「すいません。俺のミスで、」





 上忍になったばかりなのだろう。

 年若い青年が必死に頭を下げる。





「いいよ。気にしないで。」





 斎は手を振って彼の謝罪にこたえた。


 そもそも斎に急に任務が入ったのは、彼が巻物を敵に奪取され、それを取り返しに行かなければならなくな
ってしまったからだ。

 巻物を運ぶだけなら良いが、取り返すとなれば人員もいるし、高い能力を有する物が必要になる。

 ちょうど暗部も別件で出払っており、残っているのは数人しかいないので、仕方なく斎が奪還任務に名乗り
を上げたのだ。



 斎の後ろではものすごい剣幕のイタチが青年をにらみつけている。

 青年が必死に謝罪を続けているのは、イタチの視線に耐えきれないからだ。



 まだイタチは中忍だが、上忍並の威圧感と実力を持っている。

 彼からにらまれれば、まだ上忍になったばかりの年若い青年は、びびっても仕方がない。








「カカシさんにでも頼めばいいのに。」






 ぼそり、イタチは文句を言う。

 カカシも今は待機中で任務に出られないこともないが、彼だってここ最近の過密スケジュールに疲れている
はずだ。


 斎は自分の肩を回しながら、弟子のあからさまな不平に耐えた。

 それに、彼が怒っている理由はわかっている。






に、休みだと言ってたんじゃないんですか?」





 遠慮のないイタチの台詞に、斎の心がづきりと痛む。




 休みだと言ったとき、は本当に喜んでいた。 

 そして、今日任務が入ったと言ったときの、あの悲しそうな顔。



 日頃から、は良い子だ。



 熱を出していても、不安でも、絶対に泣いたりしない。

 寂しいだろうが、それを顔に出したりはしない。



 ただ、今日は今にも泣きそうな顔で、こちらを見上げていた。

 最近任務ばかりに忙殺されて、をかまってやれていない。

 それは蒼雪も同じだ。






「今日は、かわいそうなことをしたね・・・・」






 本当に、あの子は楽しみにしていただろう。

 一ヶ月ほどの間、ほとんど休みもなく任務に出ていたので、にかまってやれていない。



 それを、まだ5歳のがどれほど寂しがっているか。






「今日が終わったら、・・・・上層部を脅して長期休暇をとるよ。」






 斎はため息をつく。

 あまりそういうことはしたくないが、これ以上任務が続けば自分も倒れそうだし、もかわいそうだ。


 しかし、その言葉を聞いた途端、イタチはくるりと斎に背を向けた。





「俺、のところに行ってきます。」

「ちょっ、イタチ、今から任務だよ。」





 斎は慌ててイタチを止める。

 どれほどがかわいそうでも、任務は任務だ。


 腰に手を当てて弟子を諫めようとして、振り向いたイタチの冷たい目に斎は驚いた。






「貴方は先生としては最高だと思いますけど、親としては最低ですね。」






 歯に衣着せない、はっきりした物言い。

 それはイタチの美徳であるが、時に刃となる。





「どういう意味だい?」





 斎はこれほど言われる理由がわからず、尋ね返す。

 確かににはひとりで不憫な思いをさせているが、ここまで言われるのはいただけない。

 そもそもの理由は里の上層部が仕事を受け入れすぎるからであって、斎のせいではない。



 仕方のないことだ。




 けれど、イタチの言いたいことはそういうことではなかった。





「先生、今日が何の日か知ってます?」

「え?任務の日・・・」

「地面に埋まって良いですよ。」






 まったく表情を動かさず、イタチは言う。





の誕生日です。」






 小さなの、6歳になるお誕生日の日。

 が父が休みだと聞き、自分の誕生日を祝ってもらえると喜んでいた、日。



 斎は言葉を失い、口を開いたまま固まる。





 そうだった。






“ちちうえさま、おやすみなの?”



 の、うれしそうな顔。

 任務ばかりで一度も祝ってやったことのない、の誕生日。

 彼女は初めて、父とともに祝えるかもしれないと、喜んでいた。




 なのに、






「・・・・僕、父親失格だね。」

「そうですね。」








 イタチは遠慮もなくうなずく。

 彼はしっかり覚えていたのだろう。


 おおざっぱでどうでも良さげな態度をとるイタチだが、細やかなところはしっかり覚えていて、忘れない。






「と、言うわけで、俺はのところに行きますよ。さようなら。」





 イタチにとって、任務よりもの方が大切なのだ。



 弟子の素直なところに、斎は苦笑する。

 大人になると、社会的な規則に巻き込まれて、どうしても大切な物を見失いがちになる。

 いけないことだ。






「ちょっと待って。」





 斎は少し考えて、伝書鳩に持たせる手紙を書くべく紙を広げる。





「カカシに頼もうと思うんだ。」

「それが良いですね。」






 イタチも賛同して、鳩を取りに行こうと鳩舎に行こうとしたとき、突然一羽の鳩が舞い降りた。

 炎一族邸からだ。




 鳩の細い足についていた手紙には、の行方不明が書かれていた。





( 悔やむこと 悔しいと思うこと )