斎が何年たとうともちっとも変わらない、幼げな屈託ない笑顔で笑っている。

 うちはの嫡男のイタチと言う少年が抱えるのは斎と同じ紺色の髪に瞳の少女だ。

 泣きもせず、かといって笑いもせず、じっと紺色の瞳でこちらを見ている。


 幼馴染みの斎は昔から奇特な人間だ。

 天才的な才能を持ちながら、平々凡々、だらしがない。

 そんな幼馴染みの娘であるからそれなりに変だろうとは思っていたが、ここまでうり二つだと嫌
な予感がしてならない。

 砂隠れの里で赤砂のサソリと恐れられる男は、はぁとため息をついた。


 目の前の女児は東宮蒼

 れっきとした炎一族の跡取りの姫君である。


 長年の幼馴染みである斎と、炎一族女宗主の蒼雪の娘。

 幼馴染みの斎と蒼雪に後継者である女児が生まれたという話は数年前に聞いていたが、戦争やら
九尾が現れたやら、風影が死んだりで、会う機会が延び延びになっていた。

 元々子どもなど好きではない。

 まして三つやそこやらの幼児だ。


 泣くし喚くし、大嫌いだ。

 しかし、にこにこ笑っている斎の様子からして、抱かないという選択肢は端から用意されていな
いだろう。






「あら、怖いんですの?」





 蒼雪がしてやったりとでも言うようににたりと笑う。


 何とも嫌な女だ。

 子どもが嫌いなことは知っているだろうに。





「本当に抱くのか?泣いても知らねぇぞ。」

「あら、宮はあまり泣かなくて、よい子ですわ。ねぇ?」






 蒼雪はするりと子どもの頭を撫でる。

 母親に頭を撫でられて嬉しいのか、は猫のように喉を鳴らした。






「そうだよ。は良い子だよ。とっても良い子なんだよ。」

「なんだその強調は。」





 わざとらしく蒼雪に賛同する斎になんだか嫌な予感がする。


 元々炎一族というのは炎を操る一族で、幼いうちは制御が甘いので、感情の起伏によっては物を
燃やしたりすることがある。

 蒼雪の幼い頃、喧嘩をして森に隠れた際に、森を丸焼きにされ、あぶり出された経験のあるサソ
リからすると、娘とやらも危なくて手が出せない。

 やることのスケールが違う時があるのだ。






「いーち、だれ?」






 は両親のやりとりをよく理解していないのか、自分を抱えるイタチに問う。

 先ほど紹介されたが、この有名な写輪眼のうちは一族の嫡男は斎の今の教え子でかなりできが良
く、その上のお気に入りだという。






「あぁ、サソリさんだって。」






 イタチは別段興味もなさげに答える。





「さー?」

「サソリ、」

「りー、」

「さ・そ・り」

「さーりー、」





 はイタチのはっきりとした発音にもついていけないらしく、首を傾げた。

 なにやらイタチの発音と自分の発音が違うことはわかるらしい。

 しかし、舌が回らない。





「さーは、なに?」





 結局“さー”に落ち着いてしまった。





「僕と雪の幼馴染みなんだよ。」





 斎が笑っての頭を撫でると、うんうんとはわかったのかわかっていないのか、ひとまず熱心
に頷いた。





「ほら、サソリ。をだっこしてみなよ。」





 サソリの気持ちなど知らずに斎が笑うが、だんだん斎が悪魔に見えてきた。

 彼に悪意はないんだろうが、迷惑この上ない。

 嫌々ながら、に手を伸ばす。

 すると、の方から手を伸ばしてきた。


 抱きつこうとしているのか、

 子ども慣れしていないサソリは、積極的なに半ばほっとしたが、次の瞬間目を丸くした。


 がしっ、





「あ、」





 イタチがを渡そうとして、固まる。

 の小さな手は思いっきりサソリの髪の毛をがしりと掴んだ。





「あかいろー。」





 目をらんらんと輝かせて、が声を上げる。

 先ほどからじっと見ていたのは、どうやらサソリではなく、髪の毛だったらしい。

 確かに、赤色の髪の毛を見たのは初めてだったかもしれないが、誰もが予想外だ。


 イタチも驚いて、を抱いていた腕を解く。

 幸いか不幸か、はサソリの髪の毛をしっかり掴んでいたせいか、サソリの髪の毛を支えにぶら
んぶらんと宙づりになった。





「あかーあかー、」





 楽しそうには声を上げる。

 案外子どもの握力は強い。






「あの、?お手々離そうか・・・・」





 斎も流石にどうして良いかわからず、怒っているであろうサソリを考慮しておそるおそるに手
を伸ばす。


 蒼雪はあらまぁと袖で口元を隠してことの成り行きを見守っている。

 サソリは何が起こったのかわからないのか、前髪にぶら下がっているに呆然としていたが、周
囲の心配をよそに、サソリははぁっと息を吐いての躯を抱いた。

 支えがついて、はサソリの髪の毛から手を外し、今度はかしかしと抱きついて撫でる。


 動物か何かと勘違いしているのではないだろうか。

 サソリのどちらかと言えばもさもさの頭にぎゅっと抱きつく。





「なんだ、髪の色が珍しいのか。」

「ふかふかー、」

「あぁ、そりゃ良かったな。」





 サソリは気のない様子で返して、頭にしがみついているを抱き直す。

 無愛想なサソリだが、は別に気にしていないらしい。

 元々よい子ではあるが、人見知りの激しい子だ。

 他人に懐かないことが多いのだが、一応気に入っているようだ。







「えー、案外平気なんだ。」






 もっとサソリが怒ると予想していた斎は、意外そうに頭をかく。






「ガキに怒ってもしゃあないだろうが。」

「まぁそうですけど。もっと心が狭いかと思ってましたの。」

「雪、喧嘩売ってんのか。」

「ふふ、だって。後でその格好で写真とらせてくださいね。」






 蒼雪は楽しそうに笑って、侍女にカメラを取りに行かせる。






はサソリの頭が気に入ったんだね。」





 まだサソリの頭にしがみついて小さな腕で頭を抱えているを見て、斎はイタチに笑いかける。




「・・・・そうですね。」





 イタチはもの凄く不本意そうな不機嫌丸出しの顔で、頷く。

 斎はきょとんとした。





「あれ?ヤキモチ?」

「・・・・・」

「否定しないんだ。」




 素直ではないイタチに苦笑して、くしゃりと彼の頭を撫でる。

 むっとした顔のイタチは斎の手を鬱陶しそうにはねのけながら、サソリの頭にしがみついた
引きはがした。





  願い ( ひとのいのり 続くべき日々 )