青白宮はのたくさんいる伯父や伯母の中でも一際蒼雪に似た雰囲気を持つ人だった。

 少し癖のあるさらりとした銀髪に、少し目尻のたれた優しげな双眸。

 穏やかな空気は、どこにいても、いつでも変わらない。





「そうだねぇ、俺が行った方がよさそうだね。」





 少し悩んだ後、青白宮はイタチとの申し出を柔らかに受け入れた。

 はきゃっきゃっと歓声を上げる。




 が躯を揺らす度に肩にかけた鞄の紐が揺れた。


 今からアカデミーの授業の見学に行く予定なのだ。

 体の弱いだが、イタチがチャクラを肩代わりして元気になったため、あと一年だけだがアカデ
ミーに通うことになった。


 初めての経験のため、慣れる必要があるだろうと、イルカ先生が迎えに来て、アカデミーの見学
に行ってくるらしい。

 不安そうだったが、そんなこと吹っ飛んだようだ。




「ありがとうっ、伯父上」

「いや、良いよ。とイタチくんの役に立てて嬉しいから。」





 本当に優しくに笑って、青白宮は頷いた。

 イタチは、彼がなかなかやり手の人物であることを知っているが、彼がその知略の反面非常に純
粋なことも知っている。


 妹である蒼雪と、姪であるのことを本当に思っている。

 役立てることを心から喜んでいる。

 そう言う人物であるからこそ、イタチも彼を信頼していた。





「それじゃあ10時くらいにおやつを持って一緒に行こうか。」

「あぁ、頼む。」





 イタチは頭を下げる。


 すると青白宮は慌てたように「良いよ、良いよ」と手を振ってたいしたことじゃないと笑った。

 気軽な様子が、イタチをほっとさせる。





「ほら、、早く行かないと遅刻しちゃうよ。」





 青白宮はをせかす。

 もうそろそろ8時だ。イルカは少し早めに迎えに来ると言っていた。





「いってきます!!」 





 は朗報に喜びながら、元気な声を上げて外へとかけていった。

 イタチの任務はこの一週間、ない。

 おそらく斎の意向で上層部が気にしてくれているのだろう。





「・・・・まぁ、ひとまず。俺はイタチを応援するから、大丈夫だよ。」





 心配そうな顔をしていた自覚はなかったが、青白宮はイタチを安心させるように笑った。


 自分でも考えていた以上に緊張していたのがわかる。

 イタチは握りしめていて汗ばんだ手を解いた。


 炎一族の身分は厳密に決められている。

 一番は宗主である蒼雪、二番目は婿である斎、三番目は東宮、そして四番目がこの青白宮だ。

 青白宮の支持があれば、なんとか炎一族でもやっていけるだろう。


 だが、全員が宮家と関わりがない。

 一生を炎一族でやっていくなら出来ることなら、宮家の支持は欲しかった。





「それにしても、風雪御前も素直じゃないなぁ。」






 ふふっと青白宮は笑って近くにあった薬草をすり鉢に入れ、潰していく。




 アカメガシワという、どこでもとれる薬草だ。


 煎じれば胃潰瘍の薬になるらしい。

 彼は腕の良い薬師で、彼の薬は木の葉の里からも直接依頼があるほど重宝されているし、街の薬
屋でも売られている。

 彼自身はこの屋敷からほとんどでないし、外の出来事に関わることもないが、仕事柄依頼主から
様々なことを聞くせいか、内外の情報に通じていた。

 病になれば心が弱まるものだ。


 そして、いろいろなことを話してしまうと言ったところだろう。

 彼は人の感情の機微を読み取るのが上手だし、その上、よく人を見ている。

 だから、彼が“素直じゃない”と表現するにはそれ相応の理由があるはずだった。





「どういうことだ?」





 イタチは彼の言った意味がよくわからず、首を傾げる。

 素直じゃない、というなら、彼女の真意はどこにあるのだろう。






「風雪御前は苦労された方だよ。その話は聞いた?」

