は俯いて透先眼に意識を集中させる。

 まだ千里眼の力を持つこの目を自由に開眼することが、には出来ない。



 だから集中しなければならない。


 キバが鼻を使って自分たちを捜している。

 彼の嗅覚は犬並だと言うから、おそらくすぐに見つかってしまう。

 今は木の陰に隠れているけれど、長居は禁物だ。





「何で手出しをしたっ!!」





 サスケがナルトに詰め寄る。





「なんでって俺たち同じ班だろ!?危なくなったら助けるじゃんっ!」

「お節介なんだよ!誰が頼んだんだ。」

「はぁ?本気でそんなこと言ってんのかよ!!」

「・・・・・静かにしてよぅ。」





 が口を差し挟むが、サスケはそんなこと全くといって良いほど聞いていない。





「好きで班なんかになったんじゃねぇよ!」

「こっちだって願い下げだってばよ!でもサスケがついてきたんだろっ!」

「俺はを誘っただけだ!おまえなんか誘ってない。」

「ねぇ、あのね、静かに・・・・。」

「じゃあ嫌だって言えば良かっただろ。」

「言ってたさ。でもイルカ先生が!!」

「・・・・・・、」

「イルカ先生がなんと言おうと、しっかり反論すれば聞いてくれたってばよ!!」

「俺はそもそもおまえらなんかと組むのは嫌だっていってただろ!だいたいっ、」





 ナルトの言葉に売り言葉に買い言葉でサスケはそっぽを向く。



 はじっと俯いて我慢していたが、いい加減我慢の限界だった。

 ずっと我慢していた。


 サスケが偉そうなことでチームワークを乱すのも、それに乗ってしまってナルトが喧嘩をするのも不安なのも我慢していた。

 なのに、こっちは真面目に演習のことを考えているのに、サスケはひとりで全てを片付けてしま
おうとする。

 現実に今だって負けそうだ。

 不安と緊張、ピークに達していたは自分が手を振り上げるのを止められなかった。




 ぱちん、

 可愛らしい程度の、けれど乾いた音がする。





「え、?」




 ナルトが驚いて名前を呼ぶ。

 は呼ばれて初めて自分がサスケを叩いたことに気付いた

 でも、止められない。




「どうして、どうしてそう言うこと言うのっ!」





 不安だった、冷たい雰囲気の中に飲まれていくのも、はじめての参観も。


 なのに、サスケは言うことを聞いてくれない。喧嘩ばかりで自分勝手に動いてしまう。


 だからといって自分を連れて行ってくれることもない。

 勝手なことばかり。

 で、結局とナルトはサスケのフォローに回らなくてはならなくなった。




「わたし、シノは危ないって言った、シカマルに気をつけなくちゃって言った。なのに、サスケ何
も聞いてくれない。」





 は零れてくる涙を拭いもせず、言いつのる。





「わたしたち元々不利なんだよっ、なのにサスケが足を引っ張ってどうするの!」





 あまりに予想外の事態に驚くサスケを、は怒鳴りつける。

 人に怒りをぶつけたことがないから、息が荒い。

 でも、もうどうしていいかわからなかったのだ。





「サスケなんて嫌い、ひっ、えぅ。」






 はぼろぼろと涙をこぼして、泣きじゃくる。

 小さな肩を震わせて、は泣く。

 そこでやっとサスケも、がいっぱいいっぱいだったことに気がついた。

 当然と言えば、当然だ。

 まだアカデミーに来るようになって半年しかたっておらず、演習も数えるほどしかしたことがな
い。


 その上今日はみんなが見に来る参観日で、自ずといつも以上に緊張してしまう。

 なのに自分はナルトと喧嘩ばかり。

 泣くまで不安を察してもやれず、自分勝手に動いた。

 の泣いたところを見るのは初めてで、サスケの方も混乱してしまって、どうして良いかわから
ない。


 女の子に泣かれるなんて経験したことがない。

 をよく知るイタチなら、をうまく慰められるのだろうか。

 自分には、を慰める方法が全然わからない。





「なぁ、サスケ。・・・ひとまずさ。休戦しての言うこと、聞こうぜ。が班長なんだし。」





 ナルトもサスケを宥めるようにそう言って、しょぼくれる。

 彼は喧嘩していてもちゃんとが不安がっていたことに気付いていたようだ。

 サスケは自分のふがいなさが嫌になる。

 自分のことしか考えられない。





「・・・ごめん。悪かった。」




 サスケは頭をフル回転して言葉を探して、結局、素直に謝ると言うことしか思いつかなかった。





「勝手なことして、ごめん。」





 許しを懇願するように告げると、は目を丸くして、顔を真っ青にしてぶんぶんと首を振った。

 涙が散る。





「わた、わたしも、叩いちゃった、ごめん、ごめんね。」





 痛くない?と慌てた様子でサスケの頬に手を伸ばす。

 それほど力のこもっている攻撃ではなかったので、痕も残っていない。

 シカマルが昔母親に頬を張られた時は綺麗な紅葉模様がついていたから、手加減したか、力がな
いかのどちらかだろう。

 ひとまず、赤くすらなっていない。






「大丈夫だ。別に痛い訳じゃない。」





 むしろ不安で心を痛めたのはだ。

 それに比べれば、すでに痛くないサスケの受けた打撃など、たかが知れている。





「なぁ、どうするってばよー。」 





 ナルトが頭の上で手を組んで、考える。





「俺ら三人じゃん。ひとりずつでもおまけ来るだろ?」

「そうだねぇ、でも・・・・さっきの攻撃で一つだけわかったことがあったよ。」



 がにこっと笑って人差し指をたてる。





「シカマルの影は、わたしの炎に弱いってことだよ。」

「・・・・影はあくまで普通の影。その範囲を伸ばして操ってるだけだから、影をすべて照らす炎には
弱いってことか。」





 サスケが冷静な分析を加える。

 要するにシカマルの天敵は、と言うことだ。

 あの能力がどう役に立つかは知らないが、おそらく敵の拘束のためだろう。





「シカマルは押さえておかないといけないな。」

「でしょ?あと、シノは怖いなぁ。虫さん、対処が難しそうだし。」





 基本姿勢でいくと念のためシノには必ず班員がひとり必要になる。





「サスケがシノの鈴を取る。ナルトはチョウジとキバとうまく戦いながら、最低鈴をとれなくても
、鈴を取られないようにする。わたしがシカマルの鈴をとって、ナルトの援護をする。でも・・・・先
に襲撃できるなら、チョウジとキバは先にいなした方が良いね。」




 どう?とは自分の案に対する評価をサスケとナルトに求める。

 こちらがの持つ透先眼による情報で先手を打てるなら、チョウジかキバの鈴を先に奪い、3人ず
つで戦った方が良い。


 達は3人グループなので、4人グループのうち2人の鈴を取れば勝利することが出来る。

 しかし相手は達の持つ3つの鈴のすべてを取らなければ勝利とされない。

 それは達の人数が少ないことへの配慮だった。




「一番、理想的だろうな。」




 サスケはの言葉を反芻しながら、頭にたたき込む。

 ナルトはよっしゃとガッツポーズをして、わかったのかわかっていないのか、ぶんぶんと手を振
り回す。

 は彼らの様子に少しだけほっとして、自分のチャクラを集中させた。




反撃開始