「ねー、これはむりだよね。これはきれる?」

「それ、明らか小さいぞ。」










 唐櫃から服を引っ張り出す。


 だが、彼の着れそうな服はあまりない。

 血にまみれた身体を拭いてやったは良いが、なかなか服が見つからない。




 よく考えれば、この一族の宗主は二代続いて女だ。



 蒼雪もも女で、男ものの服が一族には少なかった。

 の父・斎のものではサイズがあまりに大きすぎる。

 かといって使用人のものというわけにはいかない。




 イタチは息をつく。



 この家には、イタチがよく泊まりに来るからイタチの服のいくつかがいつでもおいてある。

 少し小さいがそれを貸して、あと寒かったりするなら、の着物などを上から羽織ってもらおう。












「俺のでも良いなら、服を貸せるが、どうだ?」










 要に尋ねる。




 彼は身体をぬぐってやっているときも、が服を探しているときも終始無言だった。

 よほど傷ついているようで、怪我こそなかったが重傷だろう。

 この様子だと目の前で両親を殺されたようだから、仕方ないともいえる。









「いいよ・・・、」











 答える声にも力がない。

 イタチより背も高いのに、うなだれているからすごく小さく見えた。

 侍女がイタチとの食事と、粥を運んでくる。




 もう、時間が遅い。



 侍女達もいろいろ駆け回っていたのだろう。

 要をひとまず着替えさせてから、食事を勧める。

 するとやっと周りに目を向けるようになった。












「この対屋には、二人で住んでいるの?」











 尋ねられて、イタチは首を振った。











「違う。俺はただ泊まりに来ているだけだ。ここに住んでいるのは一人。」

「許嫁?」

「許嫁になるかもしれない。俺か弟のどちらかが、と結婚することになるそうだ。」

「けっこんってなに?」

「その説明はまた今度な。」












 の質問に軽く答えてから、彼を見る。

 要はやっと少しだけ笑って、漬け物をつまんだ。











「ふたりとも仲が良いんだね。」

「うん!イタチだいすき!!」










 がとても嬉しそうに笑うから、イタチは恥ずかしくなる。

 何でそこまで素直に愛情表現ができるのか、

 きっとまだ幼いからだ。










、寝なくて良いのか?体調は?」

「今日は少し良いから大丈夫。」

「あまりはしゃぐとまた熱を出すぞ。」










 の体調が崩れても困るので、一応忠告する。



 は、はしゃぐとすぐ体調を崩す。

 身体が弱い。




 要は二人の様子を見ながら、ぼんやりと粥を啜っている。

 両親を亡くしショックだろうが、漬け物があるとはいえ粥だけでは育ち盛りだし、少なくともイタチは食事
をした気がしない。

 だから懇盤(足のついた旅館とかで食事がのっているお盆)の上に並べられたおかずの筑前煮を、彼に差し
出した。











「食べないか?それだけじゃ腹にたまらない。」

「いいの?もらって、」

「あぁ、それとはどうせそんなにたくさん食べないから、汁物以外は食べていい。」

「うん。あげるよ。わたしおなかがいっぱい」

、ほっぺたにご飯粒。」

「あぅ?どこ?」










 が柔らかそうなほっぺたを箸を持ったままの手で探る。












「右の口の端。」













 イタチは指を指す。










「面倒見が良いね。」










 要は周りに目を配るイタチに素直に感心したようだ。

 少し笑って、言った。












「俺は弟がいるからな。」 









 と同い年のイタチの弟は以上にいらないことしいだ。

 両親が仕事で忙しいだけに、それを止める人間が少ない。

 周りに目を配るのはそのせいもあると思う。




 イタチは自分のご飯を食べながら、要をじっと見た。



 穏やかな動きと、きちんとした行儀作法が彼の育ちの良さを示している。

 その赤紫色の瞳が、少し寂しそうだった。











「イタチは、アカデミー生?」

「いや、飛び級してもう卒業した。今は下忍、もうすぐ中忍試験を受けることになっている。」

「イタチは、すごいの。あかでみーをしゅせきでそつぎょうしたんだよ。」

「おまえ、首席の意味わかってるのか?」

「わかんない、でもすごいんでしょ?」











