シカマルら4人は奇襲を恐れてか、平地に4人で佇んでいた。

 は小さく息を吐く。




「大丈夫。」




 肩にのる淡い光を放つ蝶は、の言葉に呼応するように鱗粉をまき散らす。

 空は忌々しいほどの青空で、雲一つ無い。

 は息を潜めて、時を待つ。


 合図は、サスケだ。

 は透先眼をこらす。


 サスケが動いたのは、それから数秒後のことだった。

 一番端にいたキバに襲いかかり、キバを少し向こうに蹴り飛ばす。




「ちっ、」




 キバは何とか受け身を取ろうとしたが、後ろにいたチョウジにぶつかり、体勢を崩した。

 そこにナルトが攻撃を仕掛ける。


 ナルトがキバとチョウジを止めている間にサスケとがシノとシカマルをそれぞれ押さえる
という方法だが、ナルトでは数分しか止められずに鈴を奪われるだろう。


 この演習は殺し合いではない。

 相手を倒すのではなく、鈴を奪うのが目的だ。




「行くぞっ!」 




 は自分にかけ声をしてシカマルに肉薄する。

 回し蹴りを繰り出したが、彼はそれを後ろに下がることによって避け、彼の影がを捉えようと
手を伸ばしてくる。


 蝶がはじける。

 淡い鱗粉を飛ばした蝶は、まるで影を食らうかのように影を消していく。


 シカマルが目を見張った。

 予想外だったのだろう。


 はその隙にシカマルの腰にぶら下がって揺れる鈴に手を伸ばす。 

 シカマルははっとした顔をして、後退する。

 影の影響をどの程度自分の力で跳ね返せるかわからないので、はそれ以上深追いは
せず、間合いを取った。 


 帯につけたの鈴がチリリとなる。

 間合いは取ったが、時間はかけられない。


 ちらりと視界の端に映したナルトは苦戦しているようだったし、サスケも虫に悩まされているよ
うで、ナルトの援護に回れそうにはない。

 焦ってはならないが、冷静に対処して早く事を済ませる必要はありそうだ。


 シカマルはまだの能力がよくわかっていないようで、出方をうかがっている。

 シカマルは賢いから、あまり能力を出すのは得策ではないだろう。




「でも、術の多さではわたし大丈夫だもん。」




 はにこっと笑って見せる。

 イタチと斎、火影にも匹敵するふたりに教わった術は、を助ける。


 ちりりとまた、鈴が鳴った。




「なっ、!!」




 シカマルが咄嗟に身を引こうと躯を動かしたが、遅い。




「もーらいっ!」




 小さな手が鈴に伸びていた。

 シカマルの後ろに、楽しそうに笑っているがいる。




「分身でした。」




 前にいるがぺこりと頭を下げて、ぼんっと消える。

 蝶がいるから、シカマルは目の前のが本物だと疑っていなかった。

 だがよく考えると、彼女はシカマルの前に肉薄したが、彼に触れていない。


 本物かどうかを確かめる術はなかったし、シカマルもそうだと思い込んでいた。

 が深追いしてこなかったのは、そうして分身であることがばれる方が困るからだったのだ。




「完敗、だな。」




 シカマルはため息をついて、疲れたと地べたに座り込む。

 はすぐにナルトの援護に回るべく、走り出すが、すぐに歩を止めた。


 チョウジに上にのしかかられ、キバに鈴を取られそうになって奮闘しているナルトの姿は、いつ
も教室で喧嘩をしている時と変わらない。




「くっそー。渡せよー。」

「渡すかぁ!ぐっ、」




 比較的ふくよかなチョウジに乗られているため苦しそうだ。

 は手を出しても良いのか正直迷ったが、キバに手裏剣を投げつける。


 投げたところで、の投げる手裏剣は筋力がないせいか無様に地べたに落ちたが、
キバはナルトの上からどいた。




「シカマルの奴。あっさりとられたな。」




