短冊街に来たのは、たまたまだった。

 任務が終わった後に、女の子達で集まった時に、甘味屋の話が出たのだ。

 最近短冊街に出来たばかりの甘味屋は、甘さは控えめであるが、しっかりと素材の味を生かした美味しい料理や
 菓子を出すと有名で、サクラは是非とも行ってみたいと言い出した。

 すると、ヒナタがその甘味屋に一度行ったことがあり、場所を知っているというのだ。



 これは是非とも行かねばならない。

 どういう理論なのかよくわからないが、そう結論づけられて、サクラ、ヒナタ、いの、そしてで短冊街に出向
くことになったのだ。



 ところが、短冊街は遠い。


 忍とはいえ、父の斎に行きたいと言うと、イタチにつれて行ってもらいなさいと、女友達と行くことは許可され
なかった。

 サクラたちもやはり同じように両親からの許可が得られず、断念しかかっていた時に、救世主が現れた。

 斎から任務の折に話を聞いた紅が、一緒に行ってくれることになったのだ。

 結局、短冊街でゆっくりしようと言う話になって、女五人気ままに短冊街で甘味を食べ、いろいろ見て回ってか
ら一泊して帰るという旅程になった。



 は、あまり女性の友達がいなかった。


 イタチは間違いなく男だし、父の友人達は男性が多く、体が弱くて家から出られないは、年上の、大抵男の人
ばかりと話してきた。

 そのため、女の友達や先生は初めてだ。

 誘ってくれたことが素直に嬉しくて、は本当に踊り出したくなるくらいの気持ちだった。








「ヒナタは甘味屋に行ったの?」

「うん。・・・・ナルトくんと。」








 もじもじとヒナタは言う。

 どうやら、勇気を出して大好きなナルトを誘って甘味屋まで足を運んだらしい。

 いつも控えめの彼女にしては、もの凄い勇気だ。


 やるな、とも感心する。



 ナルトは前に甘い物が好きだと聞いている。

 ナルトも喜んだことだろう。





「どうだったの?」

「それが・・・わたし、途中で倒れちゃって。」






 少し大変だったようだ。

 ナルトの前に出ると緊張して倒れてしまうのがヒナタだ。





「それから、どうやって帰ったの?」

「・・・・・ナルトくんに、おんぶしてもらって・・・・・」

「そりゃすごいな。」





 短冊街から木の葉までは結構距離がある。

 ナルトもかなり頑張ったことだろう。


 はにこにこ笑ってヒナタの途切れ途切れの話をゆっくりと聞く。

 前を歩いているサクラといのは争いながらも二人で話ながら歩いている。



 と、紅の方が歩を止めた。






「あれ、イタチ?」






 紅が遠く、やっと視認できるくらいにいるイタチを見つける。

 は少し背伸びをして、イタチとおぼしき人物の様子をうかがう。

 あの黒い髪をうなじでとめたのは、間違いなくイタチだろう。


 ただ、隣に女性を連れていた。

 二人で腕を組んで、服屋から出てきた。






「・・・・誰?」





 不快そうに、サクラが尋ねる。


 イタチはの婚約者である。

 アカデミー時代からに非常に甘く、ぞっこんであることで有名だった。



 だが、女と仲良く腕を組む様子は、まるで恋人同士のようだ。







、知ってる人?」

「知らない人。」








 は首を傾げる。

 イタチは今日任務だと聞いていた。


 なのに、どうして女の人と一緒にいるのだろう。

 胸の中にもやもやした感情が突然吹き出してくる。

 気持ちが悪い。



 先ほど、サクラたちに甘味屋に誘ってもらって嬉しかった気持ちが、黒い感情に覆い隠されていく。

 不快に思うなら、目を離せばいいのに、二人の様子から目が離せない。

 と、女性がふっと振り返った。それに伴ってイタチも振り返る。



 目が合う。





 その時のイタチの驚いた顔と得意げに笑んだ女性の顔が、の心をえぐった。







「ま、何か理由があるんでしょう。」







 紅がはっとした顔をして、慌てた様子で言うが、もやもやした気持ちが、今度は悲しみに変わっていく。


 自分でも説明がつかない。

 悲しみに胸が詰まっていくのを感じて、は俯く。







、ね、いきましょ。」







 の様子に、サクラがの手を引っ張る。








ちゃん。いこう。」








 ヒナタももう片方の手をそっと握る。


 しかし、は動けない。


 きゅっと唇を噛んで黙り込み、目を伏せる。

 紅が少し無理矢理手を引っ張ったが、は足に根が生えているように動けなかった。







「あらあら、お姫様じゃないの。」





 女が艶やかな笑みを浮かべて、嘲るように言う。

 明らかなとげのある台詞に、は俯いたまま顔を上げなかった。



 悲しい、哀しい、哀しい、


 心の中で反芻する感情は、膨れあがっていく。

 が何も言わないことを良いことに、女は笑った。








「家柄だけの許嫁さんは、言葉も喋れないのね。」






 心が、割れそうだった。



 女の言葉が、酷く心に突き刺さる。

 とイタチの結婚は、家同士の関係が大きい。

 最近知ったことではあるが、はそのことに疑問を感じ始めていた。


 の父はイタチの担当上忍で、母は有名な炎一族の宗主で、だからイタチは自分の許嫁になることを受け入れた
んじゃないかと、少しだけ不安に思っていた。

 彼女の言葉は、見事にの不安を射貫いた。





「ぁ・・・・ぅ。」







 震える声音が唇から漏れる。



 哀しい、悲しい、とても、とても痛い。

 ぽたりと、涙がこぼれ落ちる。


 泣いてはいけないと、心の中の誰かが言う。

 けれど張り詰めた感情と悲しみと不安は、あふれ出したら止まらない。






「ぅ、ふぇ、・・・・」






 堪えようとしていた嗚咽が、抑えきれずに溢れる。

 もう限界だ。






「ひっ、ふぇえ、」






 いつの間にか、は声を上げて泣いていた。








 

( 感情を吐露すること 目から水を零すこと )