「なんて言うのかなぁ・・・・、こー、ぴーんと来るって言うか、ひらめくって言うか。」
滅茶苦茶な説明を繰り返す斎をぼんやりと見ながらイタチはため息をつく。
彼の言いたいことは、何となくわかる。
要するに術ができるようになるには、何らかしの閃きがあり、続けていればいつかできるようになるわけで、焦りは禁物と言いたいのだろう。
だが、あまりに抽象的すぎて意味がわからないし、納得できない。
「・・・・ぴーんでできるようになったら楽でいいんですけど。」
「いや、だからさ。焦るなって言いたいわけだよ。地道に訓練していたら、できる瞬間があるのさ。」
斎はぶんぶんと手を大きく振る。
まるでその動作は子供のようだ。
炎一族邸の広い庭で訓練するふたりを、庇からが見守っている。
イタチだけではなくも自分の父の説明がわからないようで、不思議な顔をしていた。
イタチはの反応も伺ってほらみろ、と思う。
最近教えてもらった水遁が失敗続けで苛立っているのもあり、斎への反抗が八つ当たりめいていることは自分でもわかっていたが、止められなかった。
「もう一度印を教えてください。」
「印は覚えたでしょ?そんなに何回見ても同じだよ。ちゃんとイタチの印はあってる。」
「でもできないじゃないですか。」
「チャクラの練り方にこつがあるんだよ。鋭くっていうかぴーんって・・・・」
またもや始まった斎の感覚的な説明に、イタチはますます表情を険しくする。
そんなこといわれてもできないものはできないのだ。
今まで順序立ててきちんとやって出来ないことなどなかった。
出来ないのは間違っているからだ。
そう思ってイタチは何度も印を確認するが、目に見える間違いは何もなかった。
彼の言うとおり、感覚的なチャクラの練り方が違うらしい。
けれど、それを素直に認められるほどイタチは大人ではなかった。
「ふわぁ、」
が父とイタチの口げんかややりとりに飽きてきたのか、欠伸をする。
チャクラが多すぎてすぐに体調を崩すだが、今日は調子がいいらしい。
その上今週は雨ばかりだったが、今日は久々の晴天だ。
空は青く、鳥たちも喜ぶように高く飛んでいる。
絶好の行楽日和だが、は体が弱くて屋敷の外には出られない。
だから朝からずっと斎とイタチの訓練を見守っている。
彼女の隣では屋敷に仕える侍女がおずおずと食事を用意していた。
「もうそろそろ昼かな。」
斎はふっと後ろを振り返って並べられた膳を見やる。
「イタチ、休憩。」
「はぁ?水遁がまだ出来ていないんで食べません。」
「だめだよ。食事は一日の活力です。」
「朝ご飯は食べました。」
「昼ご飯も大事だよ。だってイタチは成長しなくちゃいけないんだから。」
斎は困ったような顔をして腕を組む。
彼の意見はもっともだし、そのことはイタチにもわかっていたが、意固地になってしまったイタチは譲れず、未だに印を組み直していた。
こうなると何を言っても聞かない。
斎はイタチに聞こえるように嘆息して、の隣に座る。
今日の昼ご飯は強飯といえつも(煮物)、米酢にアワビの酒蒸し、鮭の笹焼きとなかなか豪華だ。
基本的に炎一族の食事は旧時代と変わらない。
そのため里のものとは少し違うが、あっさりしているのが特徴だった。
「おいしそうだね。」
斎は酒蒸しの香りに食欲をそそられ、小さく呟いて箸をとる。
しかし、ふと隣をを見た。
ちょこんと庇に正座する斎の幼い娘は、まだイタチをじっと見ている。
「、ご飯食べないの?」
は今日朝起きるのが遅くて、朝食を食いっぱぐれている。
元々小食な子ではあるが、今日はお腹がすいていないはずがない。
日頃ならつまみ食いまでするところなのに、今日は正座したままずっと動かなかった。
斎が尋ねるとはふるふると首を振る。
「いらない、いたちといっしょ。」
お腹がすいているだろうに、健気に言う。
は、イタチが大好きで、大好きなイタチが頑張っているのに、一人でご飯を食べるのは居たたまれないのだろ
う。
「イタチー、が昼ご飯食べないんだけどー!」
斎は良いことだと淡く笑ってイタチに大声で叫ぶ。
イタチは目を丸くしてを向き、慌てて庇に駆け寄った。
「、先に食べてろ。」
そっと諫めるようにの頭を撫でる。
はその手を振り払うように、ふるふると首を振った。
「たべない。いたちといっしょ。」
「でも俺はもう少し術の練習をしたいんだ。」
「だったらもまってるの。」
おいしそうに湯気を立てるお膳を名残惜しそうに視界から追い出して、は言う。
は頑固だ。
あまり物事を決めてしまうことはないが、一度決めてしまうとイタチ以上に譲らない。
その頑固さは希なだけに、何を言ってもだめだ。
さぁ、どちらが譲るかと斎はじっと二人の動向を見守っていたが、こうなってしまえば退くのは決まっている。
「わかった。先にご飯を食べよう。」
イタチは少し不本意だという顔をしながらも、の隣に腰を下ろす。
「ほんとう?はまってるよ?」
「いいんだ。先にご飯を食べて活力をつけた方が出来るのかもしれない。」
気遣うに優しく返して、イタチは箸をとる。
するとやっともそれにならった。
斎は苦笑して、の綺麗な紺色の髪をなでる。
結局、イタチはにだけは敵わないのだ。
「何笑ってるんですか。」
めざとく斎の薄笑いに気付いたイタチが冷たい声で言う。
「なーんにも。」
斎は肩を竦め、おいしいねとわざとらしくに声をかけた。
常
( いつも 同じこと つづくもの )