴えないし、お金さえ返してくれたら被害届も出さないという
のだ。




 イタチは、間違ったことを嫌う。



 犯罪を犯した限りは罪を償うべきだと思っている。

 それに対して斎は臨機応変に対応する。

 そして口論になるのだ。

 大抵はイタチが退いて、丸く収まる。

 イタチの斎に対する信頼は絶対的で、文句を言いながらも彼がそう言うなら、と思うのだろう。




 口論をするときのイタチは、怒っているようで、どことなく嬉しそうだ。



 彼が感情をストレートに表に出すのは、外ではあまりない。

 外のイタチは微笑んでいても、偽物の時が多い。

 でもの家にいるときのイタチは、いつでも素直で、すぐに顔に出る。




 イタチは年上だけれど、同じだ。



 怒ったり、笑ったり、と変わらない。

 ただすごく物知りな分には、年を感じるけれど、







「フン・・・」






 サスケが面白くなさそうに、顔を背ける。

 集合時間が近づいている。

 だが、カカシの影はなかった。







「来てないわね。」

「あ、カカシさんって、遅刻魔なんだって。」







 はぽんっと手のひらを拳で叩く。

 夕飯の時に父と、イタチが口をそろえて言っていた。







「重要任務以外は、最低30分、最高三時間は覚悟しなさいっていってた。」

「マジかよ。」







 サスケが思いっきり嫌そうな顔をする。


 ナルトもお腹の減りがピークに来ているのだろう。

 はぁ、と地面に突っ伏した。

 3人ともご飯を食べてこなかったようだ。






「・・・サスケ、朝ご飯食べなかったんだ。」







 自分は食べてきましたとは言い難くて、は息を吐く。

 しかしサスケは鋭い。







「おまえ、食ってきたのか。」

「・・う・・・、」







 一瞬にして見破られた。







「・・・・忘れてて、食べちゃった。」

「そんなこったろうと思った。」







 サスケは立ち上がってを見下ろす。







「おまえすぐ顔に出るんだよ。」









 ぽんっと軽く、慰めるように頭を一度軽く叩かれて、は驚いた。

 こんな親しみやすい人だっただろうか。




 はサスケの人格をほとんど知らない。

 新年会や宴会でたまにあって、少しゲームをするくらいのもの。

 ついこの間までは身体が弱くて外に出られなかったし、サスケがいるときはほとんどイタチがいたから、それ
ほどたくさん喋った記憶もない。

 彼のことを、知らない。






「サスケは、真面目だね。」







 は一つ頷く。








「は?」







 サスケは意味がわからないと、を軽く睨んだ。



 がびくりとする。するとサスケの視線はすぐに和んだ。

 怖がらせるつもりはなかったと、困ったような表情ですぐにわかる。

 は小さく笑った。









「やー諸君、お熱いねー」








 突然、カカシがとサスケの隣に現れる。

 はきょとんとしたが、サスケは顔を赤くした。








「遅ーい!!」








 サクラとナルトが声をそろえて叫ぶ。

 カカシはまあまあと二人を宥めた。






 それから簡単な説明を始める。




 カカシが鈴を三つ持っている。



 昼までに鈴を奪えなかったらご飯抜き。丸太に縛り付けられ、目の前でご飯を食べるカカシを睨むことになる。

 鈴は一人一つだが、三つしかないから、必ず一人は丸太行き。

 鈴をとれなければ任務失敗で、最低でも必ず一人はアカデミーに戻される。

 手裏剣その他、何でもあり。

 ただし、








ー、血継限界・鳳凰扇は使っちゃやーよ。オレが焼け死ぬからね。」








 カカシは雫の肩で羽ばたく手のひら大の白い蝶を示す。

 血継限界・鳳凰扇の化身だ。



 ただのチョウチョだが、これで凄まじい能力を行使する。

 神の系譜と呼ばれる炎一族の血継限界。









「ま、目の血継限界は、使ってくれて構わない。」







 くしゃくしゃとの頭を撫でて笑った。




 が里の上層部から期待されている理由は二つ。

 炎一族の血継限界、そして、父親から受け継いだ蒼一族の血継限界透先眼だ。

 絶対的攻撃能力と、全方位30キロ以上の完全な視界を持つは強い。




 ただしそれをきちんと使いこなせていれば、の話だ。







「さて、よーいスタートで、始めようか。」 





 カカシは笑う。

 皆が気を引き締めて、息をのむ。

 はぼんやりとイタチからもらった起爆符を握りしめた。










( 風や 雨が吹き上げること 総じて 波乱の時 )