突然呼び出されたカカシは目をぱちくりさせる。





「え、が家出?何したんですか、斎さん。」





 呆れたような声音なのは、が日頃良い子であることを知っているからだ。

 イタチの不機嫌は閾値に達しているらしく、今危うい動きをしようものなら射殺しそうなくらいの鋭い
目で外を見つめている。

 斎は部屋の隅のいすの上で三角座りをして小さくなっていた。





「いや、誕生日が、それでが家出したって連絡が、僕任務で・・・・。」





 彼の言っていることは支離滅裂でわからない。

 仕方なくカカシは怒りにいらいらしているイタチに目を向ける。





の誕生日を忘れていて、約束を破って任務に出たら、が家出したそうです。」




 簡潔な説明になるほどの思う。

 最近が我慢していることは知っていた。

 で、約束を破られさすがにキレたのだろう。

 カカシは怒っているを想像しようとしたが、彼女はいつも笑っていて、悲しそうにしょげかえってい
る姿しか想像できなかった。



 イタチの怒り具合から考えて、イタチはきちんとの誕生日を覚えていたのだろう。

 斎は任務に忙殺されて、忘れていたのだ。

 彼の忍としての才能はともかく、人の親として最悪である。

 任務の待機室のいすに座って三角座りをしている斎は、本当に反省しているようで、カカシに非難の言
葉を言うのをとどまらせた。





「でも、斎さんの透先眼だったら探せるんじゃ。」





 カカシは控えめに意見を述べる。

 すると、斎はますます項垂れた。





「・・・・里の中にいないみたいなんだ。」





 未来も過去も現在も見通し、千里眼の役目も果たす透先眼だが、効果範囲を絞れなければ意味がない。


 里内くらいなら行ったことのある場所だし、どうにかなるが、里の外になると人間も多く、見つけにく
い。





「でも、里の外って、かなり大問題ですよね。」





 カカシはまじめな顔で腕を組む。

 は二つの血継限界を持つ。

 それも成長を阻害され、体調を崩すほどのチャクラを持ち合わせており、危険だ。

 里外に影響を及ぼす心配もあるし、他の里の忍が彼女を襲わないとも限らない。

 里の外に出たのならなおさら、彼女の体調も加味して早く見つけなければ大変なことになる。





「明日帰ってくるはずだった雪も・・・帰ってくるって・・・・・」






 ずーんと沈んで、斎は言う。

 雪というのは斎の妻であり、炎一族宗主の蒼雪のことだ。

 彼女は日頃は温厚だが、キレると非常に怖い人物だと言うことはよく知られている。

 怒りにまかせて3代目火影を殴ったという伝説は、今も恐れとともに語り継がれている。

 娘の大事に緊急に人員を交代して、早く戻ってくるようだ。



 今回の一件は斎ではなくイタチから詳細を含めて、彼女の耳に入った。

 イタチは容赦なく真実を詳細に蒼雪に語ったことだろう。

 そもそも休みかどうかもわからないのに、休みだとに言った斎が悪いのであり、その上の誕生日ま
ですっかり忘れていたのだ。

 怒られることは間違いない。





 だがひとまず、今は彼を責めている場合ではなかった。





が行きそうな場所で、思い当たるところはないんですか?」





 カカシは斎に尋ねるが、斎は首を振る。





「あの子は今まで屋敷の外に出たことがないんだ。」





 体が弱く、いつも広い屋敷で一人きり。

 は外に出たことがないし、外で遊んだことがない。





「じゃあ、どこも目指さずただ外に出たってことかな?」





 カカシは腕を組んで困った顔をする。

 それでは人海戦術でしか探しようがない。

 困り果てていると、突然、部屋にイタチの父のフガクと、珍しく任務のための服を着た母親のミコトが
入ってきた。





「父上?」

「イタチ、サスケを知らんか?」





 渋い顔でフガクは息子に尋ねる。





「知らないですよ。どっかで遊んでいるんじゃないですか?」





 イタチはいつでも渋面の父に気のない様子で返す。

 しかし、内心ではおかしいなと感じた。



 サスケは優秀だが、そのせいもあって同年代の友達に恵まれていない。

 もうすぐ真っ暗になるこの時間に遊んで帰っていないのは考えられない。



 たいてい一人で修行でもしているのだから。





「どうかしたんですか?」





 三角座りをしたまま、斎は首をかしげる。





「これを見てください。」





 フガクは斎に大きめの紙切れを渡す。

 そこには子供の書いたであろう大きく見にくい字が並ぶ。

 だが5歳にしては上手だ。





「えっと、よくかけてますね。」

「じゃなくて、内容です。」





 フガクは冷静に突っ込みを入れる。

“6日くらいで帰ります。”



