参観は第32演習場で行われる。

 アカデミーの演習なので第32演習場には全くといって良いほど危険はない。

 所々に木が生えており、遮蔽物もあって隠れられるという程度だ。

 参観日と言うこともあって、早くから保護者がそこに集まっていた。





「わぁ、すごい人の数だね。」





 斎は茶色のくまパーカーをかぶり、パーカーのポケットに手を突っ込んで顔の割に大きな紺色の
瞳をぱちくりさせる。

 大の大人で背は180?p以上あるのに、どうしてこんなに似合うんだろうと横目で見ながら、イタ
チはふっと息を吐いた。





「ま、アカデミー最後の参観日ですからね。やっぱり子供の勇姿を見ようっていう親が多いんでし
ょう。」





 来年、達は卒業して下忍として働くことになる。

 そうすればもう忍として命のやりとりをするわけで、子供の活躍なんて言ってられない。


 忍の子供時代は、短いのだ。

 見れば優秀な人間を探しに来ているのか、3代目火影の姿まであった。






「あら、先日ぶりですわね。」





 蒼雪が火影ににこやかな挨拶をする。

 すると火影は皺だらけの顔を引きつらせた。


 当然である。








『私達、娘の参観日に出席したいんですの。』





 蒼雪がそう言いだしたのは一週間ほど前だ。

 斎と共に火影の執務室を訪れた蒼雪は、さも当たり前のようにそう言った。


 斎と同じ任務であったイタチもその場にいたので知っている。

 火影の顔は、嫌な予感にゆがんでいた。





『ですから、参観日の日をお休みにしていただきたいんです。』

『いや、すでに任務は入っておる。二人ともに休んでもらってはこちらとしても・・・』

『あら、アカデミー最後の参観日でしてよ?初めて宮の勇姿が見られるのに行くな、なんておっし
ゃいませんわよね。』






 蒼雪は火影に詰め寄る。

 表情はあくまでにこやかだが、なんだか後ろに背負っているオーラが違う。

 黒い。何か黒くて青くて大きな物を背後に背負っている。





『まぁ、休みにしてくださらないなら、その代わりに私たち、ちょっと一ヶ月ほど諸国周遊にでも
参りますわ。』

『はぁ?』

『参観日にも出てあげられぬ両親を持って、あの子があまりに不憫ですもの。最後の思い出作りに
それくらいね。あ、イタチさんも連れて行きますわよ。』





 要するに、一日許可するか、一ヶ月エスケープさせるか、決めろと言うのだ。

 火影候補に挙げられる斎と、同じ実力を持つ蒼雪を揃って二人とも止められる人間など、木の葉
の中には居ない。

 どちらを選ぶかなんて、一目瞭然。

 最初から選択肢なんて、用意されていない。


 火影は結局渋々頷いた。






 その余韻が残っているのだろう、火影は複雑な顔で蒼雪を見ていた。

 対する蒼雪は素知らぬふりで笑っている。





「娘の、参観日のぅ。」






 そう呟いて、斎の姿を見る。






「おまえ、なんという格好で・・・・。」







 くまの耳付き茶色のパーカーをかぶった斎に呆れた目を向ける。

 普通なら不似合いのはずなのに、童顔と恐ろしく釣り合いがとれていていっそ清々しい。






「えへ、似合うでしょ?」

「似合うというか、本当におまえ父親か?」






 火影はそう悪態をついて、けれど無駄なことを理解していた。

 斎は、極めて変だ。

 昔から天才と言われながらも今風少年で、あげく自分の思うとおりにしか動かない。


 悪気がないのもある意味最悪だった。

 ひとまず似合っているので良いかと片をつける。





「うちはの倅も一緒か。斎をたたき起こしてくれて、毎回助かっておる。」

「いえ、もったいないお言葉です。それに・・・・・誰も遠慮して先生をたたき起こさないので、仕方
ないです。」





 火影のねぎらいの言葉に、イタチはまっとうな意見を返す。

