「おーはよー。」

「おっはよー。」





 が教室に入ると、サクラが笑う。

 は教室の中の3段目の机に座り、鞄の中の荷物を出した。


 筆箱に、教科書、弁当箱。

 お気に入りの赤いいちごの風呂敷に包まれた弁当箱に、見てみると手紙が挟まっている。





「おやぁ?」





 首を傾げて手紙を開く。

 小さなメモ用紙を2つ折りにしただけだが、そこには見覚えのある筆跡が並ぶ。





「緊張せず、無理せずがんばれよ、かぁ。」





 サクラが後ろからのぞき込んでそれを読み上げ、にやりと笑ってを抱きしめる。





「イタチさん?イタチさんでしょ?」





 は読み上げられた言葉に恥ずかしくて、顔を真っ赤にして俯いた。

 の母は一族の女宗主で、縫い物以外は家事さっぱりの人だ。

 父の斎は両親を早くに亡くし、一人暮らしが長かったため料理が出来ると聞いているが、実際の
父は超のつくぐぅたらで、いつも朝食ぎりぎりにしか起きてこない。

 挙げ句の果てに朝食の後任務がなければ惰眠をむさぼり、任務を忘れるという暴挙にでては、イ
タチにたたき起こされている。


 当然、料理を作るはずもない。


 そのため、家の家事は侍女達がまかなっているわけだが、の弁当を作るのはいつもイタチだ。

 アカデミーに行くようになってから、夜中に任務がない限りは毎日彼がお弁当を作ってくれる。

 だからきっと、メモを入れたのもイタチだ。






「いいわねーーー。イタチさんも来るの?」

「来る・・・、って言ってたけど。」





 が恥ずかしくてもじもじしているから、サクラはかわいさ余ってますますを抱きしめる力を
強めた。






「可愛いわぁ。」





 なんだかんだ言っても、はイタチにぞっこんである。

 アカデミー生の中では最上級学年とはいえ、まだ11,2才のお子様だ。


 恋愛に興味も出てくる頃だが、特定の相手などいるはずはない。

 だからこそ、特定の相手のいるは良い話題提供者であり、興味の対象だった。





「今日はのとこは他に誰が来るの?」

「うちは父上様と母上様とイタチ、サクラのところは?」

「うち?うちは仕事。残念ながらね。でもサスケくんのお兄さん来るんだね。」

「うん。父上様止めに来るんだ。」

「止めに?」





 サクラはよくわからず首を傾げたが、にとっては当然のことらしく答えを返そうとはしなかっ
た。





「なんだ、兄貴が来るのか?」





 一段上の席にいたサスケが嫌そうな顔をする。





「うん。父上様止めに。」

「はぁ?斎さん止める?」





 サスケもやはり意味がよくわからず、複雑な顔をする。





「サスケくんとこは誰か来るの?」

「あー。父さんと母さんがくるって言ってたが、なにぶん忙しいからな。」

「サスケくんとこは両親共に上忍だもんね。」

「まぁ・・・それをいやぁ、のとこもふたりとも上忍だろ。何でこれるんだよ。」





 上忍と言えば、エリートである。

 サスケの両親は確かに手練れだったが、の両親はそれを上回る天才で、二人とも里の上役でも
あった。

 そんな二人が参観日に二人揃って来るという方がおかしい。





「うーん。火影様脅したらしいよ。」

「誰が、」

「母上様が。」





 は人差し指を唇に当てる。

 イタチがそれはそれは凄かったと話していたのを思い出す。







「母上様と父上様が脅すとみんなが黙るとか・・・?」

「・・・・・ってか仕事してもらえないとみんな困るってことだろ。」





 背に腹は代えられない。

 ましての父、斎は予言者として有名で、予言がないと困るところがたくさんあるのだ。

 他国に知り合いも多く、顔も広い。


 もし彼が頷けば、火影にもなったと言われるほどだ。

 とはいえ、本人は典型的な遅刻魔で、家では寝転んでだらだらしている。


