中途半端な長さの紺色の髪と、くるりとした大きな紺色の瞳。

 蒼一族の五つ咲きの華をかたどった家紋を服につけた少年は、自来也を不思議そうに見上げてい
た。



 武器を持っている自来也を怖がる様子はなく、むしろ好奇心をあらわにしていた。

 すでに透先眼を完全に使いこなし、チャクラを自在に操る。


 天才の名を冠するにまさに相応しい才能を持つ斎が母に連れられて自来也の元に来たのは、彼が
五歳の時だった。





 ―――――――――息子をよろしくお願いします。





 微笑んだ紺色の髪の斎の母親は心配そうな顔をしていたのを覚えている。

 蒼一族は予言の力を守るために、近親婚を重ねていた。


 そのため、斎の両親も兄妹であり、里の外れの森にある屋敷でひっそりと暮らしていた。

 要するに斎はほとんど外に出たことがなかったわけだ。

 修行とはいえ親にしてみれば自来也に子供を預けることは心配であったに違いない。


 だが、斎はそんなことこれっぽちも考えていなかったようだった。

 今のによく似た無邪気な笑顔を浮かべた彼は、好奇心に光る瞳そのままにがしりと長い自来也
の白髪を掴んだ。





 ―――――――――おじいちゃんみたいだね。




 にこりと笑って、五歳にしてはあまりにも流ちょうにまじまじと白い髪を見つめる。

 そして斎は足を踏ん張り、髪の毛を思いっきり両手で握りしめた。





 ―――――――――そぉれっ!!





 可愛らしいかけ声を出して、力一杯引っ張った。


 当然自来也は激痛でのたうち、毛根の危機を感じた。

 斎の母親はのんびりしたもので、あららと呟いて頬に手を当てる。

 斎は自来也の様子につまらなそうに自来也の髪の毛から手を離し、なぁんだと息を吐いた。




 ―――――――――かつらじゃないんだぁ。

 つまんないの。




 自来也から興味を失ったのか、好奇心は見てわかるほどになくなり、すたすたと痛みにもだえる
自来也を通り過ぎて、どこかへ行こうとする。

 興味がない物はどこまでもどうでも良い。

 彼はいつもそうで、術を練習しろと言っても、手裏剣の的当てをしろと言ってもちっともやって
くれない。

 それも超今風少年で、テレビゲームから漫画、服、恋愛、普通の少年が普通に興味を持つことへ
非常に熱心だった。

 二言目には『今テレビゲーム中』、漫画を読みながら『今忙しい。』

 本当に才能がなければ、自来也だっておさらばしたい弟子だった。


 面白いことはやるから、興味を持てる物であることを示さなければならない。

 だが、忍術なんて元来面白い物ではない。

 自来也自身が面白いことをしなければならなかった。 





「興味を持ってもらうためにレンジャーものの敵役の着ぐるみを着て、手裏剣の的になったり・・・本
当に苦労した。」






 自来也がほとほと疲れた表情でお茶を飲んで、またため息をつく。

 は一生懸命自来也の台詞を頭の中で想像しようと宙を睨んでいたが、イタチは四本目の団子に
手を出しながら、首を傾げる。





「なんで、見捨てなかったんですか。」





 あっさり一言。





「それって酷くない?」

「酷くないでしょう。俺ならひとまず殴り飛ばしてますけど・・・・」




 斎が頬を膨らませて反論と共にイタチの頭を軽く小突くが、イタチの目は本気だった。


 彼が師ならば本気で見捨てていると言うことだろう。

 さすがは適当で変な斎に負けない弟子である。

 言うことがきつい。





「何度見捨てようと思ったことか。だがのぅ。笑顔がなぁ・・・なわけだ。」





 自来也は悩ましげにの頭をくしゃりと撫でる。


 笑ってみろと言う意味だと勘違いしたがにこぉっと笑う。

 無邪気で可愛らしい、無垢な子供らしい笑顔。


 イタチの険しい表情が、少し和む。





「そう言うことだ。斎には悪気がないんじゃ。だからこの笑顔にわしは殴るに殴れんかった訳だ。
おまえにはこの気持ちが理解してもらえると思う。」

「・・・・・・確かに。」





 斎との笑顔に弱いのはイタチも同じである。





「それでも怒りにかられて一度殴ったんじゃが、普通の子供とおんなじように大泣きしおって、こ
っちが悪もん扱いだ。」





 斎を最初に泣かした時、綱手が隣にたまたまいて、こっちが殴られて重傷を負った物だ。

 子供だから仕方ないだろう、おまえが大人げないと怒られた物だが、こっちだって必死だったと
いうのに。

 斎の母親はぼんやりした体の弱い人で一本線が抜けていて注意しても話にならなかったし、父親
は別にそもそも斎が忍にならなくても良いと思っていたらしく、彼の素行の悪さも気にしていなか
ったようだ。

