家出することにした。




「来週の月曜日は家にいられると思うんだ。」





 珍しく父が任務がお休みだから、遊んでくれると言った。

 の両親の斎と蒼雪は二人とも木の葉の里の手練れで、いつも任務に引っ張りだこ。

 平日でも、任務がなく丸一日休みと言うことはほとんどない。

 それは忍という職業柄仕方ないことで、幼いも理解している。


 でも、両親がいないことが寂しくない訳じゃなくて、いつも傍にいてほしいとは思っていた。

 だから、お休みと聞いて、は喜んだ。

 お休みで、たまたまの誕生日で、忙しい両親がの誕生日を覚えていたかはわからないし、言わなかった
が、はそれはそれは楽しみにしていた。



 父が、誕生日に一緒にいるのは5年間生きてきて初めてだ。

 とてもとてもうれしくて、は喜んだ。



 なのに、当日の朝、斎は困った顔で言った。







「ごめんね、急に任務が入っちゃったんだ。」







 斎が任務と言うことは、下忍で同班のイタチも一緒だろう。

 喜びが大きかっただけに、の落胆は誰が考えるよりも大きい。

 が熱を出そうとどれほど不安だろうと両親は任務に行ってしまう。

 里のためであり、一族のためであり、それはのためでもある。



 任務は仕方のないことだ。

 今までそれをおとなしく受け入れてきたし、苦しくても我慢していたのだが、今日は少し事情が違った。

 任務が入る可能性があるのならば、最初から休みだなんて言わなければいい。


 そしたらこんな悲しい気持ちにならず、毎年のことだと我慢できたのに。







「ごめん、ちゃんと休みをもらってくるから、」





 忙しそうに用意をしながら、斎は何度もに謝る。

 はじっとそんな父の後ろ姿を見ていた。


 きれいな紺色の髪は短いけれどと同じ。


 間違いなく自分と彼は親子だ。

 けれど、一緒にはいられない。


 ふと、先日屋敷を訪れた日向一族の子供を思い出した。

 と同じ年頃で、両親に手をつながれてほほえんでいた女の子。

 自分はあんな風に両親と出かけることはない。


 の体が弱いのもあるけれど、両親が忙しいのもあって、はほとんど両親に遊んでもらった記憶がない。

 むしろ、誰かに遊んでもらったことはイタチ以外なく、宗家に仕える侍女たちはを次期後継者としか扱わ
ないので、と同じ目線で対等に話すことはなかった。



 それは、とても寂しくて、悲しい。



 イタチがきてくれるようになってからは、もの悲しさを感じることも少なくなっていたけれど、こみ上げて
くる感情は、それとよく似ていた。






「ちちうえ、さまは・・・・」





 は小さくつぶやく。

 後に続く言葉は、でない。





「なんだい?」





 忙しく用意をする斎は、娘の言葉を聞き損ない、聞き返す。

 はなんでもない、と視線をそらした。





「本当に、ごめんね、」






 斎は幼い娘の頭をそっとなでる。



 は黙り込んだまま何も返さなかった。

 忙しい父。

 泣きわめいたところで、どうせ父は任務に行ってしまうだろう。




 かわりに、は父が出て行くと、棚から黒地に蝶の文様の書かれた外行きようの着物を出した。

 フードのついたそれは前から仕立てられていたが、体が弱いは外に出ることが出来ないので、一度も着た
ことがなかった。

 着物にゆっくりと袖を通す。



 どうせ両親は屋敷にいない。

 母も任務で明日まで帰ってこないといていたし、侍女たちはどうせ夕刻までこの部屋に近づかないだろう。

 斎もきっと夕刻まで帰らない。






「おかね、どこだっけ。」





 もらったお年玉を棚の箱の中に使いもせず貯めていたはずだ。

 棚から螺鈿の箱を取り出し、中を開くと変わらずある。

 外に出たことがないのでお金にどれほどの価値があるのかは知らないが、ゼロがたくさんついているのが
額が大きいはずなので、それを持っていく。


 一番入れてくれた額の大きいのは、風の国、砂隠れの里のサソリがくれたのと、土の国の神の系譜で知り合
いの堰要がくれたものだった。

 それぞれ子供に持たせるには大きすぎる額が入っているのだが、はよくわからずそれを着物の袖の中に入
れた。





「よし、」





 小さくかけ声をして、御簾の外をうかがう。

 今まで屋敷の外に出かけたことはない。





 今日は幸い体調も悪くはないので、大丈夫だろう。

 は裏門からこっそりと屋敷を出た。








( 既存の断りを冒すこと  )