 斎は昔から予言の力によって里から重宝されている上、九尾事件でなくなった4代目火影の弟弟
子であり、懐刀としてその実力を広く認められていた。

 一部では若干神格化されており、そんな人間を足蹴にするなんてできないと、大方暗部や上忍達
は、斎が屋敷で寝ており、起こしに来てもどうすればいいのかわからないのだ。


 そんな時、イタチの出番である。

 イタチは神格化された斎なんて知らないし、日頃のぐうたらぶりを余すところなく見ているので
遠慮などありはしない。

 文字通りたたき起こすことが出来るわけだ。


 だからこそ、暗部に入った今でさえ、斎とともに任務に出されることが多かった。

 丁の良い面倒見がかり。





「イタチはしっかりしてるもんねー。」

「おまえがもちょっとしっかりせい!」




 気楽な斎の言葉に思わず火影は彼の後頭部を杖で殴りつけた。





「まったく、いつまでたっても子供なのですから。」





 蒼雪は頬に手を当てて息を吐いた。





「痛いなぁ。もうおじいちゃんなんだから、暴れたら早死にするよ?」

「そう思うなら、とっとと火影変わってくれ。おまえなら出来る。」

「えー、無理。無理僕には出来ない。そういう過度な期待が若者を自殺に追い込むんですよ。」




 殴られた頭を痛そうに撫でながら、珍しく斎ははっきりと断言した。

 4代目火影が死んでからと言うもの、斎は長らく火影候補者にあげられている。


 なのに、いっこうに頷くことがない。


 その柔らかな態度の奥にある確固たる意志は、斎の師である自来也に通じる。

 自来也もまた、火影になろうとはしなかった。

 火影は今日何度目かのため息をついて、あたりを見回す。

 生徒の保護者が集まってきており、その中にはイタチの両親であるうちはフガクとミコトの姿も
あった。

 イタチが嫌そうな顔で斎の影に隠れる。





「・・・・・・・」

「あー、お久しぶりです。」





 フガクは斎の姿に硬直し、言葉を失ったが、斎はまったく気にせず挨拶をする。

 隣でミコトが口元に手を当てて目を丸くしている。





「やっぱりその服、変ですよ。先生。」





 イタチがぼそりと呟く。





「え、可愛いのに。」





 斎は唇をとがらして子供のように反論したが、そう言う問題ではない。

 フガクはやっとショックから立ち直ったのか、火影に挨拶し、イタチを黙殺して斎の隣に立つ。

 子供達がざわざわと出てくる。


 4人班のようで、それぞれ組まされている。

 最初の方の列にもサスケもナルトも見えなくて斎が首を傾げていると、最後の列で3人で出て
きた。





「あら、3人ですわね。」





 イタチの隣にいた蒼雪が首を傾げる。





「多分人数的に端数だったんでしょう。」





 半端な時、主席を入れて人数を減らすと言うことはアカデミーではよくあることだ。


 サスケは学年の主席だ。


 イタチも主席であったため、よく班員を削られた。

 とはいえ、蒼雪はアカデミーに通うことなく、6才であの3忍の一人である綱手に師事していたと
言うから、アカデミーの常識など知らない。

 へぇと半分興味がなさそうに頷いた。


 それよりも、三人の態度の方が変だ。





「でも、なんだか。アイスダスト飛びそうな空気ですね。」

「そうだねー、なんでだろう。」





 イタチと斎はこそこそと話す。

 手前からサスケ、、ナルトと横に一列に並んでいるのだが、サスケとナルトの空気が以上に冷
たく、は完全に俯いてしまって小柄なこともあり、ますます小さく見える。





「・・・・・・、喧嘩でもしているのか?」





 フガクも空気の差に気付いて、訝しむ。





「案外くだらない理由じゃないんですの?」





 蒼雪が肩をすくめて苦笑する。

 まさにその通りだったが、保護者一同は知るよしもなかった。







何やってんのおまえら