砂隠れの里の料理は少し香辛料がきいていた。

 砂漠地域で物が腐りやすく、それを防ぐためだろう。


 味が濃いからどうかと思ったが、は意外にも気に入ったようで、日頃よりよく食べた。

 どうやら香辛料が魚や肉の臭みを消し、香辛料のにおいが食欲を誘ったらしい。

 朝から馬車に揺られ、動いたせいもあるのだろう。


 サソリの部屋は人形のパーツでいっぱいだったので珍しく広間で食べることになった。

 床には座布団や毛皮がひかれ、料理が並ぶ。

 たちを最初に迎えた老婆と老人はサソリの祖母とその弟らしく、ふたりも結局一緒に食卓を囲んだ。





「ちよおばあさまも傀儡つかい?」

「そうじゃよ。」





 長らく三人暮らしで来客の少ないチヨらは、幼いやサスケの答えにうれしそうに答える。

 幼い子供と接する機会が少ないせいか戸惑いも浮かべていたが、疎ましくはないようで、熱心につたな
の話も聞いていた。





「おばあさまもじょうず?」

「後で見せてやろうかの。」

「ほんと?」





 は素直にチヨの話にぱちぱちと手をたたいて反応を返す。

 チヨは何度も何度も皺だらけの目元を動かした。





「あぁ、もうそろそろ斎とイタチさんが来そうですわね。」





 何かを感じてか、蒼雪がぽつりと言う。


 途端、の表情が固まって、蒼雪に身を寄せた。

 家出した一番の原因は斎のため、彼に会いたくないが、イタチは大好きなので会いたいと言ったところ
だろう。



 の葛藤を感じて、蒼雪は自分の膝にすがりつくに優しく笑みかけた。






「大丈夫。父上様はまず、わたしと喋らなくてはいけませんから、」

「ははうえさまと?」

「ええ、もちろん。」





 笑って頷いてはいるが、語尾が酷く冷たい。

 サスケは大変なことになりそうな予感をひしひしと感じ、兄が早く来てくれることを素直に望みながら
、斎が来ないことを願った。


 は蒼雪の膝に頭を預け、頬をすり寄せていたが、新しい料理が来てまた皿に取って食べ始めた。

 黄色のどろりとしたスープは見た目は微妙だが、味は甘辛くておいしい。

 子供がいるせいか、比較的どれも甘くて、見た目の割に蒼雪より4つも年上だというサソリは不満そうだ
った。




 しばらくすると、遠くでチャイムの鳴る音がする。





「あら、わたしが出てきますわ。」





 蒼雪が丁寧な動作で立ち上がる。





「ワシらが出るぞ?」

「いえ、斎でしょうから。」





 を安心させるようにの頭を一なでしてから、蒼雪は広間を出て行く。






「なぁ、今刀持ってかなかったか?」

「気のせいじゃろ。」





 サソリの言葉にエビゾウは見てないふりをする。

 しかし明らかに彼女の手には鈍く漆黒に光る刀が握られていたような気がした。



 は意味がわからずふざけるように敷いてある毛皮に倒れて転がる。

 体調がよいようで、食事も出来てはご機嫌だ。






?」






 突然、よく響く声変わり前のボーイソプラノが響く。

 はぱっと起き上がって声の方に目を向ける

 そこには、が一番大好きな人がいた。







「いたち!!」







 はすぐにそこにいる少年に駆け寄り、抱きつく。

 あまりの勢いにイタチは後ろに倒れたが、しっかりとを抱き留めた。






「良かった・・・・」





 はき出される安堵の息には酷く悪いことをした気分になって、ぽろぽろと涙があふれた。

 イタチが気づき、そっと上に乗っかっているの髪を優しく梳く。

 長い間離れていたような気がする。





「泣くな、別に怒ってるわけじゃない。おまえが元気で良かったよ。」





 を抱いたまま身を起こし、イタチは笑う。

 そして、微妙な顔をしている弟に目を向けた。





「サスケが一緒で助かったぞ。」

「たいしたことしてないけどな。」

「いや、おまえの手紙での行き先が推測できた。」






 サスケの功績は、イタチたちにとっては大きい。

 イタチはを抱えて料理の並ぶ場所へと座る。







「ほっほっ、うちはの長男か。腹がへったじゃろ。」





 食えと、エビゾウがイタチに食事を勧める。

 あまりみたことのない香辛料の料理にイタチは不思議そうな顔をしたが、いただきますとを膝に乗せ
たまま手を合わせた。





「そういや、斎さんも一緒に来たの?」





 サスケはイタチの周りを見て、誰もいないので首をかしげる。





「来たさ。ただ、雪さんが先生をどう扱うかは別。」

「・・・・・・」

「取り込み中ってことだ。サスケも外には出ないように、な。」





 皿を持ったまま、イタチは端で軽く自分の首を切るふりをする。


 要するに死にたくないなら外に出るなと言うことだ。


 蒼雪は神の系譜と呼ばれる特異で絶対的な血継限界を持つ一族の宗主で、その能力はすさまじい。

 そんな彼女と斎の喧嘩に首を突っ込みなど百害あって一利なしだ。

 絶対にしたくない。


 サスケも尋ねるのをやめた。







「夫婦っていうのは難しいものなんだろ。」








 いったい何を見たのか、

 が意味を飲み込めずに首をかしげる中、イタチはそんな大人びたことを言ってその話を終わらせた。
 



( たくさんあるもの  )