 は自分のことのように嬉しそうに話す。



 の頭を撫でて、要を見ると、複雑な表情をしていた。

 あまりにもその顔が哀しそうで、こちらも寂しくなる。









「俺とはこの部屋に布団をひくが、要も一緒に寝ないか?」










 一人で眠るのは、嫌だろう。

 今日両親が殺されたばかりなのだ。










「いいの?」

「どうせと一緒に寝るから、一人くらい増えても変わらない。」










 身体が弱いが体調を崩したときすぐに気づけるように、いつも一緒に眠っている。

 布団を三枚ひいて、雑魚寝すれば、彼だって不安なときに、イタチを起こすことができる。

 怖い目に遭った後は気が昂ぶって怖い夢を見ることが多い。




 だからそういうときには人にいてほしいはずだ。




 イタチは、この間初めて人の死に様を見たときのことを思い出す。

 あの日、この家に来てと一緒に眠ったが、この家に来た理由は怖かったからだ。

 自分の家で一人で眠るのが怖かった。



 それ以上の目に、要は今日あってきた。

 怖いのは、当然だ。

 ずるずると板張りの床に三枚の畳を引っ張ってくる。





 そして畳の上に布団をひいた。




 この家は寝殿造りのために1階しかなく、天井が高い。

 御簾を閉め、外からの光が入ってこないとはいえ、部屋も広い。

 あまりに広すぎる部屋も、いまいち落ち着かないだろう。

 そう思って、屏風と几帳を周りに立てた。




 夜も遅かったせいか、はすぐに眠ってしまう。

 を挟んで向こう側にいる要は、やはり落ち着かないのかごそごそと動いては、ため息をついた。










「灯り、つけるか?」











 イタチは尋ねて、近くの電灯をつける。









が、起きてしまうよ。」











 要がイタチを止めようとする。

 だが、イタチは笑った。













「あぁ、は起きない。寝付くと朝までぐっすりだ。」











 は寝付きの良い子だ。一度眠ると朝まで起きない。

 若干寝起きは悪いが。












「眠れないんだろ?」

「・・・・うん。そうなんだ。」

「俺は明日任務もないし、夜更かしもありだ。」











 イタチは布団の上に肘を立ててほおづえをつく。

 要も枕を片手に、起きあがった。











「父母が殺されたとき、何も、できなかった。・・・・僕にも力があるはずなのに。蒼雪様に、助けられるま
で震えていた。」

「要は、アカデミーに行かなかったのか?」

「うん。僕らは、国とは関わらない。なんというのかな・・・・・土の国の領土内にいるが、国自体に服属し
ているわけではないんだ。」












 当主を中心として国を滅ぼすほどの力を持つ、神の系譜。



 炎一族は火の国木の葉隠れの里との共存の政策をとってきたが、神の系譜の中には人間を毛嫌いしていたり
、また、まったく国に介さない家もある。

 堰家は後者だ。




 どちらが良いかは、わからない。



 里に服属するのを利用されているととるか、共存しているととるか。

 それは大変難しいことだ。




 大きな一族であれば一族であるほど。











「・・・・・イタチは、が好き?」











 突然、要がイタチに尋ねる。











「好きだ。」












 イタチははっきりと答えた。



 神の系譜だとしても、だ。



 それ以外ではないし、イタチはの存在自体を愛している。

 一族も、すべてを含めてなのだから、他のことは関係ない。










「素敵だね。そんなにはっきり言える。」











 要は羨ましそうにイタチを見た。











「そうか?一方的だぞ。」

「きっと、ゆっくりだって気づくよ。」

「だと良いんだが、」











 イタチは大きくため息をつく。

 の許嫁になれるかは、イタチの弟サスケにもかかっている。

 サスケが優秀ならば、長男のイタチが家を継がなくても良くなる。



 の家に婿に行くことができる。



 けれどサスケが無能なら、不可能だ。

 どうにかして、と一緒になる道がほしい。




 イタチはそっと眠るの頭をなでつける。

 はきっとイタチの気持ちにだってちっとも気づいていないのだろう。




 切ない思いが、心の中で広がった。









( ともにあること 支えあうこと )