しょんぼりとは目を伏せて、じっと部屋の隅で丸まっている。

 寝殿造りで部屋は板張りなので、畳の上か円座の上に座らないと腰が冷えるしお尻が痛くなる。

 なのにはもう何時間も板張りの床の上でじっとしていた。










、夕飯を食べないのか?」

「・・・いらない・・・、」










 イタチの質問に暗い声でかえす。

 昼ご飯も食べなかったのに、夕飯まで食べないのでは、体調を崩してしまう。

 けれど無理矢理食べさせることもできず、イタチはを抱き上げ、畳の上に座らせた。




 小さな身体を抱きしめてやると、はびくりと震える。



 サスケに“足手まといだ”と言われたことを酷く気にしているのだ。

 それでなくともずっと自分は忍になる資格があるのだろうかと、悩んでいた。

 サスケの言葉はの優しくてまだ小さな心にナイフを突き刺したのだ。









「ね・・、わたし、忍やめたほうがいいのかな、」








 小さな声では言って、イタチの胸に頬をすり寄せた。



 が忍になることを、の父・斎は望んでいる。


 里に貢献しろといっているが、炎一族出身で里への帰属意識が薄く、人と関わりにくい立場にいるに、多く
の人と接してほしいというのが、彼の思惑だろう。

 けれど、炎一族の者は自分たちの東宮が任務にかり出されて危険な目に遭うことを望んでいない。

 彼女の気質が忍び向きでないことは誰の目にも明らかで、彼女を知る誰もがそのことを危惧している。




 イタチは、に忍としての資格がないとは思わない。



 優しくて、少しでも自分の力で一族の者達を守りたいと思うはとても素直で一途で、好きだ。

 危険な目にはあってほしくないけれど、のその意志は尊重したい。









は、だ。ゆっくりがんばればいい、」









 誰に言われようと、関係ない。



 まだ足手まといで良いじゃないか。

 ゆっくりゆっくり頑張ればいい。


 殺伐とするより、その方がずっとらしいとイタチは思う。









「それでも頑張れないなら、やめていい。」








 何度もの頭を撫でてやる。

 すると感情が昂ぶってきたのか、ぽろぽろと涙をこぼした。





 アカデミーを卒業して不安だったというのもあるのだろう



 は身体が弱くてずっと外に出られず、最近やっと外を知った。

 不安で、怖くて、それをずっと一人でため込んでいたのだ。







「ぅっ・・・ひっ・・わたし、」









 堪えきれなくなって、声を上げる。

 それをみて、イタチはもう良いと言いたくなった。




 もう、やめてしまえ。



 そんなに苦しむことを一生懸命嘆きながらやる必要はない。

 逃げて、良い。




 小さな身体を抱きしめて、思いっきり力を込める。






 を守りたい。




 ずっとそう思ってきた。




 大切にしてきた。




 でもそれは、自分のための願いではないのかとも思う。

 傷つくを見て、自分が傷つくことに耐えられないのだ。

 卑怯でずるいけど、イタチの本当の気持ち。

 ゆっくりと落ち着き始めたは、ぐすぐす鼻を啜りながらもきゅっとイタチの服を握りしめる。








「イタチ、ごめんね。」








 がひくりと声を震わせて謝る。



 どうしようもないことを泣きじゃくったことを恥ずかしく思っているのだろう。

 けれど、そんなこと良い。






「別に、俺はが忍びをやめても良いと思ってる。」

「どうして?」

「別に俺がおまえと結婚すれば、別に困らないだろう?戦うことは俺がする。」








 どうせ婚約し、いつかはイタチがを娶ることで東宮の伴侶となり、そして炎一族を継ぐのだ。



 早いか遅いかだけで、どのみちは忍びをやめる。



 おそらく一族のものもそれを望むはずだ。

 今やめても、もっと先にやめても、そんなに変わらない。










「むりだと思ったらやめろ。」









 の前髪を払い、額に口づける。

 は少しむっとした。








「イタチいつもわたしを子供扱いする。」








 不満そうに、言う。




 子供だろう、



 かえそうとしたが、またの機嫌を損ねるからやめた。

 そっとのふっくらとした桃色の唇をなぞって、イタチはそれに自分の唇を重ねる。

 柔らかく触れて、の唇を軽く舐めてからはなす。



 は目を丸くした。








「嫌か?」









 イタチは少し不安に思って、尋ねた。

 は首を慌てて振って、否をしめす。









「いやじゃない。」








 小さい声で言ったから、イタチはもう一度唇を重ねた。

 だが、唐突に騒がしい足音が聞こえて、御簾の向こうに人影が現れる。

 見知った侍女の一人だった。








「どうしたの?優音」









 熱に浮かされたような声のまま、は尋ねる。

 すると一礼をして侍女が来客を告げる。









「3人でいらっしゃったのですが・・・」

「誰?」

「東宮と同班であられる、うちはの御次男と春野さま、うずまきさまとお聞き及びました。」









 サスケの名前に、はびくりと震える。




 泣きそうな顔でイタチを見てくるので、イタチはどうすべきか迷った。

 はまた泣き出しそうな顔でいやがる。








「会わない、」

「ですが・・・・、」

「いや、会わない!」








 幼い子供のようにだだをこねる。

 珍しいことだ。



 侍女がなれないことに戸惑ってどうすればいいのかと視線をきょろきょろさせる。

 は滅多にわがままを言わない。

 このまま客をに会わせなくて良いのか、会わせるべきなのか迷っているのだ。









「体調が悪いと、伝えてくれ、」 










 かわりに指示を与えたのはイタチだった。


 侍女は感謝も込めて一礼をして退出する。

 はイタチにしがみついたまま、離れようとしなかった。








( 悲しみうちひしがれて その感情を表に出すこと )