「綺麗だねぇ、」




 は寝殿の蔀戸と御簾を上げさせ、広廂から庭の様子を窺う。

 広い庭は白梅や紅梅、四季折々の花々が植えられ、小舟が浮かべられるほどの池がある。

 しかし今はそれのどれも白い雪に埋め尽くされ、何もみえない。

 見えるのは本当に白だけだ。




 比較的温暖な木の葉でも冬になれば雪が降る。



 今年は例年よりも多いのか、新年の宴が開かれている今日は辺り一面雪景色だった。

 珍しくうちはと炎一族合同の宴に出てきただが、酒を飲み、笑いあう彼らの中にいてもいなくても未
成年のためそれ程関係ない。

 一月三日に行われる恒例の宴は、例年ならばもうそろそろ飽きてきた父の斎がの様子を見に来るはず
だが、今年は砂隠れの里からサソリという斎の友人が来ていて、あまり構ってくれなかった。

 イタチにチャクラを肩代わりして貰い、アカデミーに通うようになったに声をかけてくる人も多いが
、それすらも煩わしくて、は廂に出てぼんやり雪を見ていた。







「なんだ、退屈したのか?」





 同じように宴会を抜けてきたサスケが廂にいるを見て声を上げた。

 はサスケの方を見て、ぎょっとする。






「サスケ、それ、お酒?」






 手に持っている杯は、皆が宴会で酒を入れていたものだ。







「あぁ、」







 未成年なのに、サスケは別に悪びれた様子なく頷いて、杯を傾けた。

 どうやらかなりお酒に強いようだ。



 酒の独特の香りが移るほど飲んでいるのに、彼は素面と変わらない。

 今年でアカデミーを卒業するとはいえ、良いものだろうか。

 思ったが、大人達が飲ませているのなら良いんだろう。






「サスケも逃げてきたの?」

「あぁ、今年卒業だからいろいろうるさいんだ。」

「そっか・・・卒業だもんね。」




 はしみじみと言う。

 身体が弱かったため一年しかアカデミーに通っていないが、はもう卒業だ。

 今年の春には、下忍として働くことになる。



 特異な力を持つを暗部や上忍から自分の班にほしいとの希望があるため、上層部もにアカデミーに
とどまってほしくないのだ。

 対照的に、一族のものはが忍になることを望んでいない。

 それでもは一応今年には下忍になる予定だ。

 イタチと斎の意見から絶対に暗部に配属されることはないが、普通の下忍として忍のキャリアを積んで
いくことになる。







「サスケは首席かぁ・・・良いとこ就職できるね。」

「否、無理だろ。まずみんな下忍からだ。」







 アカデミーの成績が良くても、必ず忍として成功するとは限らない。

 実戦でその優秀さを見せてからこそ、意味がある。

 エリート集団と言われる暗部でも、下忍はほとんどとらなかった。

 ましてアカデミーを出たばかりのものなど、相手にもされない。






「そうなんだ・・・」






 しらなかったはこくんと頷いただけだった。



 雪が庭にゆっくりと降り積もっていく。

 白い雪の間に、サザンカの花だけが鮮やかに咲いている。

 元気なものだ。






「雪ふれば冬ごもりせる草も木も 春にしられぬ花ぞさきける、」






 は柔らかい口調で和歌を口にした。



 炎一族は本当に遙か昔から続く家柄だ。

 旧時代の和歌や雅楽をたしなむ文化の担い手でもある。








「昔の歌か、」

「そう、有名な人の歌だって。」






 は答えて、冷たい自分の手に息を吹きかけ、手をこする。






、風邪をひくぞ。」







 奥から出てきたイタチが、の上着を持ってやってきた。


 うちは一族から家出したイタチだが、今は炎一族の東宮の許嫁として居候しているので、宴に一応出
席した。

 だが、やはりうちはの小言攻撃には耐えられないらしく、宴の行われている寝殿でなく、の部屋であ
る東の対屋に避難していた。







「兄さん、」







 サスケは憎しみも愛情も向けられず、代わりに嫌そうな顔をする。

 家出した兄だが、サスケにとっては大切な兄で、でも出て行った後も一族のものに求められている兄を
認められない。

 複雑な心境がそこにある。

 イタチはサスケの嫌な顔を責めることなく、雫の肩に上着を掛けた。







「ありがとう。」






 は笑ってお礼を言う。







「どうしたしまして、」






 イタチも微笑んでの隣に座って雪を眺める。





「明日は雪合戦が出来そうだな。」






 イタチはしみじみと呟く。





「ゆきがっせん?」







 はしらないらしく、首を傾げる。

 あまり外に出たことのないは、外の遊びに疎い。






「雪を丸めて相手にぶつけるんだよ。」






 サスケがに説明する。






「ぶつけるの?」

「そうだ。別に雪を固めても砕けるからそんなに痛くない。」







 不安そうに尋ねたに、イタチが説明を付け足した。

 イタチは近くにあった雪を丸めて、近くにあったサスケに投げつける。

 見事にサスケの顔に命中した雪の玉は、あたると崩れた。






「本当だ、あんまり痛くなさそう。」

「だろ?」






 イタチが悪戯っぽく笑う。







「兄さん・・・・・・っ!」








 サスケは二人を睨んでいたが、外に出て雪玉を作り出し、イタチにそれを怒濤の如く投げつける。



 イタチも外に出て、軽く避け、応戦した。



 面白そうだと思ったも雪玉を作って、サスケに投げる。

 ところが後ろからイタチの作った雪玉をあてられた。





「はぅ!」





 奇声を上げてから、自分の髪についた雪を払う。

 あまり意図せず投げたイタチが怯んだ隙に、サスケがイタチに玉を投げつける。

 後はいつの間にか乱戦になっていた。

 


























