「適当にその辺に座れ。」





 サソリは遠来の子供二人に言う。

 サスケはこの人形だらけの場所のどこに座ればいいかと悩んだが、は遠慮なしにソファーを見つけ、
大胆に物をどけて座る場所を確保した。

 は、サソリの幼なじみである斎と蒼雪の娘だ。



 木の葉に住まう炎一族の東宮で、体が弱く、サソリが炎一族に行ったときも熱を出して寝台にこもりき
りだった。

 さすがに長い間馬車に揺られ、疲れたのか、はソファーの肘掛けに凭れてぐったりしている。

 もう限界といったところだろう。






「仕方ねぇな。」






 サソリはぐちゃぐちゃの部屋の中から筆を取りだし、の額に術式を書く。

 が体が弱いのは、自らがもつ莫大なチャクラに体が耐えられないからだ。

 日頃は安定しているが、少しのことでそのチャクラが動き、それで体調を崩す。



 ならば、チャクラを術で安定させてしまえばいい。

 しばらくしたら術式は切れるが、しばらくの間なら問題ないので、サソリはに術式を施した。





「?」

「ま、これで少しは楽になんだろ。」






 はよくわからないのか、不思議そうな顔をしたが、またソファーの肘掛けにもたれかかった。


 隣ではサスケが心配そうにをのぞき込んでいる。

 イタチの弟だという話だが、イタチとは違いずいぶんと素直そうだ。

 まだ幼いからだろう。





「それにしても、おまえ、何がどうなってこんな遠くまで連れひとりだけで来たんだ?」





 体の弱いの遠方への外出を、両親が許したとは思えない。

 術式で少し体調の戻り始めたは、ソファーの上で三角座りをしてころりと転がった。






「だって、ちちうえさま、きらい。」






 すねたように言う。

 その言葉にサソリは目を丸くして驚いた。


 は世間一般から考えて非常に良い子だ。

 両親は里で一、二,を争う手練れで、頻繁に任務にかり出され、休日も不定、酷いときには休みなし。

 熱を出そうが、寂しかろうがをおいて任務へ出て行く。


 それについての不満を、から聞いたことは一度もなかった。


 寂しくないのかと尋ねても、仕方ないと子供ながらちゃんと理解している。

 両親の仕事をこれ以上ないほど理解し、両親に反抗することがない良い子。

 彼女から“嫌い”なんて言葉が出されるには出されるだけの理由が存在する。






「なにやったんだ。斎は。」

「・・・うそついたの。」





 はソファーに転がったまま紺色の瞳を潤ませる。

 その瞳には子供ながらに激しい怒りの色があった。






「おやすみだっていったの。」

「でも、任務が入ったのか。」

「・・・・・のおたんじょうびで、いないのはいつもだから、もわかってたの。なのにおやすみだと
か、いうから、だから・・」







 ふぇえ、とは声を上げて泣いてしまう。

 もしも斎が最初から無理だと言っていれば、もあきらめただろう。


 元々期待はしていないのだ。


 だが、斎が休みだと言ったからこそ、は期待した。

 誕生日だからこそなおさらだ。



 なのに、当日になって任務が入ったのだろう。

 よくある話で、にもそれは理解できているだろうが、任務が入る可能性があるのならば最初から言う
な、という話だ。

 喜びだけに、落胆は大きい。

 サスケがの頭をくしゃくしゃと撫でる。



 するとはますます泣き出した。








「・・・・を怒らすなんざありえねぇな、」






 サソリはため息をついて薄汚れた天井を仰ぎ、外に出ていく。

 泣いていたはサソリがいなくなったことできょとんとする。


 しばらくして戻ってきたサソリは、息を吐いていった。





「料理、頼んでやったから。」

「え?」

「言っとくが、砂の料理は微妙だからな。」





 ここで、誕生日をすればいいと言うことらしい。

 サスケとは顔を見合わせる。

 の涙はいつのまにか止まっていて、少しだけはにかんだように笑った。





「ま、気が済むまでうちにいりゃいいさ。なんもかまやしねぇけどな。」





 サソリはごそごそと新しい傀儡を組み立てる。

 涙の止まったはソファーをまたころころ転がりながら、近くの人形のパーツや巻物をぼんやりと目に
写す。



 サスケは興味深そうに巻物の術式を見つめ、自分の頭の中にある物と見比べる。

 砂隠れの物なので木の葉の物とは違い、全然理解できなかった。





「新しい傀儡?」

「そうだ。この間殺した忍のやつだ。」 





 にやりと獰猛な笑みを浮かべ、サソリは指先を動かす。

 するとそれに呼応するように傀儡が動いた。

 若い、薄緑色の髪をした男の人形だ。





「傀儡使い、」






 サスケは小さく呟く。

 話では聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。



 武器をチャクラの糸を使って操る彼らは近距離戦には弱いが、操っている人間が見つからない場合非常
に厳しい相手となる。

 さすがは斎と蒼雪の知り合いと言ったところか。






「おもしろい能力のやつでな、風を集めるチャクラを持ってやがる。」

「風?」

「おまえの炎と同じだと考えりゃいい。いい素材だぜ。」





 傀儡がサソリの指の動きに反応して自らの手をかざす。

 すると周囲の風がふわりと動いた。

 とサスケの髪がわずかだが揺らされる。






「すごい!」

「ほんとうだ。」






 ふたりは揃って手をたたく。


 素直に感動しているようだ。

 子供の反応にサソリはなんだか自嘲するような笑みを浮かべて、傀儡を元の場所に戻した。





「おい、サソリ、また客じゃぞ。」





 しばらく傀儡の構造などを教えてもらいながら過ごしていたが、会話が途切れた時、先ほどの老婆がま
た廊下にいるのか、声をかける。






「なんだぁ?今日は来客が多いな。」





 サソリはいやそうに悪態をつく。

 日頃は滅多に来客がないというのに、今日は騒々しい。

 とサスケでも珍しいのに、三人目が来るとは思わなかった。




 そして、来る人間はわかっている。






「失礼しますよ。」





 扉を勝手に開いて現れたのは、柔らかに波打つ銀髪の女性。

 蒼色の瞳が、優しく細められる。

 が目を丸くして、女性を写す。





 彼女は、本当に柔らかくほほえんだ。









( あたたかいこと うれしいこと )