黒地に白い蝶の文様が描かれた袖が翻る。

 フード付きの着物は珍しく、目立つ。

 背中でひらりと揺れるのは紺色の長い髪。

 肩には自然の産物にしては不自然な白く輝く蝶がとまり注ェをぱたぱたさせている。



 4,5歳の、女の子。



 しかし、彼女はこんな商店街にはいてはいけない人間だ。

 サスケの知る彼女は、とても体が弱くて外になど出られようはずもないのだから。





?」





 そこにいる女の子が幻かと疑いながら、サスケは名を呼ぶ。

 すると女の子は振り返ってぎょっとした顔をすると、突然きびすを返し、脱兎のごとく逃げ出した。


 間違いなくである。





「待て!!」





 サスケはを追う。



 意外なことに、は足が速い。

 しかし、アカデミーで忍となるために日夜体力作りに励むサスケと、病弱で屋敷の中でこもりきりのとで
は持久力に大きな差がある。


 それでもサスケが追いついたときには、商店街の端にきていた。

 体力的に限界なのか、ははぁはぁとうずくまって荒い息を吐く。





「こんなとこで、なにやってんだ。」





 諫めるように言うと、はしょんぼりとうなだれる。

 サスケが見る限り、の体調は幸い悪くないようだ。

 くらいの年ごろの女の子が一人で歩いていると普通なら子供のお使いか、お菓子を買いに来たかををまず
最初に思い浮かべるだろうが、の家は里で一番大きな一族の宗家で、お使いなどに行かせるはずがないし、
は病弱で外に出ることを禁じられている。

 彼女が黙っていても、年の割に聡いサスケには状況がすくにわかった。





「炎一族の屋敷に戻るぞ。」





 サスケはの小さくて白い手をつかむ。

 同い年のはずなのに、の手は白くて小さくて、サスケとは全く違う。


 細いその手は、しかしサスケが引っ張っても踏ん張って動こうとしなかった。





?」






 むっとした顔でサスケはをにらみつける。





「やー、」





 は足を踏ん張って、サスケに抵抗する。


 いつもあまり強い意見を言わないの反抗に、サスケは目を丸くした。





「なんでだよ。自分んちだろ?」

「やー、かえらない。」

「いや、どこにいくんだよ。」

「どっか!!」





 は大声で叫んで、サスケの手を振り払う。





「おうちにはかえらないの。」





 その答えは、サスケが予想したとおり、彼女が自分の意志で家を出てきたことを指している。

 いつ見ても良い子のが言う限りには、それなりのことがあったのだろう。

 だが、いったい家をでてどこに行くというのだろう。







「あんな、ふつうにかんがえろよ。家でてどこいくんだよ。」

「どこって?」

「夜ねるときどうするんだ。ごはんは?」





 サスケの現実的な意見に、はきょとんとする。

 どうやら何も考えずに家を出てきたようだ。

 はしばらく考えに考えて、ぽんと手をたたいた。





「そうだ!、さそりのおうちにいく」

「サソリ?」

「うん。すながくれのさとの、さそり。前にうちにきたとき、いつかおいでっていってた。」

「それって・・・しゃこうじれいってやつなんじゃ・・・」





 サスケはため息をついてを見たが、は本気で砂隠れに行く気なのか、ごそごそとお金を取り出す。

 その額は、子供が持って良いようなレベルではない。






「うっわ、大金。」

「これだけあれば、いけるかなぁ。」





 は不安そうに尋ねる。

 少し道を離れると遠く見える行商用の馬車がある。

 確かに、金額的には十分のしてくれるだろう。


 お金の価値を同年代の子供よりよく理解するサスケは思ったが、彼女の案に賛成することは出来ない。





、そとはあぶないんだぞ。」





 は外に出るのが初めてだが、サスケはよく知っているし、両親と町を歩いたこともある。

 特に風の国と火の国の国境付近はかつての紛争地帯であり、同盟国とはいえ子供が安全とはいえなかった。


 だが、外の危険性を全く知らないにはサスケの一般的な理論は通じない。





「いいよ。さすけは一人でおうちにかえったら、は、いってくる。」

「行ってくるって・・・・ひとりで?」

「うん。さそりにあいにいくの。」





 ぐっとは拳を握りしめる。

 その紺色の瞳は潤んで、今にも涙がこぼれそうで、サスケは何も言えない。


 何か、あったのだ。






「じゃあ、いってくるね、」





 はぶんぶんとサスケに手を振り、馬車の方へ向く。

 サスケは、その手を再び握った。





「さすけ、とめてもだめだよ」

「それはわかった、」





 が心を決めてしまったのはわかる。

 だが、を一人で行かせるわけにはいかない。





「おれもいく。」





 サスケは小さくそっぽを向いてつぶやいた。




( 仲間 ひとをともなうこと )