から聞いてはいるが。」

「それじゃあ足りないんだ。」





 ごしごしとすりこぎで薬草を潰しながら、青白宮は話す。





「俺が彼女を見たのは、3歳の時かな。」





 側室であった母に連れられて、新年を祝うの宴に出た時だった。

 当時は蒼雪が生まれておらず、東宮は青白宮だった。

 側室同士はやはり様々なところで一緒になるし、それは青白宮も同じで、よく他の側室に遊んで
もらった。


 しかし正妻である風雪御前と面識はなかった。

 宴の席で宗主の隣に座り、ただ硬い表情をしている母よりまだ若い人。



 それが青白宮が最初に見た彼女のイメージだった。



 宗主に嫁いだ当時、風雪御前はまだ12歳になったばかりだったという。

 青白宮が生まれる1年前のことで、初めて見た彼女は16歳になっていた。

 美しい人だったが、いつも俯いていた。





「宗主とは12歳差、側室は山のよう。その中で幼い正妻がどうしようもなかっただろうね。」

「・・・・・宗主は、風雪御前のことを、愛してはいなかったのか?」

「さぁ、長く手を出さなかったらしいけど。寂しいだろ?」

「・・・・・」




 イタチも横にあったすり鉢に今度は阿仙薬という桃色の花が咲く草を入れて、潰していく。



 押しつぶされそうな孤独。



 一族の中で、自分が孤立しているという感覚。

 それを、イタチはよく知っている。

 彼女はこの広い屋敷の中で、何を思っただろう。





「風雪御前は、雪が思っているよりずっと良い方だよ。それに、一族に跡取りが必要なのは、当然
だしね。特に、炎は」





 炎一族は長らく、絶対的な力を持つ宗主が治めてきた。

 宗主の力というのは他の一族の者とは隔絶されるほどの才であり、それこそが一族を治める要と
なってきた。

 蒼雪が家に戻らなければ、一族は瓦解しただろう。

 彼女は簡単に家を捨てると叫んだが、それは幼さ、若さ故だ。


 現実的な話としてみたら、彼女の行動は許されない物だったはず。

 それを、許される物としたのは、間違いなく風雪御前だ。





「風雪御前は、斎さんが婿に来た時、俺に頭を下げに来たよ。」

「え?・・・・」

「だから雪が思っているよりずっと良い方だって言ってるだろ?」





 青白宮は、一時風雪御前の立場を危うくした。

 正妻の子供ではなかったが、記録の中に正妻の子供ではない白炎使いもいるし、宗主も居る。

 大方の場合、一世代に生まれる白炎使いは一人だ。


 側室の産んだ青白宮を見て、彼女はどれ程絶望しただろうか。

 後に風雪御前も蒼雪姫宮を産み、予言で代を紡ぐのは蒼雪と言われ、家を継ぐことになったが、
それまでの5年間、東宮は青白宮であり、風雪御前は形ばかりの正妻だった。

 その原因を作った青白宮を恨んで当然だろう。

 にもかかわらず、彼女は白炎使いであるが故に一族で発言権を持つ青白宮に頭を下げて、蒼雪の
婿である斎の支持をしてくれるように頼みに来た。





「雪もわかってると思うよ。・・・・でも、みんな素直じゃないから。イタチもゆっくり話してみると
良いよ。あの方は、イタチのことを認めてくださると思うよ。」





 まぁ、あくまで俺の意見だけど。

 青白宮はつぶし終わった薬草をわかした湯に放り込み、鍋をぐるぐるとお玉でかき混ぜる。

 途端に湯気と共にあがるもの凄い臭気にイタチは鼻をつまんで、窓を開けた。





「全員見方が違いすぎて、全然人物像が掴めないんだが・・・」

「そんなもんだよ。人間なんていろいろな面がある物さ。」





 そして、誰かの評価で他人を決めてしまうなど出来ない。

 ふっと笑って、青白宮はそう言った。


 ひとまず会えと言うことなんだろう。

 イタチは窓から新鮮な空気を入れながら、もの凄い色を放ち、ぶくぶくと泡立つ鍋を見つめた。

 



他者を介しし誤解