芋掘りにかり出されたのは11月も半ばを過ぎた頃だった。
「一応ね。売り物にするから、割るんじゃないよ。」
割れてしまえば売り物にならない。カカシはスコップを持つ面々に注意をする。
「って言うか!遅刻してきて今更それはないでしょ!?」
サクラがこれでもかと言うほど声を荒げる。
集合時間9時のはずだったが、既に優に10時を過ぎている。既にスコップで掘り起こし始めているサスケたちはあからさまに嫌そうな顔をした。また、の横にはすでに割れた芋が積まれている。
「え、カカシさん。おそい。」
「いや、遅いって、どっちの意味?やっちゃった?」
カカシが来る前に既には既に掘り起こし始めており、力の加減がよく分からないこともあって、結構割れた芋が積まれていた。ただしの作業は力がないが故に遅い。
割れた芋の大半の原因はナルトにあった。彼は力も強ければ不器用で、適当に 掘り起こしたのだ。
「…まぁ、これはカカシの失敗だろ。」
サスケはクールに言った。
先に注意しなかった、カカシが悪いのだ。とはいえ、サクラやサスケとて二人に注意はした。したからと言って、出来るかどうかは別の話だが。
「私、疲れたー。」
は近くにあった切り株の上に腰を下ろす。元々体力のない彼女だ。一時間働けば既にくたくたである。
おかげで彼女が割る芋の数は減ることだろう。
対してナルトは元気が有り余っており、なおさら始末に負えない。
「おりゃおりゃ!!」
スコップで適当に土を掘り返すのは良いが、当然芋まで割ってしまっている。
「ねー、俺の話、聞いてた?」
カカシがそう一応言ってみたが、その声は彼には聞こえていないようだった。
「…寒い。カカシさん、ここ寒いよ。」
寒さに弱いは、不満そうに口を尖らせて、自分の服の袂をあわせ、風を避けるように木陰に隠れる。
炎や暑さに強いだが、寒さにめっきり弱い。最近では動きも緩慢で、冬眠し出すのではないかと思う時があるほど、家でぬくぬくしてこもりきりだ。任務がなければ、全く外に出てこない。
「わたしくまさんになりたい。」
「人間それは不可能だろ。」
サスケが突っ込むが、は木陰でくるりと丸まった。既に芋掘りの戦力になっていなかったので、芋掘りをしないのはもう良いが、このままだとが凍え死にそうだ。
サスケは仕方なく自分の青色のマフラーを外す。
「ほら、」
それをの首元に巻いた。毛皮の上着を着ているだが、マフラーはしていない。首元が冷えるから寒いのだ。
「え、でもサスケも寒いでしょ?」
は慌ててそれを返そうとする。だがサスケは首を振った。
「オレは動いているから良い。」
芋掘りを積極的に行っているので、と違ってそれ程寒さは感じていない。はぱちぱちと目を瞬かせて、にこっと笑って「ありがとう」とお礼を言った。
「別に。」
素直な礼に、サスケは思わずそっぽを向く。芋掘りに夢中なナルトとサクラは気づかなかったが、耳まで真っ赤だったことに、カカシは気づいていた。
数時間もすれば山積みにされた芋と、割れた芋が積み重なる。弁当時間を挟んで、割れた芋と売れる芋の選別に苦慮して、終わってみるとすでに3時を過ぎていた。
「この大量の芋、どうするの?」
割れて売れない芋を見て、サクラがカカシに尋ねる。
売り物には出来ないが、味はそこそこのものだろう。ただなにぶん数が多い。サクラの質問に、カカシは困った顔をした。
「うーん。どうしようかねぇ。」
誰がこんな大量の割れた芋を消費してくれるというのだ。それぞれの家族に配っても、おそらく余ってしまうだろう。
「そうだね、でも父上様、お芋好きだよ?イタチも甘いもの好きだから。」
が嬉しそうに割れた芋を抱える。
「…そうか。の家に持って行けば良いのね。」
の家は木の葉隠れの里で一番大きな炎一族宗家だ。割れた芋でも宗主が配るとなれば嫌がることはないだろうし、親族は遠縁を含めれば数百人だ。十分芋を消費できる。
「でもその前に、焼き芋でもしようか。」
カカシは立ち上がり、そのあたりの薪を集める。
「焼き芋?葉っぱでやるんじゃないの?」
は毎年庭で焼き芋をしているため、不思議そうな顔をする。
「葉っぱはすぐ火がつくけどすぐに燃えちゃうからね。」
葉っぱは確かに焼き芋をするには良いが、すぐに燃えてしまうため大量の葉っぱがいる。それを集めるのは時間がかかるため、カカシは薪を集めることにしたのだ。
「おりゃ!」
ナルトがそのあたりに落ちていた松ぼっくりを拾い上げ、サスケに投げつける。それは綺麗にサスケの頭にヒットした。
正直たいした攻撃ではない。だがサスケの怒髪天をつくには十分だったのだろう。
「てめぇ…、良い度胸じゃねぇか。」
憤りを含んだ静かな声音でサスケは言って、ナルトに思いっきり近くにあった松ぼっくりを投げつける。それからはもう乱戦だ。ナルトとサスケはお互いに松ぼっくりを投げつけあい、完全に薪集めなんて忘れている。
「もー男たちは本当に。」
サクラは呆れた顔でくだらない戦いを一瞥して、薪を拾う。
「でも、ふたりとも楽しそうだね。」
「…そう?」
「うん。すごく楽しそうだよ。父上様とイタチみたい。」
の父である斎と教え子であるイタチも、よくつまらない喧嘩をしている。だがそれは、どこか楽しそうで、は参加しないけれど、いつも見ているだけで楽しかった。
「わたしも参加しようかなぁ…」。
「、おまえはやめた方が良いよ。」
に真っ当な注意をして、カカシは薪に火遁で火をつける。
「わー火だー」
が嬉しそうにそう言って、火に近づいていく。
「きゃあ!、ちょっと、手なんか突っ込んでなにしてんの?!」
サクラがが炎に手を突っ込んで、薪の下に芋を入れているのを見て、呆然とする。
「…?大丈夫だよ?」
サクラは慌てての手を掴んだが、の手は相変わらず白くて小さい。
は血継限界が炎であるため、非常に熱に強い。火に手を突っ込んでもやけど一つ負わず、彼女は火遁の中に飛び込んだとしても、服を焼くことはあっても、彼女は何一つ影響を受けないのだ。
「だからって、手を突っ込んで芋を入れるのは…」
初めて知った事実に、サクラは呆然として言葉を失った。現実を受け入れるのは難しすぎた。
芋を掘る会