 娘の様子を見に旧友のサソリとともに廂に出てきた斎は、雪合戦をする子供達に目を丸くする。





「こんなに、遊びを楽しむ子達だっけ?」






 はともかく、イタチやサスケは大人びた子供で、子供らしい遊びをしているのを見たことがない。

 雪合戦をして遊ぶなど、意外だった。


 も楽しそうで、雪をイタチやサスケに投げつけて遊んでいる。

 彼らもにだけは顔にぶつけないところをみると、一応手加減してくれているのだろう。

 イタチとサスケはお互いに顔しか狙っていないが。







「子供らしくて良いことじゃねえか。」






 サソリは寒さの中でも元気に遊ぶ子供達を目を細めて見守る。

 サソリの故郷である砂隠れでは雪は降らない。

 雪合戦など初めてみた。 







「あれが、次の東宮か。」

「そ。」







 しみじみと言ったサソリに、斎は軽く答える。

 東宮

 子供達の中で一番無邪気な笑顔を浮かべているのは、彼女が世界の何も知らず育ってきたからだ。






「・・・やっぱりおまえの教え子のイタチ・・だっけ?そいつのほうが東宮に向いてそうだな。」

「うーん。そうなんだよね。イタチは合理的だけど視野は広い。」

「うちは一族は比較的視野が狭い。よくあれ程の奴が育ったもんだ。」

「でしょ?」







 珍しいよね、と斎は白々しく答える。





「でしょ?でなく、おまえの教え子だからだろ。」






 サソリは厳しいつっこみを入れる。

 もし仮に、イタチがもっと保守的で凝り固まったものに教えを請うていたなら、間違いなく彼もうちは
一族と同じように狭い視野のまま一族にこだわるように育っただろう。

 今のイタチは、視野の広い斎が様々なものの見方を教えたからだ。




 斎は他人と意見が違おうと、頭ごなしで責めたりはしない。



 相手にどう思っているかを尋ね、自分はこう思うから、こういう意見を持っていると理路整然と喋るだ
けだ。

 他者を責めるのではなく、相手の意見を理解した上で自分の意見を述べていく。

 もしも相手の意見が良いと考えれば受けいれることを恥とは思わないし、イタチにも凝り固まった自分
の理論を教えようとはしなかった。

 いろいろな人の意見を聞いて自分で考えなさい。

 斎の教育は非常に難しいが、イタチにはそれに答えうるだけの聡明さがあっただけだ。



 考えないなら駒と同じ。




 忍は駒だと言われるが、ただの駒では生き抜けない。

 それが忍の世界だ。







はおまえよりぼけてるが、イタチはおまえよりしっかりしていそうだ。は安心だな。」

「何それ。僕がしっかりしていないみたいじゃないか?」 






 不服そうに斎は反論するが、サソリは子供達に目を向けて笑うだけだ。


 雪は相変わらず降っているが、子供達は元気に駆け回っている。

 無邪気な姿が羨ましい。







「ねぇ、サソリ、僕たちもまざりにいかない?」

「はぁ?行くのか?」

「うん。」






 斎は返事をして、子供達の方にかけていく。






「そこがしっかりしてないんだって。」




 子供のような斎にサソリは嘆息しながらも、廂を下りていく斎の後を追った。




























 宴も終焉に近づき、酔いを覚ますために廂に出てきたフガクや蒼雪は雪の中元気に遊ぶ大人と子供に目
を丸くした。







「あらあら、」






 蒼雪は頬に手を当てて感嘆したような声を上げる。




 フガクは息子達の所業に凍りついた。

 彼にとっては東宮であり、彼女と雪合戦をして雪をあてるなどあまりに不敬だと思ったのだろう。

 母親の蒼雪は気にしなかったが、フガクの顔は血の気を失っていた。



 夫の隣でイタチとサスケの母親であるミコトはくすくすと笑っている。

 雪合戦は大人対子供なのか、斎とサソリがチームを組み、、サスケ、イタチが二人に雪をぶつけてい
る。

 傀儡使いのサソリは傀儡で雪玉を大量生産。

 明らかに有利な状況を作っている。


 イタチらはの白い蝶で迫り来る雪玉をあたる寸前で溶かしながら反撃中。







「なかなか良い戦略ですわ。」







 蒼雪は大人に対する子供達の防衛に将来性を感じたのか、嬉しそうに笑う。







「斎さん、若いですね。」







 ミコトはふふっと笑って、蒼雪を見る。








「まぁ、まだ三〇歳ですもの。」







 子供が出来るのが早かったため、同い年の子を持つ父でありながら斎とフガクは年が一回り以上違う。

 それはミコトと蒼雪も同じだ。 



 雪が舞う中、子供達とはしゃぎまわる夫を、蒼雪は笑いながら見つめる。

 新年から本当に元気なことだ。







「良い年になりそうですわ。」

「はい。」







 母親同士にっこりと顔を合わせて笑いあった。






1月 雪に化粧