自由解散が始まれば、それぞれ生徒達は散っていく。

 親がいるところ、いないところ、恥ずかしがって両親のところへ駆け寄ろうとしない子供など様
々だったが、は一番に両親のところに走り寄った。




「母上様!」




 飛びつけば、蒼雪がしっかりとした様子で娘を抱き留める。




「見てくれた?わたし、頑張ったよ。」

「えぇ、見ていましたわ。成長して、」




 そっとの額の髪を撫でて、柔らかに蒼雪は微笑む。


 初めての参観日、

 は今まで外に出たことがなく、今年度アカデミーに通い始めたばかりだ。

 忍としての課題は多いが、蒼雪は娘に忍としての成長を望んでいるわけではない。

 人として成長した。


 それが蒼雪にとって何よりの喜びだった。




「見た見た、がサスケくんを殴ったところもね。」




 明るく笑いながら、斎も言う。

 透先眼でのぞき見をしていた斎はがサスケを殴ったところもしっかり見ている。


 はうぅっと怯んで、隣に歩いて来たサスケにばつの悪そうな顔を向ける。




「ごめんね。」

「いや、俺も…」




 サスケは相変わらず歯切れの悪い返事を返す。

 サスケの父親であるフガクは相変わらず硬い表情で、ミコトは素直に謝れないサスケを見て苦笑
していた。

 両親が忙しくて参観日に来ていないサクラと両親のいないナルトは、の両親にわざわざ頭を下
げるため達に駆け寄ってくる。


 斎はその姿に、楽しそうな笑みを浮かべた。




「しっかりもののサクラちゃんだね。あとはナルトくん、久しぶりだね。話はからよく聞いてる
よ。」

「あ、初めまして、」

「久しぶりだってばよ。」




 朗らかな空気の斎に呑まれて、サクラとナルトは揃って頭を下げる。

 斎は威圧感があるわけではないし、強そうでもない。


 だが、抵抗する間もなくあっさりと、人を自分の穏やかな雰囲気に引き込む。

 イタチは柔らかな空気に心地よさを覚えながら、師を眺めた。




「いやぁ、良い物を見せてもらったよ。が人に怒れるとは思わなかったな。」




 それは斎の本心だっただろう。

 人と関わらずに育ったは、あまり人ともめることがない。

 きちんと言わなくてはいけない状態になっても、何も言わないのではないかと危惧していたが、
杞憂だったようだ。

 サスケを叩いたことに関しても驚いたが、何よりも、素直に怒ったことが驚きであり、親である
斎にとっては嬉しいことだった。

 蒼雪はをもう一度きつく抱きしめると、イタチの方にを送り出し、子供達に向き直る。




「これからもいろいろあると思いますけれど、花宮をよろしくお願いしますね。」




 微笑する蒼雪は大輪の花のようだ。

 美しさもさることながら、上品だから、サクラとナルトは一瞬目をぱちくりさせてみとれていた
が、はいと慌てて頷いた。




−、よく頑張ったね。」




 斎はイタチと話していたを抱きしめる。

 頬を寄せるは、斎とそっくりだ。




「こしょばいよー、父上様ー、」

「あはは、は可愛いなぁ。」




 がむずがれば、ますます斎は悪ふざけをしてを抱きしめ、頭をなで回す。

 の抵抗はまだ可愛い物だ。

 同じことをイタチにした時は、恥ずかしさ半分で咄嗟に本気で殴られ、偉い目に遭った。

 だから、力加減と人は選んでいる。




「相変わらず独特のキャラで、斎さんおもろいな。」

「案外、お茶目だからな。あの人は。」




 ナルトがしみじみ言えば、サスケも賛同する。

 斎の変なところはギャップである。

 日頃はだらしなく、寝坊すけで、素行に問題ありだが、知識量と忍術、忍者としての技量では彼
に勝る物は少ない。




「実は、あれで口論ももの凄く強いらしいぞ。」

「斎さんが!?」

「あぁ、兄貴が言ってた。言葉巧みに人に書類を押しつけるらしい。」




 穏やかな雰囲気の斎だが、柔らかな顔で上層部を口論でこてんぱんにやり込めることで知られて
いる。

 自分のしたい議題を上層部に通したり、人の揚げ足取りなんてお手の物、

 部下や、下手をすれば火影にまで自分の書類を押しつけ、自分は寝坊するなんてことはしばしば
だそうだ。


 サスケはイタチや、父であるフガクが悪態をついているところをよく見ていた。

 まぁそれでも、なんだかんだ言って斎に強くでれないところは、反目しあっていても親子そっく
りなのかも知れない。

 その点サスケも同じである。

 斎とに弱い。




「そうだ。どうせだしサクラちゃんもナルトくんもうちでご飯食べない?夕飯、お暇?ついでに泊
っていっても良いよ。」




 を抱きしめたまま、斎はサクラとナルトに言う。




