「…これ皮を全部むくの?」





 は目の前に並べられた山のような栗をじっと見る。




「ちょっと道のり長くない?」




 サクラが僅かに嫌そうな顔でサスケを見た。彼はあからさまな嫌な顔でため息をついた。




「さぁて!やるってばよ!!」




 やる気なのはナルトだ。腕まくりをして包丁を片手に、栗をひっつかんだ。

 というのも、言い出しっぺはナルトだった。

 秋になり、の家に大量の栗が届いたのだ。炎一族の誰かからの献上品だったらしいのだが、それをナルトが食べたいと言い出した。カカシはこれも七班の親交を深めるためだとか何とか、適当な理由をつけて全員で栗ご飯を作ることを提案したのだ。

 の家は広く、幸いなことにの対屋には使っていない炊事場もあった。

 だからみんなでわいわい秋の味覚を楽しむという方針になってしまったのだ。ことの始まりはナルトだが、ある意味ナルトも被害者である。




「良いか?まず鬼皮、要するに固い皮をむいてだな。その下にある渋皮をもう一度剥く。それを切って、水にさらすんだ。」




 の家に居候中のイタチの説明を元に、まず全員で栗の皮を剥くという地道な作業から始まった。

 ちなみにカカシはにたにたしながら見ているだけである。




「うーん。鬼皮が固くて滅茶苦茶力いるんだけど?」




 サクラが包丁を必死に小さな栗に突き立てる。




「わたしは歯も立たないんだけど。」





 と言うか刃がたたない。とがぼやく。

 は元々腕力が弱く、固いものなどを切ると言う力のいる作業に全く向かない。丸い栗は引っかかりが少なく、なんとか苦しみながらも剥いているサクラと違い、は鬼皮に刃をたてることが出来ていなかった。




、良いか、包丁の根元のとんがっているところを鬼皮にさして、一度切り目を入れてからむくんだ。」




 イタチは心配そうにの危ない手元を凝視している。




「真っ二つに最初わっちまってもいい?」




 不器用なナルトも苦労していたらしく、イタチに尋ねる。




「良いぞ。どうせ丸まま米に放り込むんじゃなくて、切るから、多少小さくなっても問題ない。」

「よっしゃ。俺は半分にしてむくってばよ。」




 イタチの許可をもらって、ナルトはまず最初に栗を真っ二つにしてから鬼皮を剥くことにしたようだ。その方が簡単かも知れないと、イタチは頷いての方を見たが、は大変なことになっていた。




、手、血!!」

「切ったぁ…」




 が間の抜けた声で主張する。

 はチャクラが多いらしく、傷の治りが非常に早い。そのため細かい傷をあまり気にしないのだが、イタチは違う。イタチが慌てて立ち上がって救護箱を取りに行くのを見送りながら、サスケの方は息を吐いた。




「この山のような栗を処理するのに一体何時間かかるんだ?」

「さぁ、みんなで3時間くらいじゃない?」




 カカシは楽しそうにお茶を飲みながら弟子たちの栗皮むきを見守っている。




「良かったな。イタチが手伝ってくれることになって。」




 にっこりと笑って言われ、思わずサスケは眉間に皺を寄せた。明らかなサスケへの当てつけである。ただ確かにカカシの言うとおりの部分はあった。

 イタチは器用だ。そのため、慣れていないサスケたちの3倍の速度で栗を処理してくれる。サクラもなかなかの動きで栗を処理しているが、はまだ一つもむけていない、ナルトも不器用なためかうまくいっていない。

 事実上人員はサクラ、イタチ、サスケの3人である。




「気をつけろ。。と言うかおまえ、もう包丁に触るな。」



 イタチがの手に絆創膏を貼りながら言う。やっぱり戦力外通告だ。

 は少し不服そうな顔をしたが、全員がの業務続行については複雑そうな視線をに送ったため、大人しくやめた。が怪我をする度にイタチが手当をしていては、イタチの手を止めて処理を遅くするようなものだ。

 結局もカカシと共にお茶のみ係になっていた。






「兄貴、良いのか?こんなところでとろとろつきあってて。」




 サスケはちらりと兄を見る。

 いつも、イタチは夕方に暗部の任務などに出て行くことが多い。だが今日は珍しくの家で待機らしい。ここで任務に出て行かれては戦力が減って困ると思ったが、イタチは栗を剥きながら頷いた。




「今日は早朝に帰ってきたから、夜の任務がなくてな。」





 早朝帰ってきたため、明日また任務はあるが、今日はないのだ。




「そういえば斎さんは帰って来るのか?」




 サスケはの父親の顔を思いだしてイタチに尋ねる。自分の師のことだ、イタチもよく知っているだろう。




「今日、斎先生は夜まで任務、のはずだ。が、おまえたちが栗ご飯を作るという話をどこかで聞いたらしく、おそらくすぐに帰って来るだろう。」




 そう言って、イタチはカカシをぎろりと睨む。

 どうやら栗ご飯の話を斎に言ったのはカカシらしい。元々サボり癖のある斎だ。おそらく努力して早く帰ってくるはずだ。誰かに書類などの処理を押しつけて。




「なら、斎さんも手伝ってくれるかなぁ?」




 ナルトは気楽に笑うが、サスケは兄と同じようにカカシを白い目で見ていた。




「うー、手が痺れてきた…」




 サクラが右手を振る。しばらくたつと、包丁を持つ右手にはペンだこのようなものが出来ていた。どうやら日頃入れないところに力を入れるため、なかなか重労働のようだ。




「…うまくむけねえってばよ。」




 ナルトは小さな塊を何とか取り出す程度で渋皮と一緒に実まで剥いてしまっていた。まともな栗ご飯を作れそうな塊を残すことが出来ていない。

 これはに続いての戦力外通告だ。

 サスケは呆れた視線をナルトに向けてから、自分の栗に目を戻す。が持っている水の入った大きなボールの中にはいつの間にか黄色く小さな塊が沢山沈んでいる。イタチは黙々と皮を剥いていたが、いい加減に飽きてきたのだろう。眉間に皺が寄っていた。





「これって、どのくらい入れたら良いの?」





 が不思議そうに小首を傾げる。いつの間にかボールが黄色い塊で埋め尽くされているが、栗ご飯を作るためにどのくらい使うのだろう。





「さぁ。」





 イタチはあっさり、至極素っ気なく返した。





「え?」








 サスケはあまりの言葉に耳を疑う。





「…兄さん、あんた、作り方知ってるんじゃ。」

「知るわけないだろ。栗の処理は森でも簡単に入る食だから知っているが、栗ご飯の作り方なんて知るわけがない。」





 要するに彼が知っていたのは栗を食べる時の処理の仕方だけで、栗ご飯自体の作り方―ここからどうするのかを全く知らないと言うことだ。





「米に突っ込んだら良いんじゃないのか?そういえばご飯に色がついてた気が・・醤油か?それともだし粉?」




 アバウトなことを言って、洗った米の中にその大量の栗を突っ込む兄を見て、サスケは若干目眩がした。

 当然できあがりは栗ご飯と言うよりはご飯栗。栗の中にご飯がある感じだった。





栗ご飯を作る会