「体調が優れないとのことですので、」









 侍女が、サスケ達に告げる。



 それを聞いてサスケは大きなため息をついた。



 カカシに単独行動を怒られ、協力を求められ無事下忍となったが、すでにはカカシから鈴をとって合格して
いた。

 カカシにどうしてか尋ねると、は協力しようと努力していたから先にかえしたと言われた。



 その際にみんなが協力せず、勝手なことばかりの態度に酷く傷ついており、イタチがあやして連れて帰ったら
しい。

 それを聞いてさすがに悪いと思い、サスケ、ナルト、サクラは謝りに来たのだが、結局無駄足となった。

 待っている間に出されていたお茶を啜りながら、サスケは思う。

 体調が悪いというのもあながち嘘ではないだろう。




 は落ち込むとふさぎ込む。 

 昔から、傷つくと落ち込んで、食べ物も何もかも全く受け付けなくなるのだ。









「・・・、やっぱり傷ついてるよね。協力しようと頑張ってたみたいなのに・・・私たち。」








 サクラが項垂れる。



 サクラもの性質をよく知っているのだ。

 たった一年のつきあいとはいえ、アカデミーに来るようになったに一番に声をかけたのはサクラだった。

 大きな寝殿造りの屋敷の高い天井は孤独感を膨らませる。

 サスケは湯飲みをおいて、どうすべきかと頭を悩ませた。




 そのとき、背の高い青年が奥から現れた。

 侍女達が深々と頭を下げる。







「おや、こんにちは。」







 にっこりと笑って挨拶をしたのはにそっくりの顔の男だった。



 童顔で、正直いくつなのか判別がつかない。

 けれど結構長身の、それでいて華奢な体躯の男性だった。



 の父親、蒼斎だ。

 炎一族の女宗主の婿として、彼女と一人娘のをもうけた。








「こんにちは。」









 サスケは思わず緊張して答える。

 ただならぬ空気を感じたのはナルトもだったのだろう、助けを求めるような目をサスケに向けた。







の学友が来てくれるなんて思いもしなかったよ。」

は引きこもりで会ってくれないけどな。」

「そうなんだ。何か言ったの。」








 斎はサスケの辛辣な言葉も全く介さず、さらりと言う。

 鋭い人だ。



 もうサスケがに何か言ったと気づいている。

 斎は、一言って百理解できる人だ。

 サスケはそのによく似た紺色の瞳が怖くて、目をそらした。



 だが斎はわかっていてもサスケの態度に何も言わない。









「まぁ、お茶とお菓子を食べていきなよ。ね。」









 にこやかに笑って、彼はわざわざ干菓子の箱をサスケの前に出す。

 開かれた箱の中の干菓子はどれもおいしそうだったが、細工が酷く凝っている。




 高いのではないか、



 ちらりと斎を窺ったが、まったく何の変化もなかった。

 それとは違うことが、サスケの思考を奪う。








「先生、」








 聞き慣れた、少し自分より低い声が聞こえ、サスケは顔を上げる。



 その先にいたのは、憎々しい兄。

 うちはイタチだった。








「イタチ、の様子はどうだい?」









 イタチの元担当上忍でもあった斎は、イタチにも気軽に声をかける。








「かなり沈んでいて、少し熱もあるみたいです。氷枕あります?」

「そうか、侍女に頼むよ。」









 斎は近くにいた侍女を呼び寄せて氷枕を用意するように言う。









「久しぶりに熱出したね。」

「まあ、精神的にまいってるみたいなんで。」








 イタチは侍女が用意してくる氷枕を待ちながら、軽くサスケを睨み、自分の拳で肩を叩いた。

 沈むをずっと抱き上げてあやしていたのだ。








「ごめんね。イタチにの世話を一任してて。」

「良いですよ。どうせ居候ですから。」

「別に居候じゃないだろう?の許嫁なんだから、正当な理由があるよ。」

「でも、居候ですよ。結局それくらいしか、役に立ってないですから。」









 氷枕を侍女に貰い、イタチはさらりと笑う。



 その表情からの世話がそれほど苦痛でないことが窺える。

 斎はため息をつきながら言った。







「彼らがね。会いに来てくれたんだけど、会わせられそうかい?」







 サスケ、サクラ、ナルトを示す。

 イタチはちらりと3人を一瞥して、少し考える様子を見せた。








「・・・微妙ですね。燃やされたくないなら、やめた方が良いんじゃないですか。」








 しばらくして、そう答えた。




 は沈むことはあっても滅多に暴れない。

 基本どう猛な炎一族の宗主だが、は父親に似て酷く温厚だった。




 だがそれでもたまには怒る。



 に悪気はないのだが、の怒りに血継限界とチャクラが反応してしまうのだ。

 イタチはそれを抑えることができるが、出た瞬間押さえられる訳じゃない。


 わずかでも時間がかかる。

 そのことを考えれば、3人に危険が及ばないとも言えなかった。








「やっぱりそうだね。はぁ・・・・難しいなぁ。」








 少し疲れているのか、斎は珍しく長く息を吐いた。



 彼にしては珍しい。

 最近任務に忙殺されている斎を思い出して、イタチは自分より少し大きな斎の背中を押した。








「寝てきたらどうですか。ここで菓子を食べさせて適当にかえしますんで。」

「うーん。お願いしても良いかな。ちょっと疲れてて。」









 斎は素直にイタチに干菓子の箱をそのまま渡す。








「先に寝てくるよ。重ね重ねごめんね。イタチ。」

「良いですよ。俺も彼らを帰したらの所に戻りますんで。」







 イタチは斎から干菓子の箱を貰いながら、頷く。


 斎はそのまま欠伸をして自分の寝室に向かっていった。

 やはり酷く疲れているらしい。

 足下がおぼつかない。








「あっ、イタチ。その箱の干菓子、と食べても良いよ。」








 斎は振り返って、少し力なく笑う。










「わかりました。」








 イタチは笑ってかえした。

 いつもより斎の背中が小さく見える。




 気の毒だ、とかつての担当上忍の背中を見送った。









( 身体的に酷使されること 心が疲弊すること )