微妙な雰囲気のまま演習場に入ると、たくさんの保護者が並んでいる。

 は顔を上げて両親とイタチを探す。

 すると保護者集団の前の方に左からミコト、フガク、斎、イタチ、蒼雪で並んでいた。


 父と目が合うと、にこりと笑って手を振られる。

 斎の気楽な笑顔に少し勇気づけられたが、隣のサスケとナルトを見ると気分が沈んだ。




「保護者の方、今日は来てくださってありがとうございます。」





 イルカが保護者の方に頭を下げて、それに伴って子供達も頭を下げる。






「本日は演習として、トーナメント方式で試合を行います。子供達の勇姿、課題点も見つかると思
いますので、よろしくお願いします。」





 言葉が終わると、拍手と声援が保護者からわき上がる。

 はおどおどしながら、また俯いてしまう。

 初めての参観日と言うことで不安もある、


 だが、それ以上にこの二人の空気の方がいやだった。

 遠く心配そうに見ているイタチの方を見ると、泣きそうになる。

 もう嫌だと泣きたかったけれど、はその衝動を奥歯を噛んで耐えた。


 トーナメントを見ると皆が4人なのに自分たちが3人班であることでの配慮か、一試合少なくなっ
ていたため、出番は後からだ。

 そのことにはほっとする。





、ごめんな。なんか、」





 ナルトがこそっとに耳打ちして、謝罪する。

 彼には自分とサスケの緊張感にを引きずり込んだ自覚があるらしい。




「俺、精一杯がんばるからさ、大丈夫だってばよ。な、」





 ナルトは調子に乗ることもあるけれど、人を大切に思うことを知っている。

 が不安に思っていることは、先ほどの様子からも理解できているから、別の負荷をかけている
こと心から申し訳なく思っている。





班、前へ出ろ−。」




 順番が来たのか、イルカが達を呼ぶ。

 帯に挟んだ鈴がちりりと鳴る。





「大丈夫だってばよ。」





 ナルトはの手を取る。

 彼の成績はどべだし、本当ならぜんぜん頼れないはずだが、何故か精神的に頼りがいがある。

 は不思議だと思いながらも、心が落ち着くのを感じた。




「うんっ、」





 ぎゅっとナルトの手を握り返す。

 前に出ると、対戦相手は意外なことにキバとシノ、シカマル、そしてチョウジだった。





「今回は勝たせてもらうぜ。」





 キバが肩に乗っている犬の赤丸の頭を撫でる。

 は堅い面持ちで顔を上げて、不安そうに隣の二人を見る。


 相変わらず反目しあっているのか、ナルトとサスケはそっぽをむく。

 困ったな、 

 班長でありながらどうすればよいかわからず、ひとまず前に出る。





ー、頑張れ−」





 後ろから間の抜けた父の声が聞こえる。

 ぶんぶんと手を振るからなにやらもの凄く浮いているが、応援してくれている。

 ぎゅっと手を握ってガッツを入れて、顔を前に向けた。





「ルールは先に知らせてあるとおりだ。えっと、班長はそれぞれとシカマルだ。お互いに全力を
尽くすように。」




 イルカがそれぞれ相手チームと握手するように促す。




「はっ、ナルトなんて楽勝だぜ。」

「黙れってばよ!」





 キバとナルトが二人で火花を散らしている。

 サスケは冷たい視線をシノ達に、そしてナルトにまで向ける。

 複雑な雰囲気に、ため息しか出ない。





「面倒くせぇけど、ま、適当に頑張ろうぜ。」

「・・・・うん。」





 シカマルはの様子も察して、握手を求める。

 も父に似た気楽な言い方に少し安堵したが、なんせ敵である。

 ひとまず気を引き締めた。





「えっと、シカマルとシノはどんな力を持っているかわからないから慎重に、キバとチョウジは早
めに倒してしまえば・・・・」

「別に俺一人でどうにか出来る。」




 サスケは苛々した様子で冷たくに言い捨てる。




「おい、が困るだろっ、」

「別に俺一人で全員倒せば問題ない。」





 ナルトがを思って反論に出るがサスケは受け付けない。

 はどうしたらいいかわからず、ひとまずイルカが合図するのを待つ。


 イルカが手を振り下ろすのと同時に、走ってきたのはキバだった。

 とナルトは様子見のために後ろに退き、林の中に隠れる。

 しかし、サスケは隠れることなくキバを迎え撃った。





「甘いな。」





 キバの背後を取り、後ろに蹴り飛ばす。

 キバは木の方に吹っ飛ばされたが、にやりと笑った。


 次はチョウジが丸くボールのようになって転がってくる。

 速度が速く、チョウジは重いので、止めるのは不可能だ。

 そのため、サスケは上に飛ぶ。





「取った・・・・」





 木から飛んできたシノがサスケの鈴を取るべく、手を伸ばす。

 サスケは空中で躯をひねり、その手から逃れ、シノの腹を蹴った。

 だが、一人で4人を相手にすると言う傲慢が、サスケの反応速度を鈍らせた。


 キバが体勢を立て直し、サスケに飛びかかる。

 犬のような脚力であっというまにサスケの眼前に迫る。

 やばいとそれでも被害を最小限にとどめるために受け身を取ったサスケを救ったのは、ナルトだ
った。





「火遁、豪火球の術!!」





 ナルトが火を口から噴き出す。


 イタチから教わったその術はサスケからしてみれば小さい炎だったが、生身のキバを退けるには
十分だった。

 向こうではがシカマルの作る怪しい動きをする影に気付き、自分の操る炎で照らして影を消し
ていた。


「おまっ、手出しすんなって言ったはずだっ!!」





 サスケが叫ぶが、それどころではない。


 中途半端に体勢を立て直せていないサスケの背後に巨大な虫が現れる。

 シノの飼っているその虫は、人も食らえそうな大きな口をくわっと開いた。

 粘膜だらけで牙のならぶ口に、サスケとナルトは呆然とする。


 背後にはシノとキバ、チョウジが居る。

 動けない二人を助けたのは、だった。





「何でぼっとしてるの!!」





 高い声で男二人を怒鳴りつけて、チョウジの横っ面をはたいて道を作る。





「ひとまず退却!!」





 の言葉にナルトは持っていた煙玉を投げつける。

 白い煙はナルトだけでなく近くにいるサスケも、そしてをも包み込む。






「逃げられたぜ、」






 煙が晴れ、キバが人影の消えた地面をぼんやりと見つめる。





「ま、あの感じだったら、勝てるな。」







 シカマルは過信でもなく、面倒くさそうに肩を回す。

 サスケがもう少し手間取るかと思ったが、今の行動を見たらそうでもないだろう。


 むしろ、影の動きに気付き、予めシカマルとシノを警戒していたの方が、警戒すべきかもしれ
ない。







「それにしても、も苦労すんなぁ。」






 シカマルは小鳥が空を舞うのをぼんやりと見上げる。

 遠く鳥がぴぃと鳴いている。

 参観日など忘れて昼寝がしたくなった。














困った自己中