イタチは結局、や紅らと一緒に、一泊短冊街で宿を取ることになった。


 料理を食べ、風呂に入った頃、状況を知った里の忍達がやってくる。

 イタチは当然ながら後から来たカカシから大目玉を食らった。






「あのねぇ、が大事なのはわかるよ。だけどね、任務でしょイタチ。任務なんだよ。」






 カカシはイタチを諭すが、イタチは堪えた様子もなく、腕の中のを満足げに抱きしめている。

 ちっとも聞いちゃいねぇ。

 カカシは半目で隣の斎を伺うが、彼もイタチを責める気はないらしく、にこにこ笑っていた。






「斎さん。一応諫めましょうよ。やっぱ年上の義務でしょ。師の義務でしょ。」

「とは言ってもねぇ。僕もほら、師である前に親だし?」

「そうですけどね。」

「娘に酷いこと言われたら僕も辛いしさ。イタチのやったことを一概には責められないよ。」

「でも任務優先でしょ。」

「やっぱり人間、自分の感情優先でしょ。」

「それを押さえるのが忍じゃないんですか?」

「うんそうだね。でも時と場合によるんだと思うよ。」

「・・・・・」

「まぁ、任務は元々うまくいってたんだし。」






 斎は肩をすくめる。

 短冊街の重鎮が裏切っているかどうかを調べるために、イタチに重鎮の娘を探らせていたが、その証拠は案外早
くに見つかった。

 木の葉のある重要な巻物が盗まれ、それを取り返す任務の折、間違えて取り返したのが、その重鎮が雷の国に出
した密書だったのだ。

 偶然見つかったのは短い密書だったが、重鎮の行動を予測するには十分だった。






「結果オーライってことで。」 






 びしっと親指を立てて言う斎に、カカシはこりゃだめだと肩を落とした。


 斎は昔からこんな感じだった。


 彼はカカシの師である四代目の弟弟子にあたる。

 昔、まじめだったカカシはこのおちゃらけな先輩と暗部時代一緒の班で、よく弄られたし、困らされたものだっ
た。

 それでも実力は本物で、すべてのらりくらりとかわすものだから、火影や上司も諦めていた。






「良いじゃないカカシ。本当にイタチ、格好良かったんだから。」






 紅がひらひらと手を振って笑う。






「だって、路上で普通に世界で一番好きだ、よ?それも真顔で。」






 普通なら人の前だし、恥ずかしがるものである。

 にもかかわらず、イタチは本当にあっさりと言ってのけたのだ。


 だからこそ、印象的だったし、の不安をすぐに打ち消すことが出来た。






「ほんっと男前だったわ。」 






 紅はイタチの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 紅が手放しでほめるので、アスマは微妙な顔をしていた。