 里は斎が忍になることを望んでいたが、斎も忍として希有な才能を持ちながら、忍になる気もな
かった。


 里の意向だけで、斎は忍にされた。

 両親が亡くなったのはその後の忍界大戦だったから、ミナトがいなければ、斎は間違いなく忍を
やめて里を出ていただろう。





「それに比べては善良。まったく、本当に斎に性格が似んでよかったわぃ。」






 外見が斎に似ていることを知った時、自来也は正直性格の方を危惧したが、幸いは本当に善良
だ。





「それは、俺も同意しますね。」





 の頭をなでながら、イタチも賛同する。

 はいまいち自来也やイタチの会話が理解できずに不満そうな顔でイタチを見上げたが、イタチ
は知らなくて良いことだと説明しない。





「まぁ、僕も若い頃があったんだよ−。そして自来也先生にも敵役の着ぐるみで走ってた頃があっ
たってことだよ。」





 斎はを慰めるように笑う。





「うん。着ぐるみで走ってたのはよくわかった。」

「そこは理解しとるんかい。」





 一番理解しなくて良いところを。

 自来也が突っ込むが、はうんと頷くだけだった。





「まぁひとまず。今日は自来也先生のおごりってことで。」

「あきらめとらんかったのか。」






 とそっくりの無邪気な顔で笑う斎に自来也は項垂れる。

 もう言い返す気力もない。





「イタチ、助けてくれんか。」

「俺は団子が食べられればそれで良いですから。」





 助け船を期待したが、イタチは七本目の団子を頼むべく近くの着物姿の店員に手を挙げている。


 自来也よりもやはり団子らしい。

 イタチが育ち盛りだけ合ってなかなか大食であることは聞いていたが、本当のようだ。

 が超のつく小食であるため、イタチとがそれぞれ食事を頼み、の残りをイタチが食べてち
ょうどだ。


 イタチが団子を何本も食べる間、は串に刺さった三色団子の最後の一つをどうやって食べるか
を模索中だった。


 口にそのままたてに入れると喉に串が刺さりそうで、どうすればいいかわからないのだ。

 最後の緑色のヨモギ団子をじっと睨んでいる。

 イタチはそれを横目で見て、食べ終わった櫛を器用に使って最後のヨモギ団子を櫛の端に出して
やる。

 おかげではやっとヨモギ団子にありついた。

 ほほえましい光景に、思わず頬がゆるむ。





「ね?イタチはよい子でしょう?」

「・・・・・イタチにおまえが見捨てられんのがわしは謎でたまらんわ。」





 自慢げに腰に手を当てて主張する斎に呆れ半分で自来也は言う。


 イタチは本当に出来た弟子だ。

 遅刻魔の斎が任務がある朝には必ず斎をたたき起こして任務に連れてくると定評がある。

 彼のおかげで上忍達はかなり楽をさせてもらっている。





「父上様、イタチに見捨てられちゃうの?」





 が心配そうにイタチを見上げる。

 やはり娘の目から見ても、イタチが斎を見捨ててもおかしくない事情があるようだ。





「大丈夫だ。もしも見捨ててもはつれて行くから。」





 イタチは店員から七本目の団子をもらって一つ加えてから、安心させるようにの頭を撫でる。






「良かった、」





 が安堵して可愛らしくほえっと笑う。





「ちょっと、そこなの心配したとこは。僕じゃないの?」

「だって、父上様、見捨てられても仕方ないし。」

「酷い−。僕だって頑張ってるのに−。頑張ったのに−。」




 ばたばたと子供のようにテーブルを叩くから、間違えて店員が注文を取りにやってきてしまう。





「ご注文は?」

「え、えっとぉ・・・・」

「あ、俺団子三本追加で。」




 困る斎を横目に、イタチが次の団子を頼む。

 これで合計一〇本である。


 慌てて団子を持ってきた店員から団子を受け取りながら、イタチは涼しい顔で食べていく。

 彼はこの茶屋の前に昼ご飯を食べてきているはずだから、甘い団子を一〇本も食べて胸が悪くな
らないのかと思ったが、平気そうだ。

 むしろまだ食べれる勢いらしい。

 店員にまた、追加を頼んでいた。





「見捨てたくなるわな。」





 まだごねている斎をうざったそうに見ながら、自来也はしみじみと呟く。





「え、見捨てないよね。イタチは優しい子だもんね。」





 斎がイタチの頭を無理矢理撫でながら言いつのる。


 必死なのはやはり自分に非ががあるのを認めているからだろう。

 イタチは頭を撫でてくる斎をうざそうにしていたが、しばらく考えるそぶりを見せ、に優しい
目を向ける。





「大丈夫ですよ。ひとまず、が先生を見捨てない限りは俺、斎先生といますし。」





 がイタチに呼応するようにこくんと頷く。

 優しいは、斎を見捨てるようなことはしないだろう。




「良かったぁ。ほら、イタチは良い子でしょ?」





 斎がほっとした表情で自来也に言う。





「・・・・結局が一番ってことじゃないのかのぅ・・・」




 自来也の呟きは斎の耳には届かなかった。






( ごみをすてること いらないものをなくすこと )