 家出というわけでもなく、何らかの目的を持って出かけたということを示す短い文章。

 斎は一応透先眼で確かめるが、彼も里の中にはいない。



 サスケは年の割にずっとしっかりしている。

 文章の内容から言って、彼に家出の意志はないだろう。

 ただ、6日くらいという曖昧な期間日の指定と、場所を書かなかったところを見ると、彼は行き先を知
らないのだ。


 すると、かならずその場所を知る同伴者が必要となってくるわけだ。





とサスケは、一緒かもしれませんね。」





 イタチは手紙をのぞき込みながら、小さく呟く。

 斎も同じ見解だった。

 この文章の書き方から言って、おそらく言い出しっぺはだ。



 は日頃ぼんやりとしているが、こうと決めたら動かないところがある。

 サスケはを止められなかったが、を一人で行かせることが、忍びなかったというところだろう。





「すいません。たぶんがサスケ君を連れ出したんだと思います。」





 斎はフガクに頭を下げる。





「あら、だったら大変じゃないですか。」





 あまり慌てていなかったミコトが、顔色を変えた。

 が体が弱いのは周知の事実だ。

 早く見つけなければ大事に関わることは、誰でもわかる。





「でも、サスケからの手紙を見る限り、には明確に行く場所があるってことですよね。」

「サスケが6日・・・片道3日はかからないと予想する国ってことか。どこだろ。」





 イタチの意見を受けてカカシはうーんと悩む。

 国はたくさんあるが、が知る誰かがいる国でなくてはならない。

 それも突然行っても許されるぐらい親しい人のいる国。





「堰家は遠いですよね?」

「土の国は片道3日は無理だね。」





 堰家はの親戚に当たるし、一時は炎一族邸に来ていた要が当主だが、遠すぎる。



 子供が行くならば効率的に言っても行商用の馬車などがあげられるが、忍とはちがうので遅い。

 土の国では6日では行って帰ることが出来ない。






「でもなぁ・・・・あんまりいないはずなんだけど・・・」





 は基本屋敷にこもりきりで、親しい友達も少ない。

 知り合いは必ず斎か蒼雪の関係者になるわけだけれど、それもごく少数で、希薄なつきあいが多い。

 それはイタチもよく知っていたが、ふと思い当たる人間を見つけた。





「砂隠れの里のサソリは?」

「あいつ?・・・無愛想だし、とあったのは2.3度だけだよ。」





 サソリは蒼雪と斎の幼なじみでとも顔なじみだが、他国の人間なので顔を合わせたのも数度だけだ。





「でも、はなついていましたよ。」





 イタチはサソリが来たときのことを思い出す。

 は彼の操る傀儡のほうに興味を持って、熱心に聞いていた。

 それにサソリは帰るとき寂しがるに“いつでも会いに来い”と言っていたはずだ。

 普通なら社交辞令ととるが、サソリなら本気かもしれない。

 そして、もそれを感じていたなら。





「風の国なら早く行けるなら片道3日で十分ですね。」

「砂隠れに鷹を出しましょう。」





 ミコトが早足で部屋を出て行く。





「さて、俺たちも行きますか。」

「行くの?」





 斎は三角座りをして相変わらず部屋の端で縮こまったまま行動力のある弟子を見上げる。





「残りたいんですか?良いですよ。・・・・でも。」





 イタチは一度言葉を切る。





「蒼雪さんが帰ってきて殴られたいなら、」





 何もせず、項垂れていたならば、蒼雪にどうされるか、誰が見てもわかる。

 にっこりと笑う弟子に、斎は真っ青になった。



( うごき こうどう すべての原動 )