白い着物のような装束を着た女性が木を持って揺らし、水をまく。

 人々がよけていき、遠く道の向こうに大きな木の枠に提灯をたくさんぶら下げたような山鉾が見
える。

 日が入っているのか提灯は光っていて、山鉾を引く人の熱気がすごい。

 山鉾の前を、市松模様の羽織を羽織った人が、踊る。





「疫病の猖獗を鎮める祈願を込めて行われるらしい。」

「へぇー、すごいねぇ。」





 踊る人を眺めながら、はきゃっきゃと声を上げる。

 こんなに大きな物が道を通るのを見るのは初めてだ。

 祭りの話はイタチや他の人からたくさん聞いていたが、実物を見るのは本当に初めてで、酷く興
奮する。

 身を乗り出せば、危ないとでも言うようにイタチに抱きしめられた。





「気をつけろよ。」





 櫓を組んだだけとはいえ、ここは建物の4階分程度の高さがある。

 忍とはいえが落ちれば怪我ではすまないかもしれない。

 だから危ないと止められている訳なのだが、は胸の鼓動が早くなるのを止められなかった。



 最近自分は変なのだ。



 幼い頃からイタチと一緒に居るから、抱きしめられるなんて普通だ。

 大好きだと小さい頃は自分から抱きついていたこともある。

 慣れている、なのに、最近は恥ずかしくて堪らなくなる時がある。

 恥ずかしくて、隠れたくなる。



 なんでなんだろう、

 山鉾を見ているイタチの横顔を眺めながら、は腰に感じる力強い腕に心地よさを感じながら、
同時に居心地の悪さも感じた。

 変だと自分でも想うのに、止まらない。





「山鉾はひとつじゃなくて、たくさん種類があるんだ。」

「そうなの?」

「だから、ここにしばらくいたら、たくさん見れる。夜にも出るしな。」





 イタチの説明には山鉾を不思議そうにのぞき込む。


 不思議な化粧をした少年が乗っている。

 昔の結婚式のようだと思いながら見ていると、その下の山鉾を引く係に、見覚えのある人物を見
つけた。





「あれ?サスケ?」

「は?あ、本当だ。」





 イタチも弟の姿に不思議そうな顔をする。

 変わった着物を着て、不機嫌そうに綱を引っ張っているのはサスケに違いない。

 じっと二人で彼を見ていると、彼も気付いたらしく、もの凄い嫌そうな顔をして山鉾の綱から手
を離し、ばたばたとこちらに駆け上がってくる。





「何してるの?」





 思わずが決まり切ったことを尋ねると、怒った様子でサスケは腰に手を当てた。





「こっちの台詞だ。何してるんだ。兄貴と二人で。」

「なにって?」

「デートだが?」





 イタチがさも『おまえこそ何を聞いているんだ』という様子で尋ね返すと、サスケはますます憤
慨した様子だった。





「なんかすごい格好だね。何?お着物なの?」





 昔の直衣に近い着物に、は興味津々だ。


 の一族の宗家ではまだ結婚式の時に着るが、が生まれてから宗家で行われた結婚式はないた
め、は初めて見る。

 文様は鳩か何かの鳥を丸くかたどり、それを等間隔に並べている。

 文様が金糸でかたどられているため派手だが、黒髪黒い瞳のサスケには華やかでよく似合ってい
るようにも見えた。





「父さんに手伝いに出ろって言われたんだよ。」

「あぁ、なるほど。」

「え、イタチも着たことがあるの?」

「ないな。」





 イタチはサスケよりも遙かに要領が良い。

 うまく理由をつけて逃げていた。





「あ、わたし、お茶頼んでくるよ。」





 疲れた様子のサスケに気兼ねして、はとてとてと近くの店員に声をかけに行く。





「デートってなんでそんな優雅な生活してるんだよ。家出したくせに。」





 サスケは腕を組んでイタチを睨み付ける。

 イタチは1年ほど前に父フガクともめて担当上忍での父でもある斎のところに家出して、居候
となった。

 とはいえ、斎の家に厄介者としてではなく、円満に迎えられている。

 それがサスケからしてみれば気に入らない。


 未だにイタチが家出したことを根に持っているのだろう。

 イタチは弟のしつこさに呆れつつも、それを顔に出せばますます怒るだろうから息を吐いた。






「許嫁と仲良くして何が悪いんだ。」

「押しかけて勝手に許嫁になったみたいなもんだろ。」





 サスケは冷たく言い捨てる。


 サスケはのチャクラをイタチが肩代わりしたことを知らない。

 だから、イタチがの家に居座っているのが、斎の好意だと思い込んでいるし、許嫁になったの
も厚かましいとしか考えていない。



 対するイタチはそれをサスケに説明する気がない。


 わざわざ事細かにいきさつを説明するようなことではないし、元々イタチ自身してやったことを
見せびらかすのが嫌いな性分だ。

 それが兄弟の溝を徐々に広めていく。






「相変わらず細かいことにうるさい奴だな。早く手伝いに戻ればどうだ?」

「良いんだよ。どうせ人員は足りてるんだから。」





 サスケはどさりと腰を下ろす。





「お茶持ってきてくれるって、」





 はにこにこと笑いながら帰ってくる。






「さっきそこでヒナタに会ったよ。」

「日向の?」

「うん。ヒナタは妹のハナビちゃんとナルトと一緒に来てたの。」





 中忍試験後から、徐々に一族の者と打ち解けだしたヒナタは、珍しく妹とともに祭りに来ていた
らしい。





「あれ?なんでナルトくんなんだ?」






 ナルトは両親もなく、日向一族とも関係ない。

 当然ヒナタの兄妹ではない、ただのクラスメイトだっただけだ。


 なのに、何故一緒に居るのか、

 イタチが首を傾げると、は楽しそうに笑った。





「なんかね。ハナビちゃんがうまくナルトを誘ったらしいよ。」

「妹の手柄だな。」





 ふっと笑ってからイタチはちらりとサスケに冷たい目を向ける。





「それに比べてうちの弟は・・・・」

「なんだよその目。喧嘩売ってんのか?」

「被害妄想だな。何も言っていない。」

「くっそ!」





 いらいらしてきたのか、サスケは机を叩いて立ち上がり、足音も高く立ち去る。





「あれ、お茶飲まないの?」

「いらない。」





 冷たく言い捨てる。

 八つ当たりだが、サスケとしてはもうそんなこと心にない。





「・・・・大人げないな。」





 イタチがぼそりと呟く。





「うるさい!!」





 サスケは振り返ってイタチにくってかかる。

 対するイタチは涼しい顔だ。

 それがサスケの苛々をまた煽る。





「帰るっ!」





 不機嫌極めたサスケはくるりと踵返す。





「え、でもお茶。」

「・・・・・あ、う、・・・・おまえが飲めばいい。」

「えぇっ!二人分?」





 当然だが、はそんな水をとらない。

 驚いて声を上げたに、流石にばつが悪くなったのか、サスケが歩を止める。






「・・・・・」





 どうしよう、

 居心地の悪いサスケは、硬直する。


 しかし冷たくはねつけてを傷つけるのは、サスケとしても居たたまれない。





「あぁ、俺が飲んでおくから早く行け。」





 助け船を出したのは、結局イタチだった。

 





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