「オレ、どうせ一人だし。喜んで行くってばよ!!」

「喜んで!私も、家に連絡します。」




 サクラとナルトが二人で手を合わせて頷く。

 特にサクラはの家に来るのは初めてだ。

 里一番の名家、炎一族邸を見てみたいというのもあるが、何よりもの家に遊びに行ってみたいと思っていた。




「サスケはどうする?」




 二人の答えに満足そうな顔をして、斎は今度はサスケを振り返る。

 両親のところに駆け寄っていたサスケは両親とイタチ、そして斎の顔を見比べた。

 イタチと親との確執はサスケも知っているし、何より自分自身、イタチと確執がある。

 炎一族に遠慮のあるフガクは渋い顔をしている。


 答えを迷っていると、ミコトがぽんとサスケの肩に手を置いた。




「行ってらっしゃい。せっかくだから。」




 背中を押して、サスケを斎の方に押し出す。




「よろしくお願いします。」

「はーい。よろしくされまーす。」




 斎はに抱きつくのをやめ、気軽に手を挙げて応じた。




「良いんですか?先生。侍女達には、」




 イタチが斎の大盤振る舞いに心配そうな顔をする。

 炎一族邸では、食事は使用人が作ってくれている。

 突然人が増えては彼らだって戸惑うだろう。


 斎はおおらかだが、その代り、イタチが細かいところに気を回すのが、師弟のあり方だった。

 だが、今回は斎は元々ナルトくらいは連れて帰る予定だったようだ。




「あぁ、あらかじめ多めに作ってって、言ってあるから、大丈夫だよ。」

「そうですか。」




 斎の言葉にイタチもあっさり引き下がり、斎から離れたの手を握る。




「帰ろうか、」

「そうだね。うん。見てた?ちゃんと。」

「見てたさ、まぁ、サスケを殴ったところまでは見れなかったがな。」




 ちらりと弟に視線を送れば、ばつが悪そうに顔を背ける。

 を不安にして悪かったという気持ちはあるのだろう。

 素直ではないサスケに苦笑して、の頭を撫でる。


 斎にかき回されて髪の毛が乱れている。

 それを整えるように撫でてやると、幼い頃と同じようには喉を鳴らした。




ってイタチさんと本当に仲良いわよね。」




 サクラは手を繋いで並ぶ二人を見る。

 アカデミーでも一度見たことがあるが、やはり仲がよい。


 許嫁だと言えば、政略結婚を思い出す。

 とイタチだって政略もあるわけだが、そんなこと関係ないと思うほど互いを見る目は優し
く、恋愛事はまだ何もわからないサクラにも思い合っているとわかる。




「昔からだってばよ。」




 直接に会うことはなかったが、斎が両親のいないナルトの後見人であることから炎一族邸に出入りして
いたナルトは昔の光景を思い出す。

 イタチがいつも抱きしめてあやしていた、小さな少女。

 それはだったが、何よりもを見るイタチの柔らかい表情に驚いた物だ。




「そうだねぇ。あの子人見知り激しいんだけど、イタチには昔から懐いてたから。」




 斎が子供の会話に口を差し挟む。




「いくつぐらいで初めてあったんですか?」

「んー。僕がイタチを弟子にとった時だったから、イタチが七歳だったから…は二歳少しだった
かな。」

「そんなちっちぇえ頃からか。なんかすげぇな。」




 ナルトは並んで歩く二人をぼんやりと瞳に映す。

 そんな幼い頃から、もう10年間も変わらず想い合っているなんて凄い。

 ナルトなんて10年前何をしていたかなんて、覚えていないというのに。




ったら、イタチの方に懐いちゃって、僕が遅刻したら、イタチと一緒になって怒るんだよ。怖
い怖い。」




 斎はわざとらしく手を空にかざして首を振る。

 怖い怖いなんて言いながらも遅刻するのだから、斎の遅刻癖も酷い物だ。




「ま、いつまでもと仲良くしてやってくださいな。」




 斎はナルトの頭をくしゃりと撫でる。

 ナルトは両親の記憶がなく、家族も誰もいなかった。

 後見人である斎は特別ナルトに関わるわけではないが、たまに様子を見にきてくれたり、言葉を
かけてくれたり、修行を見てくれる。


 がアカデミーに来た時も、精一杯力になって優しくしてやろうと思った。 

 の穏やかな性格や、控えめな態度は好きだが、それだけでなく斎へのささやかな恩返しの
気持ちもあった。




「ま、君はまっすぐだから、が変わらない限り、優しくしてくれると思ってるけどね。」




 斎の、自分を信頼して向けてくれる温かいまなざし。

 それは両親のないナルトにとって、どこか家族の温もりを持っていた。







 
家族への羨望 ( すべては 血のつながりだけではない )