イタチをの正式な許嫁にするとの議案を出した途端、反対賛成ともに、様々な意見が出ること
となった。

 元々うちは一族との縁戚関係は取り決められたことだったが、あくまで口約束であり、正式な物
ではなかった。

 しかし、イタチが炎一族邸に家出をし、のチャクラを肩代わりしたことによって、いよいよ正
式な決定となってきたとあれば、古い一族である炎では大問題だった。



 そもそも現宗主蒼雪の婿の斎は蒼一族、要するに別の一族出身だ。

 そのため一族を重視するためにも、炎一族内から宗主の配偶者を選するべきだという意見はまだ
根強い。

 イタチがどれ程天才とされ、優秀な里の名家・うちは一族の出身でも、何百年と続いてきた炎一
族とは違う。

 反対派はなかなか根強かった。





「まぁ、結局決めるのはなんだけどさ。」





 斎は肩をすくめてあっさりと言う。

 もっともな意見だが、大方の人間はが気に入るという問題ではなく、一族外の婿を認めるか、
一族内で選定するか、という論点から移動していなかった。





「そうですね。」





 イタチはふっと息を吐いて、自分の膝に座ってご機嫌のを見下ろす。


 最近、はご機嫌だった。

 イタチにチャクラを肩代わりしてもらったおかげで体調を崩すこともなくなり、イタチが炎一族
邸に居候しているため、任務以外ずっと一緒に居る。

 にとってこれ以上に嬉しいことはなく、庭に出ては花を摘んだり魚を見たりしては、イタチを
待っていた。

 は疲れ気味のイタチを見上げて、途端表情を曇らせて心配そうな顔をする。





「だいじょうぶ?」

「あぁ、」





 イタチはの手前頷いてみるが、本当にそうだろうかと思う。



 一族とは難しいものだし、人々の心もある。

 イタチとしても認めてもらえるように努力していこうとは思うが、一族外だ、というのはどう頑
張っても仕方がない。

 と自分の血はつながっていない。

 それは、仕方のないことだ。





「僕としては大歓迎なのになぁ。」





 斎はんーと子供っぽく顎に手を当てる。

 斎も婿であり、言ってしまえば部外者だ。


 やはり娘のの婿に炎一族出身で、変に凝り固まった人間が来ると、斎としても大変動きにくく
なる。

 それを考えればイタチは斎の弟子だし、よく知っている。

 とも昔から仲が良く、ぼんやりしているの扱い方も知っているし、しっかりしていて、自分
としてもいろいろなことを任せやすい。

 一族が認めなかろうがなんだろうが、ひとまず父親としても個人としても斎はイタチを大歓迎だ
った。






「先生から、歓迎されても決まりませんからね・・・・、」

「大丈夫。」





 ふっと自嘲気味に笑うイタチの膝を叩いてが言う。





「大丈夫だよ。、イタチ大好き。」





 紺色の大きな瞳をくるくるさせて、言いつのる。

 その瞳からはイタチへの絶対的な信頼が伺える。





「あぁ。ありがとう。」





 イタチは少し目元を和ませて、の頭をそっと撫でる。


 この小さな手がある限り、イタチは自分の価値を信じられるし、強気でいることが出来る。

 はイタチをまだ不安そうな顔で見ていたが、その優しい手に躯を委ねた。






「問題は、母上がはっきりとした態度を示さないことですわ。」





 庇から入ってきた蒼雪がふっと息を吐く。






「母上?」





 蒼雪の口から飛び出した聞き慣れない言葉に、イタチは眉を寄せる。

 斎が顔を引きつらせて、近くにあったの大きなくまの人形を抱きしめてころりと転がった。





「・・・・あーいたねぇ。」

「いますわよ。超重鎮が。」





 蒼雪ももの凄い嫌そうな顔でため息をつく。






「母上って、雪さんのお母様ですか?」





 イタチは小首を傾げて尋ねる。

 そう言えば、蒼雪の父が炎一族の宗主だったという話は聞いたことがあったし、恋多き男性で側
室が山盛りいたという話は聞いていたが、あまり母親の話は聞いたことがなかった。





「風雪のおばあさま。」





 が答える。






「?」

「んー、よくわからない言葉で過激なひと−。」





 の形容は元々変なところがあるが、それを差し引いても何とも言い難い形容の仕方である。

 炎一族というのは炎を操るためか、性格は温かで、それでいて苛烈な人が多い。


 蒼雪がよい例だ。

 彼女は穏やかだし、非常に優しいが、嫌いな物には酷く苛烈な嫌悪の情を見せる。

 は父親と性格が似ているので温厚だが、大抵の炎一族の人間の性格はそんな感じだ。

 だから過激という形容も理解できなくはない。

 ただ、自分に降りかかってこないことを願う。





「・・・・・」

「あー、イタチ固まっちゃった。」





 斎がふざけ半分のように呟いて、ふっと息を吐く。





「別に悪い人じゃないんだよ。物わかりの悪い方でもない。ただ物をはっきり言う人なんだって、
僕は苦手だけど。」

「はっきりって言うか、遠慮がないんですわ。私も苦手ですわ。」





 ほぅっと蒼雪も頬に手を当てため息を一つ、

 自らの母親とはいえ、蒼雪も苦手なのだ。


 どんよりとした雰囲気が流れる。

 さて、どうするべきか。

 全員がそれぞれ考えていると、突然侍女が慌てた様子で入ってきた。





「あの・・・宗主様。」

「はい?」

「・・・・・来客が。」

「来客?」





 身に覚えのない話に、蒼雪は首を傾げたが、次の瞬間、目を見開いた。





「風雪御前です。」





 彼女が悪いわけではないのだが、侍女は酷く申し訳なさそうに頭を下げた。






波瀾の麗人