演習内容は、比較的簡単だった。

 どういう方法でも良いから、ひとまず相手の持っている鈴を取り上げること。


 鈴は外から見てわかるところにつけること。

 鈴を取られた人間は失格。


 班員は4人、ないしは3人。

 試合はトーナメント制で行い、順番に勝ち上がっていく。




「良いかー、ルールはもう一度確認しろよ。」





 5限に参観を控えた4限の時間、クラス担当のイルカは何度も生徒にルールを確認させる。

 幸いにも相手の鈴を取ればいいと言うのはわかりやすい。

 は難しい演習でないことに安堵しながら、自分たちが3人班であることにはもの凄い不安を覚
えていた。


 渡された小さな鈴はちりちりとなる。

 可愛らしい音と対称的に、取られた生徒の末路は失格。

 成績が悪くなるかもと思うと、不安だ。




「手裏剣やらなんやらは全部、使用可能だ。うまく使えよ。」





 イルカがクナイと手裏剣を見せる。

 起爆符などもありのようだ。

 はふっと息を吐いて、サスケとナルトを見る。






「足引っ張んじゃねぇぞ!」

「おまえこそ!俺の足ひっぱんなってばよ!!」

「あぁ?!学年どべのおまえ言うか?」

「はっ、言うね。何度だって言ってやる。サスケのばーかー。」

「てめ!」

「おーおー、が困ってるからその辺にしておけよ。」





 真ん中で居たたまれずおどおどするの様子に目尻を下げて、イルカが注意する。

 すると、はっと二人とも今気付いたという顔をして、を見やる。





「あ、えっと、が足手まといって訳じゃないからな。ナルトが馬鹿なこと言うから。」

「俺じゃねぇ。サスケから言ってきたんだろ。は大丈夫だって。」

「そうだ、は心配しなくて良いから。」





 台詞がすべて、への弁解に変わる。


 ふたりの変わりようにはきょとんとしたが、思わず笑ってしまった。

 ふたりとも相手のことは悪く言うが、に対して怒っていたり、敵意があるわけではない。

 仲は良くないが、それでもこの感じならが泣き出せば協力してくれるかもしれない。





「がんばろうねっ、」






 右手にサスケの手、左手にナルトの手を持って、はにっこりと笑う。

 二人は互いに協力するのはいやだったが、に言われれば頷くしかなかった。





「案外うまくいきそうかな?」





 イルカは少しほっとしたように呟く。






「班分けを紙に書いて提出してくれ、これがないと成績がでないからな。一応班長も決めておくん
だぞ。」





 ひらひらとした薄い紙を一枚ずつ班に渡していく。

 普通は4人枠のところだが、達は3人だ。






「誰が、班長になるの?」






 はおずおずと尋ねるが、すでにナルトとサスケの間には火花が散っていて、割って入れる状況
ではない。

 争いごとは、苦手だ。

 は心からそう思って俯いていると、イルカが困った顔でやってきた。





「ナルト、サスケ、まったくおまえらは。が困ってるだろう。」





 二人の頭を軽く小突く。





「だってだってイルカ先生っ!こいつむかつくんだもん!!」

「おまえがくってかかって来るからだろ!!」





 ナルトとサスケが反論に出る。

 だが、イルカは深く大きなため息をついて、二人の反論を聞き入れなかった。





「いいか?おまえらが喧嘩をすると、困るのは誰だ?険悪な雰囲気の中、はどうして良いかわか
らないだろ。」

「・・・・・そりゃ」

「そうだってばよ・・・・・」





 を振り返れば、は所在なさげに班分け用紙を持って、俯いている。





「と、いうことで、班長は一番もめないで。」

「え?」

「まじ?」






 サスケやナルトは予想外の事態に慌てたが、一番戸惑ったのはだった。

 慌てて顔を上げてイルカを見上げる。






「え、先生無理だよ。無理、」

「大丈夫だ。は術に関してはこの学年で一番秀でてる。体術はサスケがうまいわけだし、どうに
かなるだろう。」






 は病弱であったため体力こそないが、忍術に関しては上忍である両親の影響もあり、かなり詳
しく幅広い分野を扱える。

 天才と言われた父譲りか、こつのつかみ方もうまい。

 自分に自信がないため優柔不断な面もあるが、他者の意見に寛容だ。

 アカデミーの班の演習如きで、切羽詰まった決断力を問われることもない。






「良いか、大切なのはチームワークだ。はまだ半年しかアカデミーにいないんだぞ。の足りな
いところはサスケとナルトが支えなくてどうするんだ。喧嘩してる場合じゃないだろ。」





 イルカは静かにふたりを諫める。





「・・・・・ごめんてっばよ。。」





 大好きなイルカに諫められて、ナルトはしょんぼりしてに謝る。

 サスケも流石に悪いと思い、ばつの悪そうな顔をする。





「う、うぅん。だって、わたしももうちょっとしっかり、しないと。うん。」





 は手と首を振って大丈夫だと言うことを示す。





「き、緊張してる、だけなのっ。」





 いつも以上におどおどしているのも、不安になるのも、初めての参観日だから、緊張しているだ
け。

 ナルトはそのことに気付いたのか、はっと顔を上げる。





、親父さんとお袋さんくんの?」

「う、うん。イタチも来るって、」

「そっかー。斎さんがくんのかー。」






 ナルトはそっくりの顔の斎を思い出す。


 の父親でもある斎は、ナルトの後見人だ。

 何がどうなってナルトの後見人となったのかはよく知らないが、幼い頃は心配してよく屋敷に呼
んでくれたり、食事を作りに来てくれたりと世話を焼いてくれた。

 金銭的な援助の他に、たまに修行なども見てくれたりもしている。



 だから、その当時斎に師事していたサスケの兄イタチとは、実は結構仲が良かったりする。

 は部屋に閉じこもっていたため知らないだろうが、実はイタチにあやされるを彼女がアカデ
ミーに通う前に何度か見かけたこともある。

 話しかける機会にこそ恵まれなかったが、可愛い子がいるとは知っていた。

 斎とイタチはナルトにとってなじみの存在だ。





「斎さんもイタチの兄ちゃんも優しいもんな。この間も火遁教えてくれてさ。」

「え、どこで会ったの?」

「第21演習場。風遁見せてもらったんだ。すっげかったてばよ。」






 まだ幼くて大きな術を扱うことは出来ないから、大人の使う大きな忍術はあこがれの対象だ。


 まして斎もイタチも里有数の手練れである。

 自分自身が例え術を使えなくても、見ているだけで楽しい。


 だが、サスケにとってイタチに話題は不快だったようだ。




「井戸端会議ならよそでやれ。」





 サスケは楽しそうに話す二人に冷たく言い捨てる。





「サスケ!!そう言い方ってないってばよ!!」

「今授業中だろうが、おまえらの会話の方が、問題じゃないのか?」





 ポケットに手を突っ込んで、鋭く返す。

 は目尻を下げて教壇に戻ったイルカを振り返る。





「あー。・・・・ひとまず三人とも座れ。しっかりしてくれよ。」





 懇願のようなイルカの言葉に、まだ言い足りないらしいサスケは渋々座る。

 は張り詰めた空気の中、泣きそうになりながら着席した。














前途多難