「ねーねー、イタチ。参観日ってちゃんとした服着ていった方が良いのかなぁ。」






 斎は唐櫃からばさばさと服を放り出して、まともな服を探す。

 その後ろからイタチは仕方なく放り出された服をたたんでいき、横に並べる。

 イタチは几帳面だが、基本的に他人に几帳面さを求めない。


 自分でやってしまう。

 だから喧嘩にならないわけだが、ぐうたらの師にはいい加減切れかかっていた。





「別に服なんて普段着で良いですよ。パーティーに行くわけでもあるまいし。」

「えー、じゃあクマさんパーカーでも良いかな。」





 斎はフードに可愛い丸い耳のついたパーカーを出してくる。

 可愛いが、後からが笑いものにされそうで可哀想だ。





「・・・・なんでそうまともじゃない方面に走るんですか。」





 イタチは呆れて息を吐く。





「この青い服なんてどうですか。普通ですよ。」

「うーん、でもあんまりこの服って気に入ってないんだよね。青一色で。」

「いや、クマさんパーカーよりはまともだと思いますよ。」

「そう?」






 イタチとしては至極まっとうな意見を言ったつもりだったが、斎は首を傾げていた。






「そんなはしゃぐもんじゃないでしょ。参観日なんて、」






 親が来て、授業を見て帰るだけ。

 夕飯の話題くらいには上るかもしれないが、それ以外何もない。


 ありきたりなアカデミーの行事だ。

 両親が来てくれたような気もするが、イタチは飛び級しているのでなおさらありきたりな参観日
の記憶はない。

 それを聞いた斎はにこっと子供のような笑顔を浮かべた。






「だって参観日って初めてなんだもん。」







 体が弱くて外に出られなかった

 そのが外に出られて、アカデミーに通えるようになって、親として参観日に行ける日が来るな
んて、斎にとっては小躍りしそうなくらい嬉しいことだ。







の勇姿が見られるなんて、嬉しくてたまらないよ。」

「・・・・」

「まぁ、それもこれもイタチがのチャクラを肩代わりしてくれたおかげなんだけどね。」






 頭を傾けて笑って、斎はイタチの頭を撫でる。

 面と向かって言われて、イタチは恥ずかしくなって俯いた。






「そんな大したことしてませんよ。それに俺の使えるチャクラだって増えたわけだし。の能力ま
で使えるようになったし。」






 のチャクラを肩代わりしたことは、イタチにとって大きな力を与えた。

 元々それがなくても天才と言われ、その才覚は飛び級してなお首席で卒業できるほどで、実は暗
部時代に色々あって秘密で万華鏡写輪眼も持っている。

 でも、のチャクラを肩代わりしたことによって、イタチは莫大なチャクラと、数万℃もの炎を
操る力を手に入れた。


 忍として強さを、手に入れたわけだ。

 向かうところ敵なし、とまではいかないが、今なら火影候補者の斎とも過信ではなく対等に争え
ると思う。






「でもさ、封印術が失敗してたらもしかしたら死ぬかもしれなかったわけだしね。」

「例えそうだったとしても、と一緒なら本望だと、思ったから。」






 チャクラを肩代わりしなければ、が死んでしまう。

 封印術で死ぬことがあっても、が一緒だ。 

 何もせずのうのうと一人で生きるよりも、一蓮托生の方が潔い。


 斎は本当に幸せそうに笑って、目を細めた。






「そっか、僕は本当に良い弟子を持った物だよ。毎日朝起こしてくれるしね。」

「しっかり自分で起きてくださいよ。そもそも二度寝さえしなければいいのに。」

「いや、あれはもう僕の生活習慣のような物だよ。イタチ。」

「そんなさも当然のように言わないでくれますか。」






 子供のような言い訳を並べる斎に呆れながらも、イタチはいつも仕方ないなと思ってしまう。

 怒りながらも本当に心から見捨てられない。


 きっとそれは、斎もだろう。

 生意気な弟子であると思う。自覚もある。

 でも、いつも温かい目で見守ってくれる。


 背中を押してくれる。



 イタチはそんな斎と反目したり、喧嘩したりしつつも、結局うまくいっているような気がしてい
た。

 自分の独りよがりでは、ないと思う。






「うーん。上着はイタチの言うやつを採用して・・・、ズボンは?」

「この黒で良いじゃないですか?」

「えー、暗くない?」

「じゃ、白で。」






 綺麗にたたんだ白のズボンを渡す。

 上が青で下が白。

 イタチが着れば微妙だが、斎は色が薄いし、髪の色が紺色なのでそれなりに似合うだろう。


 元々童顔だが、背がすらりと高い斎だ。

 だいたい適当には似合う。

 そう考えて、童顔なのでくまパーカーもきっと驚くほど似合うんだろうなと想像してしまう。

 昔パンダの着ぐるみパジャマを着ていて、カカシと一緒に大人の男が何でこんなに似合うんだと
驚いたことがある。


 イタチの父ならただの笑いものだが斎なら良いかもしれない。






「あと20分ほどで出かけますよ−。」






 用意がすでにすんだ蒼雪が庇から部屋に入ってくる。


 蒼雪は青地に綺麗な刺繍の入った裾の長い着物を着ており、年相応に落ち着いた服装だ。






「あら斎、まだ服を選んでましたの?」

「うーん。だってくまパーカーが捨てがたくて。」

「あぁもう。くまパーカーでもパンダパジャマでも別によろしいから、遅刻だけはよしてください
な。」






 流石蒼雪である。

 てきぱきと斎が散らかし、イタチが畳んだ服を唐櫃にしまっていく。






「じゃあ、くまパーカーで白いズボンにしよ。」






 結局くまパーカーが捨てられなかったらしい。


 斎は服を脱いで着替える。

 実際彼が着てみると、茶色のくまパーカーは驚くほどよく似合ったし、白いズボンと相まって子
供番組のお兄さんのようだった。






「似合う−?」






 これ以上ないほどに。

 斎の質問がばからしくて、イタチは答えなかった。







「はいはい。用意ができたら参りましょうね。」








 蒼雪は慣れているらしく、華麗にスルーしてイタチに微笑む。







「楽しみだねぇ。の参観日。」

「そうですわね。・・・・あまり気に病まないと良いけれど。」

「本当にね。僕と顔そっくりなのに、どうして気楽な性格にならなかったのかなぁ。」

「遺伝子ってうまくできてるんですね。雪さん。」

「そうですわね。」

「ちょっと二人とも酷くない?」






 斎は子供のようにほおを膨らましてぶーぶー反論する。

 そんな彼を完全に放置し、蒼雪とイタチは歩を進めた。










参観日の服装について