ひとまず、木の陰に隠れては考える。



 父親のかつての部下だという話は聞いていた。

 の父はが生まれた頃、まだ暗部にいた。

 ということは、カカシもまた暗部の出身で、暗部と言えば抜け忍の抹殺を主とする。




 かなり、強い。




 多少頑張っても適わないだろう。








「ね、サスケ、みんなで協力しない?」







 は近くにいるサスケに尋ねる。


 一人でカカシを襲うのはかなり骨が折れる。

 は自分の実力を過小評価することはあっても過大評価することはなかった。



 カカシに忍びとしての戦いで勝つことはできない。



 まだカカシを倒す、ではなく鈴をとるのが任務で良かったと思う。

 鈴をとるだけだったとしても難しいことにかわりはないのだが。

 の提案をサスケは鼻で笑った。







「はっ、足手まとい以上の何になると。」

「でも、一人より良いよ。」

「一人の方が良い。」








 の言葉をはっきり否定する。

 は足手まといとはっきり言われて、うつむいた。






「まぁ、おまえはじっとしてろよ。オレは取りに行く。」






 サスケは立ち上ってカカシを倒すべく、罠を張っていく。

 しばらく考えて、はサスケに起爆符を渡した。








「何でおまえこんなもの。」








 サスケが訝しむ。








「イタチにもらった。あげる。わたしには使いにくい。」







 は体術ができないし、手裏剣投げが下手だ。

 ならば忍術で行くしかない。


 起爆符、は使い方が、よくわからない。






「・・・貰う。もしも余裕があれば、おまえの分の鈴もとってきてやるよ。」








 サスケは不敵な笑みを浮かべたが、はどうだろうと思う。

 上忍が簡単にやられるだろうか。その上暗部出身。



 ひとまずサスケの背中を見送って、は大きく息を吐き、覚悟を決める。

 ひとりで行くのは非常に心細い。

 でも、一人でやるしかないのか。


 立ち上がる。









「やるかー」









 天に手を伸ばしてのびをする。

 そして、茂みから出る。








「やっと来たね。。」








 カカシがにこっと笑って本を閉じる。







「サスケやナルト達はもう一通り来たからね。」







 本を読んだままナルト達の相手をしていたのか、は素直にその能力の高さに敬意を持った。



 この余裕が上忍なんだろう。

 父や母と同じ。

 は気を引き締める。









「尋常に、勝負。」








 印を結び始める。



 一応隠して印を結ぶのは、イタチの教えだ。

 アカデミーに一年しか行けなかったにとって、両親やイタチから教えられた知識が、力になる。







「火遁 豪火球の術!!」








 チャクラを練って思いっきり口腔からからはき出す。

 炎の大きさはサスケの比ではない。

 練り込まれるチャクラの量が、サスケより遙かに多いのだ。




 地中に逃げてもだめだと踏んだカカシは上へと逃げる。

 その後ろを、がとった。




 ちりり、と鈴が鳴る。


 は炎一族の血継限界を操るため、得意体質として熱に強い。


 燃やされた火の中にほりこまれても、まったく熱さを感じないだろう。

 そのため自分の放った巨大な豪火球をまっすぐ突っ切って、カカシの後ろをとることができたのだ。








「ちっ、」










 手荒なことはしたくなかったが、このまま鈴をとられてしまうのは困る。

 体術が苦手だという話は聞いている。



 右足で速度に気にしながら彼女を蹴った。

 細い身体は簡単に後ろにとばされるはず。




 だが、身体は轟音をあげて爆発した。







「!!」








 カカシは思わず手でガードしながら目を閉じる。



 分身大爆破。

 難易度Aランクの高等忍術である。



 だが、カカシが怪我をしないようにかなり慎重に威力を絞ってあった。

 爆風が駆け抜ける。

 ちりりり、と鈴の音がした。








「えへへ、もらうね。」








 が楽しそうに笑った。

 手の中には鈴。









「やったぁ、」








 それを嬉しそうに握りしめる。

 カカシはもう何も言う気はなかった。



 は覚悟を決めるまでが長いが、一度覚悟を決めると、強い。



 上忍の両親と、暗部のイタチからばらばらに凄まじい術を教えられたのだろう。

 体術が苦手でも、選択肢がおおい。







「流石、斎さんの娘。」







 思考の柔軟性は、父親譲りだろう。

 体術は苦手だと言っていたが、動きのスピードが遅いのでもないようだ。

 そして、忍びとして一番大切なものを、持っている。






「サスケ、一人でやるって?」








 カカシは喜ぶ彼女の頭を撫でながら、尋ねる。

 は、しょんぼりとした。









「足手まといだっていわれた・・・、」







 泣きそうな顔でうつむく。








「そっか。」








 カカシはやはりと思う。



 彼は、に言ったのだろう。



 のことを気にかけているのに、サスケはすぐに他人に冷たい態度をとり、冷たい言葉をかける。

 それはおそらく、目の前のに向けたものではなかったろう。

 だが、自分に向けられたと、は思った。

 サスケはそういうところの思慮がない。

 年上のイタチとの大きな差。








は、帰って良いよ。」

「え?でも、みんな・・・・、」









 まだ鈴をとれていないサクラたちが心配なのだ。

 が怒られた子犬のように、うなだれている。









「ま、大丈夫。それとサスケの言ったことも、あんまり気にするな。」








 もう一度の頭を撫でて、すっと持っていた本で、演習場から続く道を示す。

 迎えに来たのか、そこにはイタチがいた。




 が目を丸くする。








「迎え、というか心配して見てたらしい。」








 カカシは、にこっと笑う。 

 イタチが、少し恥ずかしそうにこちらに近づいてきた。








「連れて帰って良いんですか?」

「どうぞ。」








 の頭を撫でながら頷く。








は合格。」

「ごうかく、」








 少しほっとしたのか、はカカシの言葉を繰り返した。

 けれどやはり、サスケに言われた言葉の余韻が未だに残っているのか、元気がない。









、どうした?」









 イタチがの様子に気づき、尋ねる。

 心配して様子を見ていたとはいえ、言葉までは聞こえていない。








「サスケに、足手まといだって、言われたんだって。」








 イタチには、きちんと話しておく。

 カカシは、肩をすくめた。



 すると、イタチはを抱き上げあやしながら、カカシの隙を窺うために潜んでいるサスケを睨む。

 ぞくりとするようなその鋭い瞳は、本来弟に向けるようなものではない。

 脅し。



 忍びとして上忍以上の実力を誇る彼の殺気は、恐ろしい。








「まあまあ、」








 カカシはイタチを宥める。

 のことになると、イタチは誰よりも冷たくなれる。

 弟にもそれを遠慮なく向けられるのだから、に対する感情は、弟のもの以上なんだろう。




 きゅっとがイタチの服をつかんでしがみつく。

 イタチの殺気がかき消え、への優しいまなざしに変わる。

 はやっと服をつかむ手をゆるめた。

 カカシはじっとその様子を観察しながら、思う。




 この子は鋭い。



 技術もさることながら、勘が良い。

 うまくいけば大物に化けるかもしれないと、本気で思わせる何かがそこにあった。









( 先端が尖っていること 神経がとぎすまされていること )