 そんな父の姿しか見たことのないにとっては、斎に一目置く他人の方が変に見えた。

 母はまだたまに黒いので理解できるが。





「ところでさ、おまえ、今日の演習の班分けだけど、俺とくまね?」





 サスケが唐突に言うから、は目を丸くした。





「なんで?」

「だってサクラはいのと他の女子二人と組むんだろ?だったらおまえあまりじゃん。」





 今日の演習は基本4人班と決まっている。

 サクラは先日他の子と組む約束をしていた。





「そうだよ?でもナルトと約束してるんだ。一緒だけど良い?」

「何でナルト?」

「だって、ナルト組むと気楽なんだもん。」





 ナルトは晩年どべだ。

 も体力がないので、技術があっても駄目なことが多い。

 できないナルトと組むことは、怒られても二人一緒であり、良くも悪くも気が楽だった。





「あぁ、人数が半端なんだよな。このクラス。」





 イルカがサスケとの話に口を差し挟む。

 授業を始めるために教室に入ってきた彼は、困ったように腕を組む。

 4人ずつ分けていくと、結果的に3人残る。





「だから、とサスケ、ナルトの三人で組めば良いだろう。サスケ強いし、」

「は?」




 サスケは嫌そうに顔をしかめたが、イルカは後ろでシカマルと喋っていたナルトに声を張り上げ
る。





「ナルト−、とサスケと同班なーおまえ。」

「はぁ?まじで?サスケとぉ?」

「そうだー。人数が半端でな。おまえ強いから3人組にしようと思う。」





 ナルトもサスケと同じように嫌な顔をしたがイルカの言葉に乗せられて、渋々頷くと、の隣に
座った。





「まぁー、となら仕方ねぇってばよ。」

「それはこっちの台詞だ。を一人にしとくのは怖いからな。」

「なんだと!?」

「やんのか!?」





 ナルトとサスケがもめ出すのに困った顔をして、イルカはを見る。

 はふたりの様子に首を傾げたが、不思議そうな顔をしただけだった。

 イルカは達の話がまとまったのを確認して、教壇に立つ。






「今日は5時間目から参観だからなー。気合い入れろよ。そして班、3人だが期待してるぞ−。」

「期待してってばよー。」





 ナルトが拳を振り上げて叫ぶ。





「単純な奴だな。」





 サスケは呆れた顔をするが、は顔色が真っ青だった。





「え、三人、どうしよう・・・・・」





 胸元に手を当てて俯いて肩を震わせる。

 サスケはあまりのの表情にぎょっとした顔をした。





「おい、別に3人とはいえ、俺が居るから大丈夫だぞ。」

「だって・・・・わたし、無理かも、あの、だって。」

「落ち着け落ち着け、」

「おちつけって言われても。うぅ、緊張する。」





 初めての参観日。

 の緊張はすでに精一杯だ。





「大丈夫だってばよー。失敗するなら俺も一緒だって。」





 ナルトが見当違いのフォローをするが、一緒と聞けば安心するらしいは少しだけほっとした顔
をして頷く。






「失敗してもらったら俺の成績に関わるんだが、」

「ふぇ、そっか・・・・・頑張る。」





 サスケが呆れて言うと、は俯いてまた蒼い顔をする。





「ちょっ、サスケ!俺がせっかくどうにかしたのに、いらないことするなってばよ!!」

「はぁ?本当の話だろ。それに別にが足を引っ張るなんて言ってない!」

「じゃあ俺が足引っ張るとでもいってんのかよ!!」

「おまえ以外に引っ張る奴がいると思ってんのかよ!!」

「どうしようどうしよう。」





 喧嘩する二人と、不安がる





「おまえらー、ちょっと仲良くしろよ。」




 まだ演習も何も行っていないが、イルカはすでに班分けを間違った気がした。

 






不安の班分け
( すべてを知りながら 見守る 優しい人 )