 ふんと鼻息荒く言い捨てて、キバは腕を組む。

 赤丸がくぅんと呼応するようにないた。




「ねー、強いんじゃないの?シカマルがやられたんだよ。警戒した方が…」

「うるせぇっ!ぐずぐず言うんじゃねぇよ。まったくっ、」




 慎重なチョウジの意見に耳を傾けるそぶりを見せず、キバは呆れたように言う。




「大丈夫?ナルト、怪我は?」

「大丈夫大丈夫。俺丈夫だからさ。」




 心配するにナルトはへらりと笑って、汚れのついた鼻の頭をこする。

 体を動かすのに少し痛そうなので大丈夫とは言えないが、それでも笑う彼は強い。

 も勇気づけられてぐっと手を握りしめる。




「いつでも来いっ!」




 キバは好戦的に笑う。

 その隣のチョウジは相変わらずおどおどとしていたが、ため息一つで覚悟を決めたようで戦う構
えを見せる。


 怖いけれど、ここで負けるわけにはいかない。

 視界の端には遠く、不安そうにこちらを見つめているイタチと母、そして笑っている父がいる。

 本当は逃げたいほど怖いけど、無様なまねを見せたくはない。


 は覚悟を決めて、二人に向き直る。

 負けられない、そう思っていると、ナルトがの手を引っ張った。




「耳貸して、」

「?」




 は首を傾げながら応じる。

 いくつか言われた作戦は、単純な物だったが、悪くはないだろう。




「こそこそしてんなよっ!!」




 キバが突進を開始する。

 はそれを土遁で止め、出来た大きな土壁の裏側でナルトに目配せをすると、ナルトはにやりと
笑った。


 もこくりと頷く。




「こんなもん避ければ終わりじゃん!」




 キバは土の壁とは別の方向から達の方に突進を開始してくる。

 それを止めようと、は手裏剣を投げつける。


 筋力がないので、ただ手裏剣は地に刺さっただけで、キバは僅かに横にずれるだけで避けた。

 は近接戦闘に弱い、焦った表情を見せると、ナルトがにやりと笑った。




「ここで俺が良いとこ見せなかったら、にかっこわるいってばよっ!」




 叫んだ彼は、キバに飛びかかっていく。

 無謀に見える突撃、

 明らかにカウンターを食らわされるのは目に見えている。




「はっ、単細胞が!」




 鼻で笑って、キバはナルトを迎え撃つ。

 ふわりと、一陣の風が二人の間を駆けていく。


 ナルトを蹴りつけたキバの足は容易く空を切る。

 キバの肩に乗っていた犬が一声吠えた。


 蹴りに勢いをつけていたキバは体勢を崩した。

 途端、キバの背後から、手裏剣が投げつけられる。




「ちっ!」




 一個目の手裏剣を何とか避けたところで、ナルトが彼を後ろから蹴り上げる。

 意味がわからず呆然としていたキバは、そのまま昏倒した。




「キバっ!!」




 チョウジの声が悲鳴のように響き渡る。

 の隣にはまだナルトがいる。


 影分身のような高等忍術を使えるのはぐらいで、学年どべのナルトが使えるはずもない。

 呆然としているチョウジに、ナルトは気絶したキバから鈴を取り上げ、にやりと笑って、の方
を指さした。


 の隣のナルトが消える。

 それでやっと気付いた。

 内緒話を終えて、キバが達の突進を開始した時、が作った土遁はナルトが手裏剣に変化する場面を隠
すため、投げられて地に刺さった手裏剣は変化したナルト自身だったのだ。




「…・・さぁて、次はチョウジだってばよ。」




 にやぁっと、ナルトは人の悪い笑みを浮かべる。

 は申し訳なさそうにキバに頭を下げて、困ったように笑う。




「降参。俺降参っ!」




 泣きそうな勢いで、チョウジがそう叫んだのは数秒後だった。













( 場所から降りること 終わること )