 イタチはカカシ達の怒りも賞賛も介さず、風呂に入ったの髪の水分を綺麗にタオルで拭き取り、櫛で梳かして
いく。

 丁寧だが、洗練された手早い動作は、彼がいつもの髪を梳いてやっていると言うことを示していた。






「僕はイタチみたいにしっかりした恋人がについてくれて大いに満足だよ。」






 斎はうんうんと頷く。

 普通娘に恋人が出来たら、父親というものは反対するのが世の常ではないのか。

 カカシはそう思ったが、斎は娘も可愛いが、自分の教え子であったイタチも同じくらい可愛いのだ。

 可愛いもの同士くっついてくれれば、言うことはない。






「都合良いこと言いますね。昔からを俺に任せきりだったくせに。」






 イタチは斎の言葉にちくりと嫌みを返す。

 斎は昔から任務で忙しく、それは母親の蒼雪も同じで、ふたりともがイタチに懐いたのを良いことに、イタチ
の面倒を任せて任務に出ることが頻繁にあった。


 おかげで、昔からイタチの任務は実力に比べて少なく、短期で長期にわたることがない。

 有り難い話ではあるがそれは偶然ではなく、おそらく斎が上層部と根比べをして毎回イタチの任務に関しては勝
利を勝ち取ってきていることを、イタチはいつしか理解した。






「あー、イタチが意地悪言う−。酷い。ねぇ。」






 斎は非難の声を上げて、に賛同を求める。

 はきょとんとした顔をしたが、イタチと父の顔を見比べ、にこりと笑った。






「うぅん。イタチ悪くない。父上様より優しい。」







 どうやらの中では斎よりもイタチらしい。






「酷いっ、小さい頃はあんなに父上様って追い回してくれたのに。」

「日頃構ってやってる時間の差じゃないですか。」






 イタチはの頭を撫でながら、鼻で笑う。



 幼い頃からの面倒を見てきたイタチだ。

 彼女からの信頼は絶大である。

 そしてそんなイタチをあてにして、いつもをまかせてほったらかしにしていたのだから、この結果はある意味
当然の報いだった。






「まぁ、娘に嫌われるってのも父親のセオリーだろ。」






 アスマはイタチと斎のやりとりに、ふっと笑った。


 はイタチに髪をある程度乾かしてもらうと、嬉しそうにイタチにすり寄る。

 イタチもそんなを抱きしめて頭を撫でてやる。

 幼い頃から育まれた恋心は、穏やかだがさめることがない。






「カカシ先生ー、話し終わった−?」

「終わったよ。」






 カカシが答えると、大人の話が終わるのを待っていたのか、サクラたちが部屋に入ってくる。

 彼女らは心配していたらしく、すぐにの方に目を向けたが、イタチに甘えているを見て恥ずかしいのか少し
顔を赤くした。

 昼間のことを思い出したのだろう。


 イタチは彼女らのことなど全く気にせず、の背中をとんとんと叩いた。

 もイタチの服をきゅっと握る。





「・・・・・えっと、なんて言えばいいの?」






 いのが困ったようにアスマに目を向ける。





「ふたりはラブラブで丸く収まった、で良いんじゃないか?」





 煙草を口にくわえて、アスマは煙草に火をつけた。

 いろいろ片付いたので、一服と言った気分だったのだろう。


 しかし、イタチはそれを許さない。





「アスマさん。だめですよ。」

「え、あ、」

は呼吸器官系が弱いので、結構辛いんですよね。」





 言葉は丁寧だが、要するに煙草を吸うなら外に出ろ、と言っているのだ。

 アスマはわざわざ外に出たくはなかったが、イタチの目が冷たかったため仕方なくベランダへと出て行く。


 のことになると容赦がないのがイタチである。

 無駄な争いごとは避けたほうが良い。





ったら、イタチさんとやっぱりらぶらぶね。」






 いのが呆れたようにため息をつく。





「なに?あんたがらぶらぶしてんのがうらやましいの?僻み根性。」

「違うわよ。でも理想的だなぁって思って」

「なるほど。」





 サクラも意味を理解してを見る。

 穏やかな顔でイタチに甘えるは、もの凄く幸せそうだ。


 確かに、女性ならばしてほしいことを、イタチはちゃんとしてくれる。

 ある意味女冥利に尽きるとでも言おうか。



 恥ずかしくはあるが、はっきりとした態度を示すイタチは、少なくとも自分の恋人を一番安心させる方法を知っ
ている。

 恋人が出来たら是非してほしいものであるから、思わず憧れる。


 だが、おそらくこれはイタチがするから格好良くうつるのであって、他の人間がしても仕方がないと言うことに
気付かないのが、まだ子どものサクラたちだった。





「それにしても、とんだ任務だったね。イタチ。」






 斎が苦笑ながら、退屈しのぎにおっていた紙飛行機をイタチの方に飛ばす。

 それをイタチは宙で受け止めて、首を傾げた。






「どうしてですか?」

「だって、が泣くはめになったじゃないか。」

「確かに、そこは本当にかわいそうなことをしましたね。」





 イタチはよしよしとの頭を撫でる。





「そこは?」





 斎が尋ねる。 

 なんだかんだ言って、あの女とつきあって、イタチは良い思いをしたのだろうか。

 きょとんとする面々にイタチは満面の笑みを持ってして答えた。





「だって、が妬いてくれたなんて初めてですよ。こんな貴重な体験、滅多にできないじゃないですか。」





 全員が硬直して、イタチの顔を凝視する。





「泣くほど嫉妬してくれるなんて、思いませんでしたよ。」







 こんな嬉しいことはない。


 にこにこ笑って、イタチはを思いっきり抱きしめる。

 全然恥ずかしそうな風はない。


 だが、完全なる惚気だ。浮かれている。






「・・・・・イタチ・・・おまえ」






 カカシが何かを言おうとしたが、言葉を失い頭を抱える。




 この男、以外何も考えちゃいない。




 その場にいる全員が、全会一致でそう思った。

( 清々しいせいか それにともなう勲章 )