砂隠れの里は、石や土で作った建物の多い、どこか茶色や灰色の多い町だった。

 商人は、が“サソリの家に行きたい”と言うと親切に家の前まで送ってくれた。





 石造りの、大きな扉。

 扉は重く、やサスケの動かせるような大きさではない。

 はどうやって入ればいいのかと戸惑い、きょろきょろしたが、サスケは迷わずチャイムを押した。






「ひとのいえにいったときはチャイムをおすんだ。」

「そうなの?」






 ふぅん、とは気のない返事を返す。

 少し風が吹けば、砂が舞う。

 砂が少し目に入って、サスケは痛みに顔をゆがめた。


 がけほっと小さな咳をする。

 どこにでも入り込む砂は、疎ましい。

 サスケが背後を振り向くが、道には人がほとんど出ていなかった。



 活気が木の葉とはちがう。




 木の葉のある火の国と、砂隠れのある風の国は同盟関係にあるが、同盟を締結してから、風の国の衰退
は著しい。

 元々豊かな土地を持つわけでもないので、同盟締結以後は寂れていると聞いていたが、本当のようだ。







「誰じゃ。」






 重い石の扉を開いて出てきたのは、老婆だった。

 もうかなりの年の老婆は、幼いとサスケを見ると不思議そうな顔をした。






「さそりのおうち?」






 はなんと言えばいいのかわからず、つたなく尋ねる。





「そうじゃが・・?」





 老婆はの尋ねた意図がわからなかったようだ。






「すいません。サソリさんを訪ねてきたのですが、」






 代わりにサスケが言うと、老婆は納得したようにうなずいてとサスケを扉の中に入れた。

 扉の中には石造りだが大きな建物があり、の住まう炎一族邸の半分くらいの広さがあった。

 初めてみる木の葉とはちがう作りの家に、二人は目を丸くする。




「早く、お入り。砂嵐が来る。」






 老婆は建物の中へとらを促す。


 二人は顔を見合わせて老婆の後についていった。

 石造りだけあって明かりはともされていたが、廊下は薄暗い。






「まさか、あやつにこんなかわいい友達がおったとはな。」






 ふふ、と老婆は何がおもしろいのか、唇をつり上げて笑う。

 そんなに意外なことなのかとは首をかしげたが、老婆は相変わらず笑っていた。

 石造りの部屋を通り抜けると、中庭に出る。



 そこには釣りをしている老人がいた。

 頭を包帯で巻いており、眉毛が白く長く伸びている。

 もうかなりの年だろう。







「おや、姉ちゃんにそんなかわいい知り合いがおるとはしらなんだ。」





 驚いたように目を見開いて、老人は言う。

 どうやら老婆の弟のようだ。





「まさか、ワシにはこんな知り合いはおらん。サソリだ。」

「サソリ?そっちのほうが意外じゃな。いつこげなかわいい子らを?」







 老人はゆっくりと首をかしげ、竿を少し振った。







「こんにちは。」







 は深く頭を下げてお辞儀をする。







「行儀のよい子だ。」






 老人はふぉっふぉと笑ってをほめた。






「いったいどこからきたのじゃ。」

「このはがくれの里です。」

「木の葉か・・・ふたりでか?」

「はい。」

「そりゃずいぶん遠いところから来たもんじゃ。」






 木の葉と砂は近いが、子供がふたりで来るような場所ではない。

 いろいろ詮索することは可能だったが、心得た老人は何も聞かなかった。







「こっちじゃ、おいで。」






 中庭を出て、老婆は階段を上る。

 なにやら人なのか区別がつかないほど精巧なたくさんの人形が階段に立てかけてあり、サスケはびくり
とした。

 殺風景で石以外生活感の見えなかった一階と違い、二階には線や人形の足や手などのパーツが散乱して
いる。

 ここに住まうのは傀儡師。


 は小走りで老婆についていく。

 しばらくすると、廊下の奥に蠍と書かれた扉が見えた。



 老婆はその前で止まる。







「サソリ、おまえに客じゃぞ。」

「客?んなもん来ねぇよ。」






 老婆が声をかけると、中から素っ気ない声が聞こえる。

 扉が開けられる様子はない。

 さて、どうしたものかと老婆は自分の肩をたたく。

 すると、が前に出た。

 はすぅーーーと息を吸い込み、





がきたの!!!!」






 大声で叫んだ。


 日頃のでは考えられないほどの大音量に、耳がきーんとする。

 サスケは耳を押さえたが、老婆は平気そうな顔をしている。



 経年に伴い、耳が遠いようだ。


 しかし、さすがに扉の中でも聞こえたようだ。

 慌てて扉に駆け寄るがちゃがちゃと言う音が聞こえ、扉が開かれた。





?」





 外をのぞくように少し開かれていた扉が、の姿をとらえて大きく開く。



 中から出てきたのは、赤毛の男だった。 



 容姿はらより遙かに年上だが、斎などよりは若く見える。

 彼がのあいたかった“サソリ”なのだろう。





「おまえも隅に置けんのぅ。こんなかわいい友達がおるとは。」






 老婆がからかうように言うと、サソリは不快そうに眉を寄せる。






「ババァ、目ぇ見えてんのか?」

「なんじゃ祖母に向かってその口の利き方は。」

「耄碌してんじゃねぇよ。この顔、見覚えあんだろ。」





 ぐいっとを手元に引っ張り、老婆に向ける。

 老婆はに顔を近づけ、目を細めたが、思い当たる物がなかったらしく、首をかしげた。







「誰じゃったか。」

「やっぱぼけたな。斎の娘だ。」




 の紺色の髪を引っ張って、サソリは言う。

 と斎は顔立ちがそっくりで、髪の色も同じ。

 それも珍しい色の髪なので、なかなか同じ色の人間はいない。






「斎・・・あぁ、炎のとこのな。なるほど・・・・」





 老婆は納得いったのか、をもう一度上から下まで見た。

 サソリはため息をついて、サスケを見やる。






「・・・?イタチの弟か。」

「・・・はい。」





 サスケはサソリをじっと見ながら返事をする。


 やっぱりな、とサソリは少しいやそうな顔をして、サスケも部屋に入れた。

 部屋の中は人形の手やら足やら胴体やらでぐちゃぐちゃだ。

 廊下で老婆が去っていく音がして、扉が閉まる。

 何となくサスケはとんでもないところに来てしまった気がした。







( 自分とはちがうこと ちがう場所 )